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「……アンバー男爵令嬢」
突然図書室の扉が激しく開かれたと同時に大声で私の名前を呼ぶ人物。図書室には他にも生徒がいるのにも関わらず、迷惑だとはこれっぽっちも気づいていない。一緒にいるラルフ様もさぞかし驚いているだろう。きっと彼女のような令嬢を見るのは初めてに違いない。
「もうっ!ようやく見つけました!すっごく探したんですからね!」
(頭が痛いわ……)
アンバー男爵令嬢は私のことを探していたようだが、私は彼女に会う予定など当然ない。彼女に初めて声をかけられた日以降、私はできる限り顔を会わさないように気を付けて行動しており、王城で窓から見かけることはあったが、学園ではまったく顔を会わせることはなかった。
それもそのはずで、学園はクラス毎に建物が分けられているのだ。成績が上の順からAクラス、Bクラス、Cクラスとクラス分けされ、一・二学年のAクラスはA棟、BクラスはB棟、CクラスはC棟で授業を受けることになっている。私やラルフ様はAクラスだが、アンバー男爵令嬢はCクラスだ。合同授業もないし、食堂は棟ごとにある。それに棟と棟は距離があるので、基本別のクラスの生徒とはほとんど関わることはないのだ。ちなみにシェザート殿下はCクラスだった。学園は独立した教育機関であり、たとえ王太子であろうともクラスは成績次第。シェザート殿下にとってCクラスは屈辱だっただろうが、そのお陰?でアンバー男爵令嬢と出会い仲を深めていったのだ。私が二人の関係を知るのが遅くなったのにはこういった事情もあった。
そういうわけで普段の学園生活では顔を合わせることはない。ただ図書室だけは学園内にある独立した建物なので、どのクラスの生徒も使用することができる。だから顔を合わせる可能性はあったが、調べてみると彼女は入学してから一度も図書室を利用しておらず、二学年になってからは学園が終わるとすぐに王城に行っていたので大丈夫だと判断していたのだ。だから卒業を控えたこのタイミングで顔を合わせることになるとは予想外だった。
彼女は何も考えず、思ったことを口にしてしまうお花畑思考の持ち主だ。ここには他の生徒もいるし、なによりラルフ様もいる。他国の人間に王太子の恋人の存在など知られてもいいことなどない。きっと彼のことだから知ってしまえばひどく心配するだろう。だから余計なことは言わないでくれと願うも、その願いはすぐに崩れ去ることになる。




