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「ルーシェント嬢」
授業も終わり帰る準備をしていると、横から誰かに名前を呼ばれた。あの留学生だ。何か私に聞きたいことでもあるのだろうか。この後城で仕事をしなければいけないのだが、いつでも声をかけてくれと言ったのは私だ。だから本当はとても急いでいるが、そんなことを微塵も感じさせないようにこやかに応えた。
「どうされましたか?」
「あの、もしよろしければ図書室の場所を教えてもらえませんか?」
「図書室ですか?」
「はい」
図書室は教室からかなりの距離がある。時間がある時なら喜んで引き受けるのだが、今日は溜まっている仕事を急いで処理しなければならない。王家から怪しまれないよう、なるべく今までと変わらぬ生活を送るようにしているのだ。
(どう断ればいいかしら。忙しいからというのもなんだか感じ悪いし)
「えっと……」
「……実は僕、皇宮文官を目指し」
「案内なら任せて!」
留学生から皇宮文官という言葉を聞いて、もしかしたら色々話を聞けるかもしれないと思い、咄嗟に引き受けてしまった。
(まぁ、優先するべきことはその場その場で変わるものよね!)
留学生は帝国から来たと言っていたので、私より皇宮文官について知っていることは多いはず。早速案内しようと思い留学生の顔を見ると、驚いた顔をしていて私はハッとした。
「あっ……!ご、ごめんなさい」
相手の話を遮るのはマナー違反だ。それにも関わらず、浮かれていたからといってこんな初歩的なミスをするなど恥ずかしい。きっと留学生も気分を悪くしただろう。
(ああ、せっかくの機会が……)
心の中で自身の不甲斐なさを嘆いていると、目の前にいる留学生の口からクスリと笑い声が聞こえた。
「クスッ。どうぞお気になさらず。……それよりルーシェント嬢は皇宮文官に興味が?」
どうやら目の前にいる人物は寛大な心の持ち主らしい。
「あ、ありがとうございます。最近興味を持ったのですが、あなたさえよければ案内しながら話を聞かせてもらえないかしら?」
「もちろん構いませんよ」
「わぁ!ありがとうございます!」
嬉しさから自然と笑顔がこぼれる。なんだか夢に一歩近づいた気分だ。
「……」
「あの、どうかしましたか?」
「……いえ。あ、そうだ。ぜひ僕のことはラルフと呼んでください」
「いいのですか?」
「ええ、もちろんです」
「では私のこともリリアナと呼んでください」
「わかりました」
「それじゃあよろしくお願いしますね、ラルフ様」
「こちらこそよろしくお願いします、リリアナ嬢」
当然この日の仕事は押しに押し、徹夜する羽目になったが、とても有意義な時間を過ごすことができた。ラルフと話す時間はとても楽しく、気づけば学園でいつも一緒にいるようになったのだった。




