第73話 迫る戦い
「イルミンズールを解放してから、ボイオカッセやドラクル領を中心に、ノドの侵攻から逃れた難民が10万人近く。この機に勝ち馬にに乗りたがっている傭兵団、ノドに反抗する貴族達と手勢。合わせて12万人近くが、このイルミンズールに集まってきています。引き続き、彼等を受け入れる為のインフラ整備を続けています」
カインが、ルイーズに説明する。
二人は、イルミンズールに建築された新しい街を視察していた。
人気の無かった白い街は一変し、多くの人々で賑わっていた。
「少なくてもいい、志願する者の中から実力のある者を集めて兵として訓練しろ。充分な報酬と装備を与えよ」
ルイーズは、カインに指示する。
「アールブも、数千ですが強力な配下を連れてきています」
カインは、言った。
「そうだったな」
ルイーズは、強めに肘でカインの脇腹をこづいた。
「…」
苦笑いをするカイン。
「SAバヤールを50、その廉価盤SAウォーホースを200、準備中です。数日中には、配備出来るでしょう。新造の空中巡洋艦3隻については、後2ヵ月はいただきたい」
カインは、装備の生産状況を説明した。
「バヤールは、新編成する従魔のヴァルキリー部隊に集中して配備する。後は、一般の兵に与えよ」
ルイーズは、カインと新造の装備について打ち合わせる。
「それにしても、宣戦布告が早かったのでは?」
カインが、ルイーズに言った。
「旗を上げなければ誰もついてこない。多くの領土を簒奪するには、強力な兵だけでなく、民の数が必要なのだ。領土の維持の為には、さらに兵を集めねばならん。その為には、早いに越した事はない。黙っていれば、ノドは、どんどん領土を広げて固めていくだろう」
ルイーズは、早い宣戦布告の意味をカインに説明した。
「あなたの目的を実現するのが軍師としての仕事です。仰せのままに」
カインは、軽く頭を下げた。
「ガンスミス、イラド、よく参った」
ノドの城の大広間、王座に座るモリガンの前に、ガンスミスとイラドが膝まづいている。
「ガンスミス、迫るルイーズの一味との戦いの前に、装備の生産はどうなっている?」
モリガンは、ガンスミスに尋ねた。
「モリガン様とアンジェリカに献上した、高出力、超高速SAサフロン。イラド殿のSAシュワルツリッターの元に、幹部クラスの方に広く使用していただける機動性と火力を両立したSAを開発いたしました」
ガンスミスの横に、彼の部下が1体の紫色のSAを台車に載せて運んできた。
下に着る鎧の装甲を活かすようなフォルムで、要所に厚い装甲が追加されている。
シュワルツリッターに似た大きなコンバーターを背中に持ち、各部に武器を収納する武器庫が少な目に取り付けられている。
腕の部分のミサイルポッドが目立つ。
「SAハイドランジア。機動性、火力、装甲、全てが高いレベルです。特に、シュワルツリッターで装備しました、魔力が低い者でも高出力が出せる魔力ブーストシステムを装備しているところが特徴です。このシステムは、強力すぎて心配になるほどでして…」
ガンスミスは、新型SAの説明をしながら、最後は言葉を濁した。
「つまり、まだ安定しない。破損の危険もあるという事だな」
モリガンは、冷ややかな目をガンスミスに向けた。
「もちろん、モリガン様のサフロンには魔力ブーストは装備されておりません。あくまで魔力の低い未熟な者に起こる事故で、幹部の方に限って、そんな無理な使用はなされないかと。もちろん、2倍程度までなら、魔力の高い方でも高出力化が可能でございます。これを着用出来る資格のある方には、メリットしかないでしょう」
ガンスミスは、弁明した。
「まあよい、分かった。期待しているぞ。それならば、私のサフロンにも装備しておけ。アンジェリカが裏切った以上、同じSAでは役不足になるかもしれんからな」
モリガンは、今回の戦いがギリギリのものになると覚悟していた。
多少のリスクは許容するつもりだ。
「了解いたしました」
ガンスミスが、深く頭を下げる。
「量産用のSAの製造も急げ」
モリガンは、ガンスミスに指示する。
「はっ、ハイドランジアの量産用、SAラナンキュラス、全力で生産しております。生産に魔法を使う事で大幅に納期を短縮しています。数日中には、数百が納品可能かと。他の一般兵器の生産も急いでおります」
ガンスミスが、そう言うと、部下が、もう一体のSAを台車に載せてもってきた。
ハイドランジアを少し細身にした、オレンジと赤のSAだ。
装甲や武器庫は、さらに控えめになっていた。
しかし、腕のミサイルポッドは、同じものが装備されている。
「今回からが、本格的な近代戦の始まりだ。期待しているぞ」
モリガンは、淡々と言った。
「次にイラド、カインが生きていた以上、本来ならお前は用済みなのだが、その実力、惜しい。引き続き、この私に仕える覚悟はあるか?」
モリガンは、イラドに問うた。
「はっ、ありがとうございます。私の覚悟は、ここに」
イラドが、ガンスミスの方を向くと、ガンスミスはモリガンにボタンの付いた小さな箱を差し出した。
「イラド殿はSAの装着だけでなく、自身を改造しております。このキルスイッチは、いつでもイラド殿を活動不能にする事が可能です」
ガンスミスが、箱の説明をする。
「よかろう。この私は、言葉は簡単には信用しない。利用価値がある事を自身で証明せよ。ルイーズ一味に対して一番槍は、お前に任せよう」
モリガンは、箱を受け取った。
「ありがたき幸せ、このイラド、ルイーズとの再戦を夢見ておりました。それが実現するならば、カインもろとも討ち取ってご覧にいれます」
イラドの兜の中の赤い光が、ギラギラと燃えたぎっている。
「その意気やよし!!騎士と武人としての誇りを取り戻してみせよイラド!もし、ルイーズの首を取る事が出来れば、ノドの幹部に呼び戻してやる!」
モリガンは、立ち上がって後ろに立て掛けてあった槍を一本取ると、それで地面をドンと叩いた。
「はっ!」
イラドは、深く頭を下げた。




