第48話 悪役令嬢は絶世の美女
サンシール一行は、トゥールラの港町を見渡せる丘まで到達していた。
小高い丘の下には、人口数千人規模の港町が見えている。
その周辺には戦火を逃れたボイオカッセの人々が集まり、野宿生活を余技なくされているようだった。
その数は、本来の人口の数倍に達している。
「なんとか、到着前に89Lvまで到達した。毎夜、寝ずに訓練した努力の結果だな」
一行の先頭に立つサンシールは、街の窮状を見て話題を変えようと横に立つウェリオに言った。
「いいえ、サンシール様こそ、お疲れでしょう。私の為に貴重なアイテムを使い、毎晩お付き合いありがとうございました」
ウェリオは、輝いた瞳でサンシールに感謝を述べる。
「89Lv以上は、ゲーム内の様に何か特別な条件をクリアしないとレベル上限が外れないのか、あるいはプレイヤーキャラでない者の限界なのか?とにかく、今の我々にはどうしようもないですね。経験値ブーストアイテムも手持ちは使い切ってしまいましたし」
モーギスが、言った。
『あの女、サンシール様に色目を使って!許さん!絶対殺す!』
アンジェリカは、ウェリオ達を見て個別チャットでウルベルトに悪態をつく。
個別チャットは、視界を残しても使えるのだ。
『いやー、殺せっていうなら、すぐ殺してあげるけどね』
ウルベルトは、面倒くさそうに言う。
『駄目よ!私がサンシール様のハートをゲットして、あの女に泣きを見せてからでないと我慢ならないわ。私が色恋沙汰で、あんなダサい芋娘に負けるなんて認められない!』
アンジェリカは、ウルベルトの提案を否定した。
『まあ、それは俺も同じだから分かるけどね』
ウルベルトは、サンシールをチラリと見て言った。
「とりあえず、この港町の領主のところに参りましょう。船の手配を頼まなければ」
アンジェリカは、サンシールとウェリオの間に割って入って言った。
「というわけで、この二人の貴族の娘をアルビオンに送ってもらいたいんだ」
「はあ、しかし、アルビオンはガリア地方からの全ての渡航を拒否している状態でして。ノドとの戦争が終わるまでは、どうしようもなく」
領主の家に着いたサンシールは、さっそくウェリオとアンジェリカの渡航交渉を始めたが風向きは悪い。
痩せた領主の顔色は悪く、疲労が濃く見える。
戦争を理由にアルビオンは、航路を封鎖しているようだ。
「領主様、お願いでございます。どの様な方法でも構いません。なんとかアルビオンに向かう船を用意いただけませんか?このアンジェリカ、何でもいたしますわ」
アンジェリカは、すっとサンシールの前に出ると、領主に懇願した。
すると、領主の顔に血の気が戻り、何とも柔らかい表情になる。
「おお、なんと高貴で美しいお嬢さんだ。この様な方を戦火に晒すわけにはいかない。それならば、傭兵団の船を紹介いたしましょう。彼等ならば、多少の荒事も引き受けます。高いものにつくとは思いますが」
領主は、傭兵団の船の紹介を約束した。
「どういう事だこりゃ。彼女、何かしたのか?」
サンシールは、驚いた顔でモーギスに聞いた。
「いいえ、何もしていませんよ。ただ、彼女の容姿や立ち振る舞いが、あまりに魅力的なのです。おそらく、魅力の能力値が通常のMAXを越えてます。絶世の美女ですよ。気がつかなかったんですか?」
モーギスは、呆れ顔で言った。
「いや、まったく気がつかなかった」
サンシールは、驚いた。
『極端に鈍いのは現実世界と同じですね。まあ、簡単に篭絡されないのは、いい事ですが。こんな娘が、ただの現地人には思えませんし』
モーギスは、心の中で思った。
「いやー、ありがとうアンジェリカ。おかげで助かったよ」
港の外れの倉庫に向かうサンシール一行。
サンシールは、さりげなく横を歩くアンジェリカに言った。
「ほほほ、サンシール様の為ならば、たやすい事ですわ」
アンジェリカは、満足気な笑顔で言うと、チラリとウェリオの方を見た。
「…ありがとうございます」
ウェリオは、ちょっと不満げに言った。
「ところで傭兵団というのは、冒険者の様なものですか?」
モーギスは、ウェリオに尋ねた。
「冒険者とは何ですか?存じ上げませんが。傭兵団は、金を貰って戦争や護衛を引き受ける者達です。暇な時は盗賊団に変る者達が多いので、あまり好かれてはいません」
ウェリオが、説明する。
どうやら、この世界にはゲーム的な”冒険者”という職業は存在しないらしい。
町はずれの巨大な倉庫の前に一行はやってきた。
「やはり、ここでしたか」
倉庫の前で、ウェリオは、すっと前に出た。
「たのもー!!金の薔薇が来た。開けてくれ!」
ウェリオは、自分を金の薔薇と呼ぶと、大きな声で開門を要求した。
倉庫の大きな扉が開き、中に、あの闘技場に襲来した飛行巡洋艦が姿を現す。
「ウェリオ副団長、お久しぶり。飛行巡洋艦グレイオウル、整備完了してやすぜ」
いかにも荒くれ者といった風体の武装した数人の男達がやってきた。
先頭の男が、ウェリオに声を掛けてくる。
「最初から船は用意していたのか」
サンシールが、言った。
「はい。ここは、私とパラワン先生の傭兵団の隠れ家の一つ。この船は簡単には見つからないのですが、大事をとって隠してあったのです」
ウェリオは、答える。
「はあ、あてがあるなら最初から言いなさいよ!」
アンジェリカは、ぷーっと膨れた。
「すいません。サンシール様が船を用意しようとして下さるのが嬉しく、言い出せなくて」
ウェリオは、もじもじしながら言った。
「私が馬鹿みたいじゃない!」
アンジェリカは、プイっと横を向いた。
「いや、ありがとう。あの時は、頼もしかった。君は、絶世の美女なんだね。見直したよ」
サンシールは、アンジェリカの手をとりフォローした。
「サンシール様…」
アンジェリカは、うっとりとした目でサンシールを見つめる。
『こいつ、自分のやってる事の意味が分かってないな』
モーギスとウルベルトは、お互いの顔を見て、サンシールに同じ事を思った。
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