第38章 アルビオン
「目を覚まして下さい、ルイーズよ」
ルイーズは、誰かに声を掛けられ目を開ける。
彼女は、石の祭壇の様なところに寝かされていた。
視線の先には、荘厳なステンドグラスで彩られた天井が見える。
「ここは、赤竜王の大聖堂?」
ルイーズは、ゲーム内のキャラクターのBADステータスの治療や死亡状態を回復させる施設の一つを思い出した。
ここは、秩序-善の中心都市、アヴァロンにある赤竜王の大聖堂に思えた。
だが、ステンドグラスのデザインが記憶のものと違う。
竜の絵柄から、天使が描かれたものに変っていた。
「あらら、残念だけど、今は違うのよ~。アルビオン・カテドラル聖マリア大聖堂って名前に変更されちゃってるの」
先ほどの声の主が、横たわるルイーズを覗き込んで言った。
司教の恰好をした20代後半、紫の髪をアップにした美しい女性が笑っている。
背中には赤く小さい蝙蝠の様な羽根、お尻からは赤い立派な爬虫類のしっぽが生えている。
「赤竜王の化身、アドラか」
ルイーズはゲーム内での、この大聖堂の主の名を出した。
「なんでか今は、この大聖堂の大司教アドラって事になってるけどね」
アドラは、不思議そうな顔をする。
ゲームの中では、彼女は最強のドラゴンの一人であり、イマジン有数の強力なボスNPCだった。
アヴァロンの大聖堂の主で、属性に関わらず訪れた者のBADステータスをゲーム内通貨で治療してくれる、ありがたい存在でもある。
普段はドラゴンの姿を隠し、大聖堂で治療を行っている。
「という事は、もしかして、この地の名もアヴァロンではなくなっているのか?」
ルイーズは石の祭壇のようなところから降りた。
石の祭壇の様なベッドは、ゲームではBADステータスを受けた者を治療する台だった。
ここに横たわり、NPCであるアドラの治療を受ける。
アヴァロンは、ゲーム内の秩序-善のキャラクターの中心都市であり、赤竜王の大聖堂の所在地だった。
「そう、ここはロンディニウム。ハイエルフと人間、獣人達の連合国アルビオンの首都さ」
大聖堂の大きな門が魔法の力で開き、一人のGM、メルリヌスを迎え入れた。
「あら、メルリヌス様。お久しぶりです」
アドラが、笑顔でメルリヌスを迎え入れる。
「やあ、アドラ。相変わらず美しい。君に会えて嬉しいよ」
メルリヌスは、ニコニコ笑いながら二人に近づいてくる。
「セクハラゲームマスター…」
ルイーズが、うんざりだという顔をした。
「おいおい、自分の属性のゲームマスターに対して、その態度はないだろう。つれないねえ」
メルリヌスは、表情一つ変えず、笑顔のままだ。
「秩序-善のゲームマスターが、何故、自分の街を放棄しているんだ?」
ルイーズは、メルリヌスに尋ねた。
「本当の秩序と善は、そこに住むものが作り出すものだろう?私達ゲームマスターは、それを見守るだけだ。この地も、沢山の勢力が栄枯盛衰を繰り返し、今の状態になった。それを尊重しているだけさ。人の信じる神が変われば、私達の方が変化する。ただ、これは私の考えであって、ゲームマスター達は、それぞれ別の考えを持っているようだがね」
メルリヌスは、真面目な表情になって言った。
「聞けば、やはり秩序-善とは思えないような話だ。我々と違い、あなた方は元の人間の思考のまま転生しているのだろうな。データから生まれた者とは違う自由さを感じる」
ルイーズは、少し考え込んだ。
「あなたは、この世界でも有数の実力者だ。アルビオンの姫が、会見を望んでいる。来てくれるかな?」
メルリヌスは、言った。
「この地に来たのならば、それが礼儀というものだろう」
ルイーズとメルリヌスは、お辞儀をするアドラを背に大聖堂の外に一歩を踏み出した。
大聖堂は、少し高台にあり、白い石造りの立派な都市を見下ろす事が出来た。
街の中心には、白い中世風の城が、そびえている。
尖った耳のハイエルフ達、人間、獣の耳や角を持つ獣人達。
街は沢山の人で賑わっている。
その人々全てが、高い能力を秘めているのを感じる。
「これは…」
ルイーズは、彼等のポテンシャルを感じて、目を細めた。
「彼等の能力に驚いただろう?全ての民が、かつてエウロパ大陸西方を席巻した、プレイヤーキャラ達が作った超大国と、この地に舞い降りたプレイヤーキャラ達の末裔だ。残念な事に、この地にいた原住民は全て駆逐されてしまった。そして、この地に新しい宗教、秩序が生まれた」
メルリヌスは、目を伏せる。
二人が高台から街の中心に向かう道を歩いていると、一台の立派な四頭立ての白い馬車が止まっていた。
馬車の横に立っていた衛兵が、お辞儀してくる。
「お乗りください」
衛兵の一人が、馬車の扉を開け、二人に乗車を促がしてきた。
中には、白に銀糸混じりのロングドレスを着た、20代くらいの美しい女性が座っていた。
長い金髪と碧眼、長い耳を持ったハイエルフの女性だ。
頭には、控えめのティアラが光っている。
「この様な形での会見になった事を許してほしい。私は、現国王の妹、メアリー」
二人が場所に乗り込み、女性の前に座ると、彼女は口を開いた。
「ノドの城から遥か北東に、太古の昔から巨大な白い塔が立っているという伝説がある。近年、その伝説の地の近くに天翔ける船が現れ、かの地に国を築きつつあるらしい。メルリヌス様から、あなたがその地の王であるプレイヤーキャラと聞いた。あなた方の武力は理解している。我々は、無用な争いは好まぬ。出来れば、アルビオンに対して不可侵を守っていただきたい」
メアリーは、ルイーズに頼んだ。
「今ここで確約はしかねる。私は、その勢力の事も、あなた方の国の事も理解していない。その状況では、条約は結べない」
ルイーズは固辞した。
「そうですか。ならば致し方ない。しかし、同じ秩序と善を守る者として、争わずに済む事を祈りましょう。あなたの転移魔法はメルリヌス様の力により、既に、その地へ行けるようになっているはずです。ルイーズ王に幸あらん事を」
メアリーは、そう言った。
「面白い。では、あの懐かしい塔に行ってみるとしよう。蛇が出るか鬼が出るか、何者が我が塔の地を占拠しようしているか見極めてやろうではないか」
ルイーズは、不敵に笑った。
「最後にルイーズ殿。ノドのあるエウロパ大陸ガリアの地のどこかで、ウェリオというハーフエルフの少女を見かけたら、助力してやってほしい。あれは我が不義の子。噂では、ノドに反抗する地下活動を行っているらしい」
メアリーは、ルイーズに懇願した。
「私が、その娘を気にいったらな。復活を感謝する。さらばだ姫よ!」
そう言うと、ルイーズの姿は光になって消えた。
「あなたも昔は、やんちゃな姫だったが、娘も相当なものらしいな。」
メルリヌスは、言った。
「あの方は、助けてくれるでしょうか?」
メアリーは、心配そうな顔をする。
「さあ?そもそも初対面で、大した恩も無い。引き受けるかは分からんよ。逆に、あなたの娘がどう関わるのかで決まるだろう。ガリアは、これから戦乱が拡大する。必ず関わる事になると思うよ。ルイーズの本質は善性。悪いようにはならないはず」
メルリヌスは、そう言った。
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