第35話 リポップポイント
「回避時間!」
カインは、ルイーズの突撃に対してエピック呪文を発動する。
一瞬、彼の体が停止した様に見え、ルイーズはその姿を素通りした。
これは、自らを短時間、別次元に移して攻撃を回避する呪文だ。
「ほう、この世界でも作用する次元移動系魔法があるのか」
ルイーズは、言った。
「時間圧縮」
カインが、自らが持つ最も強力な加速効果を持つエピック呪文を発動する。
「悪の復讐攻撃!」
彼は、やや長い詠唱時間を加速呪文で圧縮し、相手を大ダメージを与え、死亡した場合に真の復活以外での復活を不可能にするエピック呪文を放った。
「アテナの盾、イージスよ!その力を示せ!」
ルイーズが、自ら持つ盾を掲げる。
カインの魔法が反射され、彼に命中する。
「ぐふぅ」
大ダメージを受け、少し屈むような体勢になるが、なんとか耐えるカイン。
みるみるうちにHPが回復していく。
融合した現魔によって、常時回復フィールドが形成されているようだ。
「アテナは、魔法反射特性を持つ現魔。私と融合しなければ、あるいは自分の現魔を残していれば、引き離して私を魔法攻撃する事も出来ただろう。しかし、融合してしまえば、この戦闘中は私を魔法で倒す事は出来ない。魔法系の、お前には勝ち目は無くなったのだ。降伏しろ。そうすれば、楽に向こうに戻してやる」
ルイーズは、カインに降伏勧告を行った。
「ふん、私の力は魔法だけではない。地獄に落ちるがいい!」
カインは、インベントリから怪しげなランプを取り出した。
その光の中に、多数のフィーンド達の蠢く地獄が映し出され、ルイーズを引きずり込もうとする。
「ミスティックアイテム、アルハザードのランプ。対象をフィーンドが溢れる地獄に封印し、1週間戻れなくする。その間に死亡する度に1週間延長される」
カインが、ランプをルイーズに向かってかざすと、ルイーズを引き込む力が強くなった。
「次元停止!」
ルイーズが、次元移動禁止効果のある魔法を発動した。
白い光の鎖が、ルイーズの体を固定し、ランプの力を打ち消す。
「随分優しいじゃないか!次元封印系のアイテムは、効果は恐ろしいが、対処法は知れ渡っている。PVP(プレイヤー対プレイヤー)で使えるものじゃないぞ。やはり、お前は勝つ気がないのであろう!そもそも、この世界では次元移動能力に制限があるようだ。成功しても、どこまで効果があるかは不明だろうに」
「ならば、力押しだ!今の私の近接戦能力は、お前に引けを取らぬはず!」
カインが、その巨体をルイーズに向けて突進させる。
フェンリルの右腕と、肩から伸びるファフニールの頭部が、金切り声を上げる。
「これで終幕だ!」
ルイーズが銃剣を前に構え、カインめがけて飛んでいく。
「これが、最後の奉仕にございます。どうか我々の事など構わず、カイン様の思う通りに生きて下さい」
そのルイーズの前に、両手を広げたドレス姿のルルワリリスの幻影が現れ、ルイーズの銃剣を、その身に受ける。
ルルワリリスの幻影は、最後の言葉を残して消え去る。
「何故だ!何故、ここに!」
カインは、そう言いながら、勢いを失ったルイーズに激突する。
フェンリルの右腕が、ルイーズの胸に突き刺さり、背中まで貫通する。
「ぐふっ!やっと、お前を捕まえたぞ。さあ、我々のいるべき世界に戻ろう」
ルイーズは、血を吐きながら言った。
その手に何か球体の機械が握られている。
ルイーズが、カインと対決する直前。
尋問を受けていた自衛隊基地。
ルイーズは突然、拘束を解かれて別の部屋に連れていかれた。
「ルイーズさん、私の妻が申し訳ない事をした」
そこには、湯沢とエーテル体のソフィア、デイジー陽子が待っていた。
「どうせ、あの男が暴れまわっているから解放されたのだろう。あれを止められるのは私しかいない」
ルイーズは、淡々と言った。
「うむ、察しの通りだ。そこで、ソフィアさんと私で、君達を元の世界に戻す方法を考えた」
湯沢は、いつも通りの早口で答える。
「結論が早いのは助かる」
遠回しの言い方しかしないソフィアを横目に、ルイーズは湯沢を褒めた。
「私の今の能力でも、あなた方の元々持っていたゲーム内能力を呼び覚ます事は可能です」
ソフィアが、スタッフを掲げると、ルイーズの中で無効になっていたゲーム内機能が一つ回復した。
「これは、リポップポイントの指定!こんなものがあった事すら忘れていたぞ」
ルイーズは、キャラが死亡して復活した時に送られる場所の指定機能が復活している事を確認した。
「世界のリアリティを上げる為に、我々9人のGMの間で機能停止が約束されていたのです。復活の際は、全ての能力で同じ場所に復活するようになっていました。しかし、この非常事態。現実世界を守る為には、リポップポイントの回復が必須。どう機能するか分かりませんが、うまく行けば、あちらの世界に戻れるはずです」
ソフィアは、言った。
「ならば、私とカインが死ねば、あちらに戻れるのか?」
ルイーズが尋ねる。
「いや、それだけでは可能性は低い。他の魔法などでも戻る事が出来ないだから。そこで、このフォトン粒子フィールド発生装置の出番というわけだ」
湯沢は、手のひらに乗るくらいの球体の機械を取り出した。
「このフォトン粒子フィールド発生装置を使えば、半径数mの範囲のエーテルの動きを停止させる事が出来る。ソフィアさんとデモゴルゴンとやらがエーテル体として、この世界で存在しているという事は、おそらく次元移動を制限している力もエーテルの影響のはずだ。エーテルでしか、向こうの世界と、こちらの世界が干渉出来ないのだからな。どの様な作用であれ、エーテルを遮断すれば解放出来るはずなんだ」
湯沢は、自信ありげに言った。
「なんだか胡散臭いが、半径数mの範囲に私とカインがいる状態で、この機械を作動。なおかつ、相打ちにならなければいけないというわけだな」
ルイーズは、湯沢から球体を受け取ると、それを見つめながら言った。
「信じるも信じないも、あなた次第。やりますか?やりませんか?」
湯沢が、言った。
「やるさ、私は決断が遅いのは嫌いなんだ」
ルイーズは、そう言った。
「自分自身に言うのも変なんだが、出来れば、この世界の人間達を救ってやってくれ」
背を向けて部屋を出ようとするルイーズに、デイジー陽子は言った。
ルイーズは振り向かずに部屋を後にし、自衛隊と共にカインのいる場所に向かった…。
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