第20話 白百合の花園にて
「いいだろう…」
一考の後、ルルワリリスが口を開いた刹那。
彼女の視界に、どこまでも続く白い百合の花園が広がった。
「これは!?奴の作りだした異界か!」
ルルワリリスは、身構える。
「ようこそ、我が花園へ」
百合を搔くように、ルイーズがルルワリリスに向かって、ゆっくりと歩いてくる。
全身に白いタキシードをまとい、背中には銀色で裏地の赤いマントを揺らめかせていた。
腰には、ガンベルトが巻かれている。
左には黒い短銃身の単発拳銃、右には3つの銃身を持った黄金の拳銃がホルスターに収まっている。
『あれが、奴の魔法と物理ダメージー100%装備!見た目は、まったくそんな風には見えないが、イマジンは装備の効果を合成で別の見た目の装備に移せるからな』
ルルワリリスは、目を細めて推察する。
「心配せずとも、異界のバフやデバフ効果は無効にしてある。それで勝敗が決まる事は、私の善性が許さん。元の世界の私なら、こうはしなかったのだがな」
ルイーズは、優しく笑った。
「信じよう。ここまできて何があろうと同じ事だからな。改めて言う!貴様の挑戦を受けよう」
ルルワリリスが、決闘を承諾した。
「それでは、この花が地上に落下した時が決闘開始の合図だ」
ルイーズは、そう言うと、白い百合を一本手に取って空中に放り投げた。
永遠とも思える数秒間が始まる。
彼女は、花を投げると、両手をホルスターに伸ばし、早撃ち(ファストドロウ)の体勢を取る。
『詠唱時間をキャンセル出来る魔弾使いの魔法発動スピードは、魔法系最速。しかし、あの装備で、その速度で発射出来るのは4発まで!3発のデバフで私の防御力を下げ、必殺の弾で倒しにくるはず。しかし、その対策装備は万全。少々のデバフでは崩せない!抵抗して、即反撃。二匹の蛇でデバフをかけ、温存していた我が最強のエピックマジック、応報の電撃で終わりだ。この呪文はカウンターで即発動可能だ!』
ルルワリリスは、ルイーズの攻撃を予測する。
二匹の蛇と彼女が、それぞれ別の魔法発動の為の、詠唱と集中を開始する。
ルイーズが、素早く二丁の拳銃を引き抜くと、まず黒い単発拳銃から発射された魔法がルルワリリスの心臓のあたりに命中する。
星の様な形の赤く光るマークが刻まれる。
『これは、魔弾使いのデバフ魔法”星の傷”。これで通るダメージは1%でしかない。予想通りだ!』
ルルワリリスが、そう思った次の瞬間、ルルワリリスの胸に風穴があく。
『馬鹿な!?たった1%のダメージで何故!?』
SAが破壊され、意識を失ったルルワリリスの体が地面に倒れ込む。
「お前が知っているイマジンの最高ダメージは基本9999。それを限界突破装備で3万まで上げられるのは知っているだろう。しかし、最後のVerで限界突破で最高99999まで引き上げられたのだ。この装備は、その限界突破ダメージを最高まで引き上げるものの一つ。その最高ダメージの攻撃魔法、天の火矢を3発叩きこんだ。ボスモンスターならともかく、プレイヤーや従魔のHPでは耐えられまい」
倒れるルルワリリスに、ルイーズは言った。
「…」
意識を取り戻したルルワリリスが目を開くと、彼女はルイーズによって上半身を抱きかかえられ、地面に横たわっていた。
ルイーズの異界ではなく、元のノドの城の領域に戻っている。
彼女は、全身が麻痺して動けない。
「すまんが、課金の拘束アイテムでしばらく動けなくしてあるぞ」
ルイーズは、ルルワリリスに優しく話しかける。
「蘇生アイテムがパッシブ発動したのか?何故だ!?それを止める手段も持っておろうに。何故、封印しなかった?」
ルルワリリスの傷は、完全に回復している。
「元の世界の私なら、即そうしていただろう。しかし、何故だろうな?この世界では私の善性がそれを許さなかった。私に、少しでも後ろめたい気持ちでもあったのだろう」
ルイーズは、ルルワリリスの問いに答える。
「モーギス!」
ルイーズは、モーギスを呼ぶ。
意図を察した彼が、ルルワリリスの手にエノクの魂の封印された黒い宝石を握らせる。
「ここまでの屈辱を与えるとは。永遠の死よりも苦しいぞ…。それに、あの方は私を許してくれまい。これ以上の絶望があろうか?」
ルルワリリスは涙を流しながら訴えた。
「そなた達が城の全ての軍勢を使っていなかったのは明らか。自分達の手勢だけで正々堂々勝負したのだろう。これは、そんなお前達を称えただけの事だ」
ルイーズは、そう言うとルイーズを地面に横たえて立ち上がり、その場を去る命令を全員に発しようとした。
その時、轟音と共に、ルイーズ達の上空に巨大な物体が転移してくる。
先日搭乗した飛行巡洋艦とは比べ物にならない巨大さで、全長700mはある。
まるでヒトデの様な形をしており多数の砲で武装された姿は、空中に浮かぶ要塞の様だ。
「あれは、ノドの旗艦。航空戦艦アバドン…私もあなたも、もうお終いよ」
ルルワリリスの口から、弱弱しく声が漏れる。
アバドンの下部から、カインとワーキンがゆっくりと降りてきて、空中で静止する。
「エノク、ルルワリリス…そうか」
カインは、素早く妻と娘の状態を感知魔法で察知する。
「ワーキン、今すぐ聖槍をここに転送させろ!」
彼は、ワーキンに強い口調で命令を出す。
「し、しかし、あれはノドの最強の攻撃力であり守り。本当の危機でなければ使うのは、お勧めしかねます」
いつも冷静なワーキンが、珍しく躊躇した。
「我が家族と城の状況を分かっていないのか?こんな事が出来るという事は、ノドを滅ぼす力があるやもしれぬ。今使わずして、いつ使うというのだ!」
カインが、叫ぶ。
「はいっ!今すぐに」
30秒とかからず、ワーキンの手に”聖槍ロンギヌス”が転送されてきた。
何の変哲も無い長槍だった。
カインは躊躇無しに、それを地上のルイーズ向かって投げ放つ。
聖槍は、光の粒子に姿を変えて巨大な槍に姿を変え、その槍先を非常にゆっくりとルイーズめがけて伸ばしてくる。
ロンギヌスはイマジン最強とも言われるミスティックレアで、対象のキャラクターを1体、ゲームから抹消する。
あまりの効果から、運営の株式会社ダンジョンはSNS上で半年は炎上した。
噂によると、話題作りの為の社長の意図的な炎上作戦だったと言われている。
「そうか、そんなに怒ったかカインよ。すまなかったな」
ルイーズは、そう呟いた。
サンシール、モーギス、アヤの三人が腕を広げてルイーズの前に立ち、聖槍からルイーズを守ろうと手を広げる。
「ここで、ギルドリーダーがやられたらゲームオーバーですよ!早く逃げて下さい」
モーギスが、ニヤリと笑っていった。
「えええええ!?」
一人動かったベルタが、バツ悪そうに3人に加わって手を広げる。
「母ちゃん、無理しなくていいんだぞ」
サンシールが、笑って言う。
「うるさい!だから、中の人はいないっての!」
ベルタが怒りながら返す。
「やめろ、お前達。あれを防ぐ手は無い。どこに転移しようが同じだ!」
ルイーズが叫ぶ。
「だが、奴は私が一緒に連れていく!転移を阻止される前に逃げろ!」
ルイーズは、ゲーム終了前に最後に受け取った聖剣を取り出して言った。
「そう言う事ならぁ」
ベルタが、真っ先に転移魔法で、その場から消える。
「サンシール、お前がこの世界でもギルド最強だという事を見せてみろ。お前がリーダーとして皆を導け!モーギス、お前のビルドと状況判断力は完璧だ。どんな状況でも仲間を守れ!アヤ、妹を頼んだぞ!」
ルイーズは、最後の指示を3人に出す。
3人は、うなずくと転移魔法で消える。
「さあ、イマジン最後のミスティックレア、ジュワユーズよ!お前がコピーする力はあれだ!」
ルイーズが、聖剣を抜き放ち、ゆっくりと伸びてくる剣先に向ける。
剣の柄頭の丸い透明な宝珠に、光る眼が浮かび上がる。
聖剣ジュワユーズの能力は。見せた、あらゆるゲーム効果をコピーする。
コピーは何度でも出来るが、その効果は一度づつしか使えない。
『さて、この世界でも設定の説明通りに発動するのか?見物だな』
ルイーズは、ロンギヌスとジュワユーズが、元のゲームと同じ壊れ効果を発揮するのか、あるいは別の効果に変化するのか、どこか楽しみだった。
柄頭の眼が閉じるように消えると、そこにロンギヌスの映像が浮かびあがる。
「さあ、発動しろ!ロンギヌスの効果よ!」
ルイーズは、カインに向かって聖剣ジュワユーズを振った。
聖剣からロンギヌスが変化した光の槍先と同じものが、カインに向かって飛んでいく。
それと同じくして、ルイーズの体を光の槍先が貫く。
ルイーズの体が、金色の光の粒子になって消えていく。
「アディショナルタイムも終わりか…楽しいゲームだったぞTMR」
ルイーズは、イマジンのゲームプロデューサーTMRの使うソフィアというキャラを思い出していた。
イマジンをクソゲー化したと仲間に始終、TMRの文句を言っていたが、今は何故か悪い気分ではなかった。
ほどなくして、カインの体にも光の槍先が突き刺さり、金色の粒子に変えていく。
「馬鹿な!?こんなところで終わるわけにはいかないのだ!私は、ノドの皆を守り導かねばならんというのに!」
カインが、そう叫ぶと、二人の姿は完全に消え失せた。
「なんという事だ」
ワーキンは、虚空を見つめて絶望した。
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