第17話 霧と吸血樹の森
ルイーズと、サンシール、モーギスの3人は、居室のリビングで一緒にくつろいでいた。
ルイーズが暗黒将軍の地位を固辞しており、カインもいない為に、軟禁状態に近い。
その時、風の通る部屋でもないのに、リビングに冷気が、すーっと入ってくる。
暖炉の火も照明も、全て消える。
3人は、いつの間にか、ソファではなく切り株に座っていた。
周囲は、霧深い夜の森に変っている。
「ルイーズ様、幻影が消えた様です」
モーギスが、落ち着いた声で言った。
「ああ、城の幻影が消えた様だ。我々も、ノドにとって用済みという事かもしれんな」
ルイーズは、深い溜息をつき、少しだけカインの事を思った。
『カインとのフレンド登録は解消されていない。そうなると、部下の暴走か?』
ルイーズは、脳内でフレンド登録を確認して解消されていない事を確認する。
「ええ?どういう事これ。どうして、俺達、突然森の中にいんの!?超怖いんだけど!」
サンシールは、驚いて周囲を見回す。
「馬鹿者、お前はルイーズ様の話を聞いていなかったのか?この城は魔法による幻影。実際の、ノドの本拠地は、この地下にあると話しておられただろう!!」
モーギスが、サンシールを叱責する。
「ええ?そういう事は、ちゃんと説明しておいてくれないと」
サンシールは、言った。
「つまり、ここはノドの国の領域、彼等の好きに設定出来る領域という事だ。周りを見ろ、我等への敵意を持つ者達の気配が集まってきている」
ルイーズ達3人は、立ち上がって周囲を警戒する。周囲から、モンスター達の蠢く音や、せせら笑う声が聞こえる。
『ノドの城の予想戦力の5分の1も集っていないな。小手調べか?そもそも、誰かの暴走か?』
ルイーズは、カインから少しばかり聞いていたノドの総戦力と、周囲の気配を比べる。
「ルイーズ様、飛行と転移魔法が禁じられています。簡単には脱出出来ませんね。おまけに、こちらの能力に、かなりの低下効果がかかっています」
モーギスは、戦闘用のローブと、木製の杖を装備して言う。
「ああ、ここは異界化している。元々仕掛けられていた領域だ。相当な時間を掛けて作成されている。すぐには解除出来ない」
ルイーズは、言った。
「なあに!こんな森、切り開いてしまえば、どうという事はなし!!我が長久の聖剣デュランダルの切れ味を見よ!」
サンシールは、一本の長剣の取り出すと、大きく振った。
剣が大きく伸び、前方の木々を数十フィートに渡って切り倒す。
聖剣デュランダルは、決して破壊出来ない最高レア、ミスティックレアの一つ。
長さを自由に変えられる、最高硬度の聖剣だ。
能力は単純だが、使い手の力を最大限まで引き出せる。
しかし、暗い森の木々は、すぐに再生し、元に戻ってしまう。
「駄目だ、この森、再生しやがるぜ!」
サンシールは、言った。
「それだけではないようだぞ」
ルイーズが言うと、木々の尖った枝が次々とルイーズ達3人に向かって伸びてくる。
「私は種族は、吸血樹。この森の木々は全て私の眷属であり、私の体の一部でもある吸血樹。奴等の血液を、全て吸い尽くしてくれる」
ルイーズ達が奮闘するノドの城があった場所、霧に隠された森の上空からエノクが下方を見下ろしながら言う。
赤いドレスのスカートからは足の代わりに長い木の幹が伸び、暗い森まで降りている。
体の、ところどころから木のつるが体に巻き付いている。
「顕現せよ、我が現魔達よ!!」
エノクの横で、同じく森を見下ろしていたルルワリリスが叫ぶと、背中に蝙蝠の羽根を持った美女悪魔のサッキュバス、そして悪魔のツノと蝙蝠の羽根を持った筋骨隆々の人間と悪魔の混血戦士カンビオンが現れた。
プレイヤーキャラクターと同じ扱いになる従魔と違い、現魔は召喚者の魔力を供給し続けなければ存在出来ない。
しかし、いつでも呼び出したり戻したり出来る優秀な戦力である。
「さあ、地上のモンスター共と一緒に、奴らを八つ裂きにするのだ!」
ルルワリリスが命令すると、2体の現魔は地上に向かって飛んでいく。
「ふふふ、このSAの威力を試す間もなく、やられてくれるなよ」
彼女の口が耳まで裂け、不気味な笑みを浮かべる。
全身を包むのは、暗い金色に輝くパイソン柄の鎧。
下半身が完全に隠れており、蛇の胴体の様になっている。
いくつもの関節があり、蛇の様に動かす事が出来た。
背中の羽根の中央に赤い粒子を吐くブースターが取り付けられ、それによって飛行していた。
手には、先に黄色い宝珠が付けられた金色の杖が握られている。
「あの優男に連絡したらどうですか?」
次々飛んでくる枝を杖で打ち払いながら、モーギスはルイーズに言った。
「奴が主導者なら意味が無い!それに、あの闘技場の一件。娘の家まで調査した以上、あの大男が我がギルドのパラワン神父だと知られた可能性は充分考えられる。もし呼んでも、相手の戦力を増やすだけかもしれん!!言い逃れ出来んだろう!」
ルイーズも、銃剣のついたライフルで、枝を切り落としながら答えた。
「意外と、その辺にいるかもしれないしね!この領域にいると、遠くはさっぱり感知出来ないし」
サンシールがデュランダルを振り回しながら言う。
「グギャアアアゥオオオオ!!」
けたたましい鳴き声を上げて、森の中からモンスター達がルイーズ達に襲い掛かってきた。
巨大な黒い狼に蝙蝠、吸血鬼の眷属だ。
さらに、大量のスケルトンやゾンビ、食人鬼が押し寄せてくる。
「ちょっと、本気出してもいいですか?」
モーギスが、ルイーズに尋ねる。
「神格能力は禁止だ!それ以外の魔法とスキル、全ての装備の使用を許可する!」
ルイーズが、叫ぶ。
「我が、魔法と格闘技を合わせた最強のビルドを見せてやる!ファイヤーアーム!」
モーギスの両手が、真赤に燃え上がった。
拳を繰り出すと小さな火弾が数十発放たれ、吸血樹が次々燃え上がる。
「顕現せよ、我が現魔アスタロト!」
モーギスの横に、大蛇に乗った裸の美青年、現魔アスタロトが現れる。
「嵐の怒りを見せよ!アスタロト!!」
モーギスの叫びと共に、攻撃してきたモンスター達に電撃ダメージが与えられ、遠くに吹き飛ばされた。
「ドオオオン!!」
轟音と共に、ルイーズ達の目の前に巨大なドラゴンゾンビが3体現れた。
体が半分腐ったドラゴンのゾンビだ。
「ブシャアアア!!」
ドラゴンゾンビ達の口から、悪臭を伴った毒のブレスが吐き出される。
なんとか、毒による即死は逃れたものの、ルイーズ達は大きなダメージを負う。
「ドラゴンスレイヤー!!」
サンシールが叫びながらデュランダルを振ると、その剣気が光となって一撃で3体のドラゴン達を真っ二つにして倒した。
光は、霧の中に飛んでいき、前方に見える距離全ての吸血樹とモンスターをバラバラにした。
「ソウルバインド!!」
モーギスが魔法で、ドラゴンゾンビの蘇生を妨げ、魂を小さな黒い宝石に閉じ込める。
そして、それを素早く拾った。
しかし、一緒に倒された吸血樹は、すぐに再生を始める。
また、木々の影から次々とモンスターが溢れてきた。
「これでは、消耗戦になります。ここは、最強レベルの神秘系のスキルが使えるルイーズ様の神格を使うべきでは?」
モーギスは、ルイーズに頼み込んだ。
「馬鹿者、こいつらは前座にすぎない。ここでスキルを使い果たすわけにはいかん!クエストクリアの定石を忘れるな!」
ルイーズは、拒否した。
「やるだけやってみますがね!!時間差榴弾!」
モーギスが投げ散らした宝石に、モンスター達が近づくと次々に爆発して接近を阻止する。
「ところで、このクエスト、脅威度どれくらい?」
サンシールが皮肉まじりで、ルイーズに聞いた。
「まあ、予想では1000ってところだ。100Lvプレイヤーが10人もいればクリア出来るだろう。しかし、我々なら5人でクリア可能だな!」
ルイーズは、笑って言った。
「足りてねえんだけど!!」
サンシールも笑いながら戦いを続ける。




