ダンジョントイレ、再び! にぃ
トイレ作りは思った以上に順調に進んで、なんと10日で完成!ガンバったよね、わたし!
最後の仕上げに、2つある入口に絵記号を魔力を流しながら刻んでいく。
女性は上から丸、小さな逆三角形と大きな三角形を少し重ねたもの、そして最後に小さな半丸を2個くっつける。これだけなのに、ちゃんと頭、ドレス、足だと判る。
男性は上から丸、上の方が長い台形、そしてそこから突き出た2本の細い長四角2本の先に、小さな丸。こっちも頭、上着、ズボンを履いた足にちゃんと見える。
この絵記号も、大きさを揃えたり、同じ物をいつでもどこでも刻めるよう金型が作られていて、しかも、ハウレット商会専用だ。
使用料?もちろん取るよ!
「完璧、だと思うわ」
絵記号を刻むために登っていたハシゴから降りて、出来上がったトイレを見回す。1号トイレと比べると、見た目や使いやすさは断然良い。
「なんか、普通にトイレだな」
「あ?!エドガー。今、なんて言った?わたしのトイレのどこが普通だって?」
右の拳を握りしめながら、聞いてあげる。アルノーさん、心配しなくても握るだけで、それ以上はしないよ、たぶん。
「えっ、だって1号トイレは原始!って感じだったからさ、それに比べると、よくある普通のトイレに近くてステキだなぁと……」
あわてて言い訳しても遅い!ホント、ちょっと前までエドガーが用を足すのに、穴掘って埋めてたって話、わたしは忘れてないからね!
手のひらを広げながら、もう一度まわりを見る。やっぱり完璧だ。
きっとしばらくすると、色んなところが気になってくるだろうけど、今はそんなことは考えないで、出来上がったことを喜ぼう。
さて。できたものは、見せびらかしたくなる。ということで、さっそくギルド長のモリスさんと受け付けのライラさんを呼んで、見てもらうことにした。
「まず、入口の手前には魔獣よけの魔法陣を刻んで、安全を確保しています」
小さなテントぐらいなら張れそうな広さをとってある。その左の壁沿いには、テーブルとイスとして使えるよう、岩壁を変形させた物がならんでいた。
「あら、少し低くないかしら?」
5つあるイス岩の1つに腰掛けたライラさんが、心配そうに言う。
「ツアーに参加する子供たちに合わせてあるので、大人が座るには、少し低いかもしれません」
説明しながら、その横に座ってみせる。
私の足の先っぽしか着かないのを見て、ギルド長が頷く。
もちろんツアーの案内役は大人だから、使いづらいだろうけど、ここはお客さん優先だ。
「他の階層のトイレでは、もう少し高くする予定です。冒険者の皆さんからは、このトイレを使う冒険者はそれほど多くないと聞いてるので」
それに、これまで無かったトイレと休憩場所が出来たのに、文句を言うのなら、使わなくていいし。
次に絵記号の説明だ。これにはモリスさんもライラさんも、すごく感心してくれた。
「ギルド長、うちのトイレにもこの絵記号、つけましょう!」
ギルドのトイレは黒で男性、白で女性と書いてあるらしい。
「そうだな。わざわざ色分けして書いてあるうえに、場所も少し離しているのにもかかわらず、間違えるやつが偶にいるからな」
まいどありー。もしこれが広まって、ギルド支部全部とかになれば……ふへほほほっ、考えただけで、笑いが止まらない!
ここから先は男女に分かれるので、エドガーがモリスさんを、わたしがライラをそれぞれ案内する。
中入ると直ぐに手洗い場があり、壁には水とペラの葉の販売用の魔法陣が刻まれている。どちらも銅貨を入れれば決まった量が出てくる仕組みだ。女性用にはさらに『カップスの実』の魔法陣もある。
その先に二つの扉があって、その奥が便座だ。
「これ、試してみて良い?」
ライラさんが銅貨を手に、聞いてくる。
「全部、一回づつなら、大丈夫です」
試運転様として、少しづつなら転移されるようにしてある。
ライラさんが硬貨を一枚置くと、魔法陣が淡く光り、ペラの葉が2枚現れる。
「ちゃんと、水で戻したものが出てくるのね」
「はい」
「これって品切れになる可能性は、ないの?」
そこで魔法陣の簡単な働きと、転送元には多くの在庫を置く予定だと説明する。
「なら、安心ね。値段は……転送の魔法陣を使うし、仕方ないわね」
ライラさんはちょっと高いと感じたみたいだけど、水もペラの葉もカップスの実も、買わないといけないわけではない。
持っているものを使うのは、全然かまわないのだ。
エドガーがうまく説明したのか、ギルド長もトイレの出来をすごくほめてくれたので、これでダンジョントイレは完全に、完成だ!
***
さて、ここまですると必ず出てくる、頭のいたーいお仕事。それが仕様書作成。
だけど今のわたしは、そんな物からは解放されていた。
マルク翁が派遣してくれたディディエさんのお陰で、提出しなきゃならない書類が、全部終わっているのだ。
(翁、ありがとう〜)
ディディエさんは見た所40過ぎのおじさんで、マキシムが連絡係ができない間の代わりとして来たんだけど、書類仕事を嫌がらずにしてくれるので、すごく助かっている。
「元々、マルク様の文官をしていたので、こういうのは得意なんですよ」
言いながら、片目をつむる。マルク翁が退爵を決めた時、「だったら自分もー」って一緒に引退したんだって。
マルク翁に特別に貸し出した送受信板を使って、いろんなやり取りもしているらしく、木材の手配も始めている。ロープや木の表面に塗る塗料は、バルザック王国で広く使われている商品だ。
ディディエさんが言うには、その商品は全部魔法付与がしてあるから、丈夫だし長持ちするらしい。
「確かに購入する時は高く感じますが、結果的には安く済むんですよ」
自信たっぷりに言うもんだから、思わずライドさんにも勧めてしまったわ。
砦跡は中の改装工事はだいたい終わり、印刷工房と木工所の建設に入っている。塗料の出番もあるだろうしね。
そして、来週には戻ってくるとマキシムから手紙が届いた。スゴイ設計図が出来たから、楽しみにして欲しいって書いてあった。
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次作の投稿は10月9日午前6時を予定しています。
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