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寄合所、完成! にぃ

 子供たちがミミを家畜小屋に入れたり、水や飼葉桶を置いたりと、楽しげに世話を焼くのを見ながら、


「荷馬車も一緒にいただきましたので、これからは人も荷物も運べます!」


 村長さんが大人たちに伝えたので、大きな拍手がおこった。荷馬車には、新しく幌が付けられていて、取り外しできる長箱も2つ、置かれている。椅子にも物入れにもなる、便利なやつだ。


「これで、野菜を売りに行きやすくなるな」


「あぁ、それに病人やけが人も運べる。これまで町まで歩いて医者を迎えにいってたが、それも無くなる」


「雨でも大丈夫そうだし」


「まぁ、御者は濡れるがな」


 そこで村長さんが、にやりと笑う。


「実はラベル様から、寄合所の完成祝として、人とラバ用の雨具を頂いてるんですよ」


 荷台の箱の中に入っていると言うと、さらなる嬉しい知らせに、歓声と拍手が起きる。


 祖父さまったら、いつの間に手配したの?それにしても、雨具はうっかりしてたなぁ。しかも人の分だけでなく、ラバ用まで用意するあたり、さすがだわ。



 そして、ついに寄合所のお披露だ。管理人さん夫婦の手によって、窓の鎧戸が開けられていき、わたしが扉を開く。先頭は村長さん夫婦だ。

 そして扉前に敷いた藁マットで、靴の汚れを落として入るよう注意しているのは……マキシムだ。なんで?

 それをする筈のエドガーは、どこに行ったのかと辺を探すと、前に一緒に遊んだ男の子たちと一緒に、寄合所に入る列に並んでいた。


(ちょっとエドガー、なにサボってんのよ!)


 前を通った時に小声で言ったけど、聞こえなかったのか、それとも聞こえないふりをしたのか判らないけど、すどおりしていった。


 あの運動小僧、ゼッタイ後で耳をひっぱって、大きくしてやる!そしたらきっと、よく聞こえるようになるだろうからね!



 最後に入る村人に続いて、わたしとマキシムも中に入る。師匠はアルノーさんと村の防護の確認に行くというので、別行動だ。

 完成予想図は見たけど、実際に見るのは初めてだから、ちょっとワクワクだ。


 大きなガラスは高いから、安い小さなガラスを組み合わせて作った大きな開き窓が、左右に2つずつあって、それがいい感じに模様を描きながら光を取り込んでいて、明るい。

 どちらの窓の側にも、テーブルにも使える作り付けの棚があって、その前には、重ねられる丸椅子が置かれていた。


 棚の上段にはそれぞれ端切れの入った籠が3つと、木切れ入りの木箱が2つ。籠の横には、数枚の小物作りのレシピを綴じた冊子も置いてある。

 下段には扉がついていて、鍵が掛かっていた。実はあそこには、村の自衛用の武器が入っているんだけど、子どもが触ったら危ないからね。


 魔灯ランタンを引っ掛ける金具が、壁の左右にそれぞれ2つずつ、天井には4つ付いているのが見える。


(なかなか、良い感じよね)


「棚の中にある布や木は、好きに使ったり遊んでいただいて構いません。レシピもあるので、よければ作ってみて下さい」


 わたしの言葉を合図に、おばさんや女の子が、端切れを入れた籠から色とりどりの布を取り出したり、レシピを見たりしている横で、小さな子や男の子たちが木切れを入れた箱をひっくり返して、遊びだした。

 縦に並べたり、積み上げたり。どれだけ高く積めるか競争している中には、エドガーも混じっている。


(なんだ。アレだけ文句言ってたわりに、楽しそうに遊んでるじゃない。これは両耳とも、しっかり引っ張ってあげないと、いけないやつね!)


 おじさん達は、棚の上に並べられた木の彫刻に興味があるようだ。これはハウレットのじい様にもらった物で、作り始めの少し不格好な物から、最近の上手な物までを、混ぜこぜにしてある。小さな物は仕切りの付いた箱の中に、まとめて入れてあった。

 簡単な彫刻の図案や、彫り方が書かれた冊子も、もちろん置いてある。そして蓋付きのブリキの箱も。

 これには、彫刻用の木切れが入っている。子どもたちが遊んでいる木とは、ちょっと種類が違っていて、木目のきれいな艶のある木だ。


 ブリキの箱を開けて、自由に使っていいと説明してるのは、またしてもマキシム……いや、これもエドガーの仕事なのに!

 そもそも、この仕事は領主代行の仕事で、ハウレット商会とは別件だから、マキシムは関係ない。なのに、こうして手伝ってくれているんだから、感謝しかないわ。お礼に、乙女の特大級の笑顔を送っておこう。ニコニコ。


 頭の中では、遊んでいる部下への制裁を執行しているから、心も晴れやかな笑顔が送れているはずよ、ニコニコ。

 想像のエドガーの耳が、ウサギ並みに伸びた所で勘弁してやった。



 部屋の入口と、対角になる奥には、煮炊きもできる薪ストーブが設置されているけど、今日は天気がいいおかげで中は暖かいから、火は入ってない。


 奥に進むと、最新のパン焼き窯と魔道コンロのある台所。実はここに、けっこうお金がかかったのよね。

 特にパン焼き窯!ホントにビックリするほど高かった!でもこれは、自衛団の訓練にも欠かせない大事なものだから、仕方ない。


 台所の右手に扉があって、それは2階に上がるための階段があるんだけど、管理人さんの個人的空間だから、鍵がついている。さらに奥へと進むと、そこには左手と奥の、2つの扉があった。


「あの2つの扉は、どこにつながってるの?」


 後ろからついてきていたマキシムが、聞いてくる。


「一つは洗い場で、もう一つは乾燥室を兼ねた、薬草の保管室だよ」


 保管室のさらに先には、薬草用の小さな畑もあるはずだ。ちょっとしたケガや熱くらいなら、ここの薬草でなんとかなるはず。


 もちろん正しく使えるよう、薬師を呼んでの講習会が予定されている。薬草の乾燥や保管の仕方から、それぞれの薬効の説明などだ。他にも、包帯の作り方や、巻き方なんてのもある。

 実はこんな事をお願いしたら、お客が減るからイヤだって断られるかな?と思ったけど、


「歳をとって出歩くのがめんどうになってきたし、興味がある子がいたら助手として雇いたいから、丁度いいよ」


 カラカラお笑いながら、承諾してくれた。まぁ、それなりの講習料は、払うんだけどね。しかも荷馬車だけど、送り迎え付き。それで助手まで見つけられたら、うん、確かに問題ないか。


 **


 午後からは、シガル村のお披露目会だ。こちらの管理人さんは、この村出身の元冒険者で、パン屋に勤めていた奥さんと娘さんの3人で、昨日、引っ越しを済ませたらしい。


 お披露目会の手順はほぼ一緒で、ここでも師匠が扉に魔法陣を刻むと、大きな拍手が起きた。 


 問題はその後よ。この村のラバの名前はテリー。そしてなぜかシガル村の村長さんが、『まさか打ち合わせでもしたの?』ってくらいオングルの村長さんと同じような話の持っていき方をするもんだから、もれなくわたしが睨まれている。 


 不思議だ。両方の耳たぶが真っ赤なエドガーや、マキシムも居るのに。

 特に女の子!なんで、そんなに睨むかな!

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