寄合所、完成! いち
オーベルさんとの契約も無事にすんだから、これで転移しほうだいよ!
あっ、ついでにペラの葉も転移させちゃおっかなぁ。もちろん、水で戻したやつよ。
どうせ保管庫を用意するんだから、1つも2つも、3つだって、大して変わらないもの!これぐらいだったら『新しい事業の提案』には、ならないだろうし。
うふふん、くふふん。これでトイレはカンペキよ!
早く作ってみたいけど、その前に、お披露目会が待っていた。村の寄合所が、完成したのだ。
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朝から少し強い風が吹いてるけど、青空が広がっているから、お披露目会には問題ない。
オーベルさんも誘おうと思ったけど、朝食後すぐにトイレツアーに出かけていた。
昨日、メダル製造機に新しい柄が増えて、全部で3種類になった話をしたら、
「なら、ぜひとも全種類、揃えなければ!」
なんて言ってたもの。ふへへっ、どうやら『見学用の臨時タグプレート、記念にメダルにしちゃおう計画』は成功みたいね。それに後から柄を増やしたのも、正解だったわ。
今日、お披露目会があるのは、オングル村とシガル村の2か所。どちらも最後の仕上げとして、師匠が魔獣除けの魔法陣を刻むことになっている。
これはじい様に言って、特別に費用を出してもらった。これで寄合所は、ちょっとした避難所にもなる。領民の安全を守るのは、領主の仕事だからね。
あまり派手に着飾るのもなぁ…ってことで、スッキリ可愛いワンピースに着替えたら、師匠を誘って馬車へと向う。
もちろんエドガーとマキシムは一緒に行くし、御者は護衛も兼ねて、アルノーさんがしてくれる。
なぜだろう。4人だから、2人づつ向かい合って座るのが正解だと思うんだけど、1人と3人で、座ってる。不思議だ……
わたしを真ん中に、右にエドガー、左にマキシム。向かいに師匠だ。
最近この順番で座ることが多い気がするなぁ。じい様たちと砦に出かけたときも、この席順だったし。
そんな私たちを見ながら、師匠が楽しげに微笑んでる。
そういえばマルク翁とじい様も、同じように微笑んでた気がする。まるで、懐かしいものでも見るみたいな……なんでだろう?
そんな疑問を押しのけるように、エドガーが話しかけてきた。しかも、うれしそうに。
「なぁ、けっきょく玩具はどんなのにしたんだ?」
エドガー、今それを聞く?あんた、絶対忘れてたでしょ。
「玩具なんて、ないよ」
「えーっ、玩具はいるって、あれほど言ったのに、なんでだよ!」
「言っただけで、なにも手配してないじゃない。あるわけ無いでしょ」
「えっ…」
なに驚いた顔をしてるのよ。ホント、お貴族様の坊っちゃんときたら。言っただけで、何でも出てくると思ってるんだから、こまったモンだわ。
「だって、そんなのはエミィが……」
「おもちゃがいるって言ったのは、わたしじゃない。エドガー、あんたよ!」
寄合所を建てるのだって、ちゃんと予算が決まってる。ホントに必要だと思ってるなら、どんな物がいいか、仕入れ単価はいくらか、そして予算内に収まるかを考えて、提案しないといけない。
だけど、エドガーは何もしなかった。聞けば、じい様は教えてくれただろう。わたしだって、そう。
まぁ、わざわざ教える気は、なかったけどね。だって、エドガーの云うような玩具、買う気なんて無かったもの。
「ちぇっ、せっかくみんなと游ぼうと思ったのに」
「ねぇ、エミィ。ホントに何もないの?」
そっぽを向いて、ブチブチ言うエドガーに聞こえないように、マキシムが耳打ちしてきた。
(えっ、マキシム、ちょっと近すぎない?)
「えっ、あっと、ないしょ……」
あぁ、びっくりした。おかげでちょっとドキドキしちゃったじゃない……
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わたしたちが到着すると、村の入口にある鐘が、ガランガランと鳴らされ、それを合図に人々が寄合所の前に集まってきた。
オングル村の寄合所は、壁に囲われた洗い場のすぐ横に建てられていて、村でただ一つの2階建て。そのせいか、すごく大きく見える。
少し傾斜のきつい屋根や、わざと見せるように組まれた柱の黒と、漆喰の白がいい感じだ。1階の鎧戸は、今は全部閉まっているけど、洗い場の囲いの扉は、風を通すためか大きく開いていた。
本格的に寒くなる前にでき上がって、ホントに良かったわ。
洗い場の壁や扉は、そのほとんどが村の人達の手によってできたと聞いていた。もちろん、ちゃんと日当は払っている。
さすがに屋根は大工さんが手を貸したらしいけど、奥さんたちの洗濯が少しでも楽になるようにって、旦那さんたちがガンバったらしい。
そのせいか、村のおじさん達が寄合所を見るその顔は、なんとなく誇らしげだ。そして、そんな旦那さん達を見る奥さんたちもまた、嬉しげだ。ふへへっ、こういうのって、なんかイイな。
寄合所の扉の前に、村長さん、師匠、わたし、エドガー、マキシムの順で並ぶ。村長さんの奥さんは、少し離れた所でラバのミミと一緒にいる。
アルノーさんは、村の入口にある大きな覆いを被せた物の前で、待機だ。
まずは村長さんの挨拶から。後ろに並んでいるのが、管理人になった次男夫婦だろう。
「本日は、天気にも恵まれまして…」
お決まりの天気の話から始まり、領主への感謝や、ハウレット商会へのお礼の言葉が続く。そして今回特別に、魔獣よけの魔法陣を刻んでくれる高名な魔術師として、師匠が紹介された。
「モローさんです!」
お辞儀をした師匠が杖を取り出し、寄合所の扉に魔法陣を刻んでいく。相変わらず、早いしきれいだ。
最後にピカッと光って、魔法陣が完成したのが判ると、いっせいに拍手が起きる。そして、いよいよ最後の報告だ。
「そして、これまでたくさんの荷物を運んでくれた荷馬車のお仕事も、今日で終わりです。皆さん、ラバさんに感謝の拍手を!」
パラパラと拍手がされるなか、
「ラバじゃないもん。ミミだもん」
「そうだよ、ミミだ」
なんて声が聞こえてくる。うん、知ってる。そして、なんでわたしを睨むかな。ていうか村長さんも、もったいぶらないで、さっさと言ってくれたらいいのに……
「そしてラバさんは、明日から別の仕事が既に決まっています。みなさん、それがどんな仕事か、わかりますか?」
村長さんが、さらに話を引き延ばすものだから、わたしを睨む子供の数が、増えていく。
だから、わたしを睨まないでってば!もう、村長さんも早く言ってよ〜。
「ラバさんの新しい仕事。それはなんと、この村の新たな住人となる事です!」
その言葉と同時に、アルノーさんが覆いを外す。現れたのは、荷馬車置き場と家畜小屋で、小屋の入り口には、『ミミの家』と書いてある。
とたんに歓声が上がった。特に子供たちは大喜びで、ミミに走り寄って抱きついたり、撫でたりしている。
どう見ても、わたしを睨んでたことなんて忘れてるな、ゼッタイ!




