砦に来たぞ! さん
「どうする?ついでだから、中も見て周るか?」
じい様に聞かれたので、うなずく。だって、せっかく来たんだから、見ていかないとね!
アルノーさんを先頭に、みんなでゾロゾロと門側の扉へと向う。さっきまで日向にいたせいか、入ると少しヒンヤリとしたけど、中は思っていた以上に明るかった。
通路は外壁の外側部分にあって、その幅は1.5フィルトほどで、それほど広くない。だけど四角い穴がいくつも開いていて、そこから外がよく見えるからか、そんなにせまいとは感じなかった。
内側には扉のない入口が、間をあけて並んでいる。中がどんなふうになっているのか気になったので、アルノーさんに声をかけて、手前の1つに入ってみた。
当然だけど、奥行は2.5フィルトぐらいしかなく、狭い。代わりに横幅は広くて、10フィルト以上ありそうだ。一人用の部屋にするのは、ちょっと勿体ないかもと思っていたら、奥にも出入り口があるのが見えた。
(扉をつけて、まん中で仕切れば良いかも)
細長いけど寝台と机、それに収納棚を置いても、まだ余裕がありそうだと思って見ていると、
「意外と広いな。もっと狭いと思ってた」
わたしの後ろからついて来たエドガーが、うれしそうに言う。どこを自分の部屋にしようかと、マキシムと相談しているけど、働かなかったら部屋は用意しないし、しても2人で1部屋だからね!
「ここは交代で見張りに立つ兵士のための、寝床があったと言われていてな。多い時には、ひと部屋に20ほどの寝台が置かれていたと、記録にある」
じい様の説明に、部屋の中を歩きながら想像してみる。20の寝台……きっと、ギッチギチのミッチミチに置かれてたんだろうな。あぁ、それで出入り口が2つあるんだ。
「灯りは、どうしていたのですか」
天井を見上げながら、マキシムが不思議そうに聞く。
「あの時代はまだ、魔道灯が無かったので、松明だ。ここに差し込んでいた。」
マルク翁が近くの壁に取り付けられた、鉄の筒を指差す。それと同じものが、廊下にも、同じ間隔でついているのをさっき見たけど、あれって松明を差し込む物だったんだ。
(あー、そうだわ。魔道灯も設置しないとね。それと、廊下の四角い穴にも、窓を取り付けないと)
なんて考えていたら、ライドさんが紙挟みを手に、何やら書き込んでいるのが目に入った。
「改装案ができたら、見せて下さいね」
ホントは今すぐ見たいのを、ガマンして声をかけたのに、
「……判りました」
すごく嫌そうな顔で、返事をされた。
一階部分を、ぐるりと一周する。
部屋は全部同じくらいの大きさで、24部屋あって、階段は全部で8か所。そして階段の近くには、中央部へ出られる扉が必ずあった。
階段は見上げただけで上がらなかったけど、アルノーさんの説明では、6階まであるらしい。その上が、見張り台でもある屋上だ。
「他の階も、同じ部屋数でしょうか?」
ライドさんの質問に、アルノーさんが答える。
「いえ。3階と5階は、少し違います。3階の一部は廊下が無く、広間のようになっていますし、5階は武器庫として使用されていたためか、仕切りが全くありません」
えっ、違うんだ。だったら3、5階の使い方は後で考えるとして、1、2、4、6階は従業員宿舎にできるってことよね。
24部屋が4階分だから、96部屋でしょ。それをさらに2つに仕切るから、192かぁ。エドガーとマキシムの分を引いたら、190人分よね。……これって多いのか少ないのか、全く判らない。
「当座の従業員として、50人程を予定しています。なので1、2階部分を宿舎として改装すれば良いかと」
ライドさんの提案に、うなずく。
「それでお願いします!」
**
じい様の屋敷に戻ると、ライドさんが清掃の手配と、鉄板の魔獣避けの注文を出してくると言って、自室へと向かった。
改装を頼む大工は、こちらで探すというので、だったらじい様に相談するよう、伝えておいた。
それから2日後。ライドさんは、じい様が紹介した大工さんや設計士さんと連れ立って、砦へと向かった。
わたしは、お留守番。というより、砦に行った次の日から、前回請け負った仕事の続きが忙しくて、それどころじゃなかったのよね。もちろんエドガーとマキシムも、手伝ってくれている。
まずトイレツアーとメダル製造機について、冒険者ギルドのギルド長との話し合いに、1日かかった。
そして、わたしの提案がタップリ詰まった寄合い所。こちらはすでに、レンガで基礎と土台が造られ、今は柱や床などに取り掛かっているらしい。
だからエドガーとマキシムの3人で手分けして、進み具合を見に行く事にしたの。
5軒分の多量の木材は、屋敷の隣にある憲兵宿舎の庭に置いてあり、それぞれの村に向う荷馬車も5台、そこに列んでいた。
荷馬車の荷台には、当然だけど重量軽減の魔法陣が刻まれている。
ライドさん達を見送ったあと、それぞれの村に向う荷馬の御者席に、乗せてもらう。
実はこの荷馬車も、工事が済んだら村の物になる予定なのよね。まだ内緒だけど。
(そうだ。荷車と荷馬車を置く場所も作らないと。もちろん車を引いてくれてる、ラバのお家もね)
道中、そんな事を考えてたけど、ラバのお家(仮)は、すでにできていた。
基礎工事のためのレンガを運んでいた時に、村の子どもたちが作ってくれたらしい。太めの杭4本を地面に打ち付け、屋根代わりの板をのせた簡単なものだけど、ちゃんと藁が置いてあり、桶には水が汲んである。
おまけに『ミミ』という名前まで付けられたラバは、村に着いた途端に子ども達に囲まれ、あっという間に 家(仮)に連れて行かれた。
藁でからだをこすったり、餌をあげたりと、楽しそうに世話をしている。
ずいぶん人気者だなと思って見ていると、
「子ども達なりの、策略ですよ。あぁやって、ラバに『この村にいたい』と思わせようとしてるんですよ」
村長さんが笑いながら、教えてくれた。そうすれば、工事が終わった後も、ラバがこの村に残ってくれるかもしれないと。だから。
「まだ、ナイショにしていて下さいね」
村長さんに念押しして、工事が終わった後の、荷馬車とラバの予定を伝えた。
「ありがたい。みながどれほど喜ぶことか」
村長さんがラバの世話をする子ども達を見ながら、嬉しそうに笑う。そしてわたしの方を向くと、
「先日いただいた荷車も、収穫の時に大活躍しました。ありがとうございます」
そう言って、頭を下げた。ふへへっ、なんだか照れくさいけど、すごく嬉しい。
その後は、寄り合い所の進み具合を確認したり、畑でいっせいに自動種まき機を押すのをながめたりして、過ごした。
村から戻ると、ギルド長からメダル製造機が届いたと、連絡が来ていた。
これでトイレツアーの準備は、ほとんど完了だ。あとは宣伝するだけ!
でもその前に、ちょっとだけウォルドと遊ぼう!だって、すごい勢いで尻尾を振ってるもの!




