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砦に来たぞ! いち

1ラフィルト≒1キロ

1フィルト≒1メートル です


 工房を造る予定の砦は、クルグの町から西に10ラフィルト程いった所にあるというので、到着した次の日、さっそく馬車に乗って行くことに。

 もちろんじい様とライドさんは一緒だけど、砦に興味しんしんのエドガーとマキシムだけじゃなく、マルク翁まで行くと言った時には、少し驚いた。


 ほんと、商会(うち)の馬車が、大きくて良かったわ。半分は子供だけど、全部で6人だからね。小さな馬車なら、一人は御者台に座ることになってたわ。

 【じい様、わたし、マルク翁】と、【エドガー、マキシム、ライドさん】の組み合わせで座る。

 うん。席順が決まるまでに、わたしの横に誰が座るかで、一悶着あったけど、すでに過去の話だ。


「うわぁ~」


 砦は想像していたよりも、ずっと大きかった。遠くからだと横長の建物に見えたけど、近づいていくと、とても大きな円形をしているのが判る。

 アーチ型の門を馬車に乗ったまま通ると、外壁がスゴく厚いことに驚いた。


「この壁、5フィルトはありそう」


 思わずつぶやくと、


「この外壁の内側には、上に上がるための階段や廊下だけでなく、交代する兵のための休憩部屋まであるからな」


 じい様が説明してくれたんだけど、それにエドガーが食いつてきた。


「えーっ、なら俺、ここに住みたい!エミィ、俺の部屋も作ってくれよ!」 


「あっ、だったら僕も部屋、欲しい!」


「じゃあ、隣同士に住もうぜ!」


「良いね!」


 いやいや、エドガーにマキシム。なに勝手に決めてるのかな?


「ここに住むのは、パシェット商会の従業員だよ」


 だって砦は町から離れた場所にあるから、通うのは大変だもの。従業員宿舎は必要だわ。


「だったら、僕、従業員になるよ」


「俺も従業員になる。エミィが商会頭だから、俺は副会頭な!」


 おーい、お貴族様の坊っちゃん二人を従業員として雇うの?出来たばかりの、それも庶民の幼女が商会頭をしている商会が?いやいや、無理でしょ。

 しかもエドガー。副会頭って、いくら従兄でも少しというか、かなり厚かましくないか?


「こら、エドガー。副会頭なんて、絶対にダメだ。わしが後見人として、認めん。まず初めは、いち従業員として働くべきだ」


 じい様、止めに入ってくれるのかと思ったら、いち従業員って……雇うのは良いんだ。しかもマルク翁もニコニコしながら、


「秘書あたりなら、問題ないのでは?」


 なんて言ってるし……

 まぁ、確かにエドガーは今受けている仕事では、わたしの部下みたいなもんだし、マキシムも誕生祭の時に、色々手伝ってもらってはいるけど……でも秘書なんて、2人もいらないと思うし、どうしよう?


 うーん……両方のコメカミに指を当てて、考える。これからきっと、すごく忙しくなるだろうから、近くで手伝ってくれる人は、たしかに必要よね。

 もちろんライドさんが番頭として色々としてくれるだろうけど、会頭の仕事まで、してもらう訳にはいかないもの。

 そうだ!わたしの助手兼、それぞれの祖父さま達との連絡係というのはどうだろう?

 うん、良いかも。じい様は後見人だし、今の仕事の依頼人でしょ。そしてマルク翁は出資者で、職人の派遣の協力者。どちらもひんぱんに連絡を取らないといけない相手だから、専用の連絡係がいたら、きっと便利なはず。よし、そうしよう!


「秘書は無理だけど、わたしの助手兼連絡係としてなら、雇ってもいいよ」


「ホント?!なら、僕がんばるね!」


「やったー、ここに住める!」


 エドガー。仕事しなかったら、速攻クビだからね。

 握りこぶしを作りなから、こっそりライドさんの方を見ると、眉間によったシワに手を当てている。

 ごめんよ、お貴族様の坊っちゃんを2人も雇って。きっと、お守りをする子供が1人から3人に増えたと思っているんだろうな。

 彼の給金が幾らか知らないけど、今度父さまと増額の相談をしておこう。


 **


 砦の中もかなり広くて、街の広場の倍ほどありそうだ。そこに井戸が3箇所と、ボロボロの洗濯場や調理場らしき物の残骸がある。


 宿舎を作った後は、小さなお店も欲しいよね。馬車宿場にある『あずま屋』みたいなやつ。

 そんなに大きくない店舗に、金物や文具から、ちょっとした衣類までいろんな物が置いてあって、とても便利なのよね、あれって。

 確か隣国のなんとかって商会が始めたもので、今ではほとんどの馬車宿場にあるんだけど、砦に誘致できるかな?できたらいいなぁ〜、ふへへ。 


 あっ、でも先に工房を建てないと。職場も無いのに、宿舎やお店があっても意味ないよね、ふしゅん……



「これは、想像以上の広さですね」


 ライドさんの言葉に、じい様がうなずきながら、色々と説明してくれる。


「記録によれば、多い時には500人以上がここに常駐していたからな」


「そんなに?」


「あぁ。ここは昔、対デルバール皇国の重要な拠点だったからな」


 マルク翁が応えると、じい様が北側に見える山並みを指さす。


「あそこに見える二つの山があるだろう。ここからでは見えないが、あの山と山のちょうど真ん中辺に、巨大な鉄の盾が突き刺さっていてな。今から三百年ほど前、突然皇国に攻め入られた我々の祖先は苦戦を強いられていたのだが、そんな祖先達を助けるように、皇国の陣めがけて、空から盾が落ちてきたのだ」


 その事を切っ掛けとして、形勢逆転した祖先達は、無事に敵兵を追い払う事が出来たという。


「その際、空に白く輝くお姿が見えたのだ。そのため、白熊の聖獣であるプルート様が、我々を守るために落とされたのだと言われるようになった」


「あっ、だから国の王国印が、盾を持った白熊なんだ」


 こないだ見たばかりの王国印を思い出して、パンッと手をたたく。

 そんな理由があったんだ。でも空から盾って、なんか似た言葉があったような?

 えーっと……そうだ、『空から鉄板』! 


「ねぇ、『空から鉄板』って、『思いもよらぬ幸運が訪れる』って意味で使うけど、もしかしたら、この話から来たのかな?」


「そうかもね。だってあれって場所が変わると、『思いもよらない厄災にみまわれる』という意味になったりするみたいだから」


 マキシムが教えてくれる。彼って、わりと物知りだよね。


 あー、でもそれってゼッタイ、デルバール皇国側で言われてる奴ね。うん、そうにきまってる……なんて思っていたら、


 ガタンッ


 外壁の中から、大きな音が聞こえた。

 えっ、なに、誰かいる?もしかして、オバケ?!

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