表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

117/117

弟、誕生! いち

 王子たちが帰った後は、特に変わったこともなく、日々が過ぎていった。時々、母さまに頼まれたパンを買い忘れて叱られたりはしたけど、それ以外は、問題なく順調に進んでいた。

 ダンジョン・ツアーは大盛況だし、バトルカードの売り上げも上々。オセローも新しいルールが広まったおかげか、ひっきりなしに注文が入っている。

 おかげでパシェット商会は、黒字続きだ。

 そして季節は進み、もうすぐ春の二月になろうかという日。


「あ痛っ……」


 いつもと同じように朝食を食べたあと立ち上がった母さまが、お腹を押さえながら椅子に座り込んだ。


「母さま、大丈夫?」


 慌てて側に寄るわたしに、母さまは「大丈夫よ」って言うけど、おでこに汗を浮かべていて、とても苦しそうだ。


「アンジー、もしかして生まれるのか?」


「そうみたい……」


 母さまが頷いた途端、祖父さまは母さまを抱え上げると部屋へと運び、レノーさんは産婆さんとお医者さんを呼びに走った。

 わたしも祖父さまの後からついて行く。送受信板をつかうためだ。


『母さまに何かあったら、すぐに知らせるんだよ』


 わたしにそう頼んでいた父さまは今、こちらに向かっている最中で、予定では明日の朝に到着する。だけどそれじゃあ、赤ちゃんが生まれるのに間に合いそうにない。急いでもらわないと!


 だけど母さまを診察したお医者と産婆さんは、二人して、


「生まれるのは、早くて夕方でしよう」


 などと言う。あんなに痛がってるのに、そんなに時間がかかるの?だったら母さまも赤ちゃんも、くたびれてしまうかもしれない。だけどあんまり早く生まれたらら、父さまが間に合わないし。

 わたしが悩んでいると、お産婆さんに、


「お嬢ちゃんに出来るのは、待つことだけですよ」


 そう言われたけど、何にもしないのは落ち着かない。母さまの腰をサスリサスリしながら、なにかないかと考えて、あるものを思い出した。


(アレを食べたら、少しは楽になるかも? ) 


 思い立ったら、即行動。急いで自分の部屋に、取りに行く。 


(あった!)


 手に取ったのは『黄色い小鳥亭』のアリスがくれた、クッキーだ。前に天体観測機を使って一緒に星空を見た数日後、あの時のお礼だと持ってきてくれた。

 1人で作ったって言ってたから、いつものパンよりもずっと癒しの効果があるはず。何かあったとき用に置いていたわたし、偉すぎる!


 だけど、クッキーを食べた途端、母さまは


「あっ、駄目、生まれそう……」


「えーっ!」


 痛みが少しでもマシになればと思って食べてもらったのに、まさかの事態に慌てたわたしは、急いで応接室で寛いでいた産婆さんとお医者さんを、呼びに走った。


 その後は、あっという間だった。

 部屋から追い出されたわたしと祖父さまがドアの前でウロウロしていると、すぐにドアが開いて、お産婆さんがさけぶ。


「お湯と布の準備を!」


 即座にレノーさんが水差しとヤカン、そしてたくさんの布を運んでくる。お産婆さんはそれをひったくるようにして、ドアを閉めた。そして。


「ホンギャァ、オンギャア……」


 赤ちゃんの泣き声が聞こえた。


「生まれた!」


 やったー!わたし、お姉さんになったのー!祖父さまと抱き合って喜んでいると、


「元気な男の子です。もう入っても大丈夫なので、どうぞ」


 お医者さんがドアを開けて、中に入れてくれる。

 ベッドには、くたびれた、だけどとっても嬉しそうな母さまと、銀色に輝く髪とサファイアのような瞳を持つ天使がいた。


(うきゃあ〜、なんて可愛い!)


「エミィ、あなたの弟よ。かわいがってあげてね」 


 母さまの言葉にウンウンと頷きながら、指先でそうっと赤ちゃんの手に触れる。すると、わたしの指をギュッと握ってくれた。

 はぁ~、なんてちっちゃくて、ふにふにしてて、可愛いの!


 だけどそこで、部屋から追い出されてしまった。でも可愛い天使を見た後だから、気分は天まで昇ってる。


(お姉さん、お仕事頑張るからね〜! )


 さて、お姉さんになって最初の仕事は、当然だけど、幸せのお裾分け!

 ふへへへ、ふひょほほほ!だってもう嬉しくって嬉しくってしょうがないから、うちの従業員全員に『食堂』と『黄色い小鳥亭』で使えるチケットを、予定していた倍額、配っちゃったわ!


 まぁ、わたしは今日はお屋敷から動く気は無いので、実際に配るのはライドさんだけどね。

 もちろんチケットは、前もって用意してたわよ。だってわたし、『できる商会頭』な『お姉さん』だもの!


 **


(うふふん。なんて呼んでもらおうかなぁ?『ねぇね』? 『姉さま』? それとも『おネェちゃま』? どの響きも素敵すぎて、想像しただけでトロけてしまって、選べない……)


 なんて思いながら、ベビーベッドて寝ているで赤ちゃんの天使っぷりに、わたしがテレンテレンにトロけていると、父さまが到着した。バタバタという足音と、声が聞こえる。


「アンジーは?!子供は?」


 あっ、ごめんね、父さま。生まれたって連絡するの、忘れてたわ……。

お読みいただき、ありがとうございます。

年末年始、何かと忙しいため来週、再来週の投稿はお休みします。

そのため次作の投稿は1月7日午前10時を予定しています。


評価及びブックマーク、ありがとうございます。

感謝しかありません。

また、<いいね>での応援、ありがとうございます!何よりの励みとなります。


誤字報告、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ