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王子の誤算

タイトルを書籍化に伴い、少し変更しました。

 

そして本日も更新が予定時刻より、大幅に遅れてしまい申しわけありません。ಥ_ಥ



(ここに着いてから、ちっとも上手くいかない……)


 ゆっくりと動く馬車の中で、思った。向かいには、不機嫌な顔のエドガーと、俯いたままのロランが座っているが、あまりに重苦しい空気のためか、誰もしゃべらない。

 その中で私は、何回目かわからない溜息をついた。


 ***


 国王である父上に頼み込んで、最近話題のダンジョンツアーに参加する許可は得たけれど、友の同伴や、『冒険亭』という宿屋に泊まりたいという希望は、却下された。

 行きも帰りも、泊まるのは全て貴族の屋敷か別邸だから、せめて目的地では好きな所に泊まりたかったのに、王族が泊まるには安全性や護衛の面で問題があるからと、認められなかったのだ。

 しかも衛兵詰所が隣にあるという理由から、前辺境伯の屋敷に泊まるように言われた。そして。


「まだ側近が決まっていないゆえ、いらぬ誤解を生まぬためにも同伴者は認められないが、あちらには今、ちょうど騎士団長の子息が滞在しているらしい。ダンジョンツアーも、彼と共に参加すれば良かろう」


「騎士団長の息子というと、エドガー・ロックベールですか? 」


「そうだ。何度か会っているはずだ」


「……はい」


 確かにエドガーは歳も同じだし、これまでに何度か顔を合わせた事はあるけれど、友と呼ぶほど親しい相手ではない。そのため、ツアーの楽しみが半減したように感じられた。


(せめてロランが一緒なら、良かったのに……)


 幼馴染で宰相の息子であるロラン・ベルガルドは、運動は少しばかり苦手だけれど、いろいろなことを知っていて、話も面白い。ダンジョンツアーの話も、元はロランから聞いたものだ。

 彼と一緒なら道中もツアーもきっと楽しいだろう、そう考えているうちに、閃いた。


 旅程三日目の宿泊先である子爵家の屋敷が、ベルガルド家の領地のすぐ隣だと気づいた私は、そこでロランを私の馬車に、こっそりと招き入れることを思いついたのだ。

 もし見つかったとしても、宰相の息子をその場で放り出すようなマネはしないだろうから、そのまま一緒に旅が出来るだろう。


 それにエドガーだって、よく知らない私と二人よりも、ロランと三人の方が気を使わなくて済むはずだ。

 そう考えると、この案が最善のものに思えた。だからロランに手紙を書いて、実行に移したのだ。


 思っていた通り、馬車の荷物入れに隠れていたロランは、すぐに護衛に見つかりはしたものの、そのまま同行することが許された。もっとも、侍従頭(じいや)はものすごく嫌そうな顔をしたが。


(あの計画が上手くいったこもあって、私は少し調子に乗りすぎたのかも……)


 その後は、楽しかった。ロランと二人、最近読んだ本の話やトレランプをしていると、退屈することは無かった。

 そして流行りの玩具の話をしている中で、ふと、本当は『冒険亭』に泊まりたかったのだと言っていた。すると、


「だったら『冒険亭』に手紙を出すのは、どうでしょう? 」


 ロランが小声で提案してきた。


「手紙を? 」


 思わず私の声も、小さくなる。


「そうです。王子から『そちらに泊まる』と書かれた手紙が届けば、宿屋は必ず我々が泊まるための準備をします。そこに、馬車で乗り付けるんです」


「それだと、確かに宿屋は迎えてくれるだろうが、侍従や護衛が泊まるのを許すとは、到底思えないのだが? 」


「はい。だけど泊まらなければ、せっかくの準備が無駄になってしまいます。そんな事は相手に悪い、今回だけは特別に認めて欲しいと言うんです」


「そんなので、上手くいくのか? 」


「とりあえず、やってみましょう」  


 それに泊まるのはダメでも、中を見るくらいは許可してくれるかもしれないと言われ、手紙を書くことにしたのだが……まさかその事が、早々に前辺境伯にバレるとは、思っていなかった。


 しかも『冒険亭』の前を素通りされて、建物を見ることさえ叶わなかった事に腹を立てていた私が、泊まれないのなら、その代わりとして『引き換え専用カード』が欲しいと口にした事で、余計に前辺境伯を怒らせる結果となった。

 しかも今回のこと全てが、ロランの入れ知恵だと思われたらしく、ロランは私以上に注意を受ける結果となった。


 その事もあり木工遊具の見学に行った際に、エドガーが大会の賞品としてカードを出してきたときは、前辺境伯が譲歩してきたのだと思ったのだ。

 

 まず参加条件を考えると、参加者の大半は私よりも年下だし、そこら辺の子供と違い、私は剣の師範について鍛えている。この場で負けるとしたらエドガーぐらいだが、彼は主催者なので出場しない。


 それらの事から、これは私にカードを手に入れさせるための大会だと思い、勝てる事を疑いもしなかった。

 だから地元の、しかも平民の子供が私の頭の上を飛び越して、あっという間に勝ちを決めた時は、信じられなかったし、認めることが出来なかったから、グラグラ動く橋の上で思わず


「あ、あんなのズルだ!」


 などと、叫んでしまったのだ。


(今思えば、みっともないにも程がある……)


 おまけにその後がまた、悪かった。

 私があのカードをすごく欲しがっている事を知っているロランが、賞品を受け取った子供に対して、私に献上しろと言ったことをきっかけに、エドガーと領民達の反感をかう騒ぎへと、発展したからだ。


(なんとか収めることが出来たとは思うけど、この空気は、なんとも……)


 そしてようやく屋敷に着いたと思った途端、エドガーは、


「俺は『砦跡でお泊り会』(泊まり込みの用事)がありますので、ツアーには参加できません。お二人でどうぞ」


 そう言うと護衛騎士を一人だけ連れて、別の馬車に乗り込み、去っていった。

お読みいただき、ありがとうございます。

次作の投稿は11月12日午前10時時を予定しています。


評価及びブックマーク、ありがとうございます。

感謝しかありません。

また、<いいね>での応援、ありがとうございます!何よりの励みとなります。


誤字報告、ありがとうございます。

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