勇者は折れず
月まで呑み込む程の暗闇に世界が包まれる頃。
私の目の前を『茶色い稲妻』が駆け抜けて行った。
その瞬間、愛すべき我が家は戦場と化した。
もう何も信じる事は出来ない。
いつ、何処の隙間から奴がその茶色く、楕円形の弾丸を浴びせてくるのかも分からないのだから。
コードネーム『フレンド』!目を覚ませ!
繰り返す!コードネーム『フレンド』!目を覚ますのだ!
壁の隅に追いやられた私は携帯で救援を求める。
だが返事が来る事は無かった。
……とはいえ実際に待っていた時間は約5分程であるため、『フレンド』を責める事は出来ないのだが。
しかしその約5分が一時間にも、二時間にも感じていた〝戦場にいる私〟には、それだけしか待つ事が出来なかったのだ。
もうだめだ。友は目を覚まさないだろう。
だとすれば私が、私がやるしかないではないか。
……勝てるだろうか?出来るだろうか?
これまで幾度となく『茶色い稲妻』に敗北し、それにアパートの自室を明け渡して夜の公園でコンビニ弁当を食べていた私に。
……いや、やるんだ。やらなければならないんだ。
あの時思ったではないか。
散々、苦しんだではないか。
自分の弱さに怒り、涙したではないか。
「くそう!何故私があんな奴に部屋を、台所を、そして愛すべき孤独の時間を奪われなくてはならないんだ!!私が一体、奴に何をしたと言うんだ!!
こんな事が許されて良いのか!?
否、そんな訳が無い!!
ならば戦うのだ!
何がキモいだ!何が怖いだ!何が触れないだ!
そんな事は勝ってから言えば良いのだ!!
いや……そんな覚悟ではダメだ。
この命尽きようとも必ず倒して見せよう。奴に私を怒らせた事を後悔させてやるのだ!!」
そう……『茶色い稲妻』に打ちのめされこそした私ではあったが、心とそして魂だけは敗北を許してはいなかった。
だからそう、私は、まだ私は戦えるのだ!!
私はまだ、戦士として完全に折れた訳ではないのだから!
「マジで……やってやる!!
やってやるぞぉおおお!!」
私は魂を燃やして叫ぶ。
それを聞いても尚、夜の公園は嫌な顔一つせず突如訪れた私を優しく包み込んでくれた。
お読みいただきありがとうございます!
また別の自作でもお会いできれば嬉しいです(*´ー`*)マタネ~




