表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/188

97 私とコフィアと鍛冶屋エヴァンズ 2

昨日の続きです

「なるほどなぁ、コフィア専用の器具かぁ。確かにそれは()()()そうだ」


店全体が作業場的な店内に、気の利いた応接セットなどはもちろんあるはずもなく私は近くにあった古ぼけたスツールを勧められ、そこに腰を下ろした。


「わりーな。あんたたちみたいな客は滅多に来ねーから、気の利いたもてなしなんか出来ねーよ」

「あ、いえ。お気になさらずに…」


私はそう言いながら店内を見渡す。

さほど広くない室内は昼間だというのにうす暗い。

壁際には煉瓦で組まれた鍛造炉があり、その赤黄色い炎の周りだけがわずかに明るい。すぐそばには大きな金床(アンビル)と水を張った木製のバケツが置かれ、ふいごにやっとこ、見るからに重そうなハンマー等など、鍛冶仕事に必要な道具が所狭しと置かれていた。

一見雑多に見えるその光景だが、使い込まれているであろう道具はすべてがピカピカに磨かれ、種類別にきちんと分類されている。大雑把に見えて実はとても几帳面な性格なのだろう。同時にいい職人とだと言った時計屋の主人の言葉に納得がいく。


エヴァンズさんは大きな水がめから柄杓で水をすくうと一息に飲み干した。


「作るのはかまわねーけど、取り掛かるのはだいぶ先になるぜ。さっきも言ったが受けちまったスープポットが3カ月先まで予約待ちだ。そいつらを片付けちまわねーと次の仕事は受けられねぇからな。それが信用ってもんだ」


手の甲で口元を拭い、組んだ足に肘を乗せ頬杖をついた姿勢でエヴァンズさんがそう言った。

そうだよね~。でも三か月かぁ…長いなぁ…。


(でもまあ、仕方ないかぁ。しばらくは木づちと格闘するほかないみたいね…)


私ははぁ、とため息をつく。そんな私をじっと見つめるエヴァンズさん。

あの…あんまり見つめられると穴が開きそうなんですけど…。

その視線に耐えられず、思わずチラッと彼を見る。目が合った瞬間、彼がニカッと笑った。


「つってもな。俺だって未来の嫁さんであるあんたの力にはなってやりたいと思ってんだよ。だから、あんたがどうしてもって言うんだったら方法がないわけでもないぜ」

「え、ホントですか?」


嫁にはならないが、思いがけない提案に顔がほころぶ。


「あんたが俺にキスしてくれるって言うんなら、最優先で頼みを聞いてやる。どうだ?」


ニコニコと満面の笑みを浮かべながら自分の唇を指さす彼を私は冷ややかな顔で見つめた。おい、信用はどうした…?


(…悪い人ではないんだけど…。裏表がないっていうか、ある意味清々しい…)


とはいえ、流石の私もその提案に乗る訳にはいかないので、断ろうと口を開く。と、その口を後ろから伸びてきたアレンの手に塞がれた。


「ハヘン?」


びっくりする私を後ろ向きにすると耳元で何事かをささやく。え?と驚く私にアレンがニヤッと微笑んだ。


ほ、本気ですか…?


背中を押され、エヴァンズさんの前に立つ。首だけ振り返りアレンを見ると、うんうんと頷き、行けとばかりに顎で促す。

私は目の前のエヴァンズさんに向かってアレンに言われた通りのセリフを発した。


「いいわ。キスしてあげる」

「えっ?!マジで?いいのか?!」


嬉しそうにエヴァンズさんが身を乗り出す。


「ええ、でも恥ずかしいから…目を閉じていてくれる?」

「もちろんだとも!ほらこれでいいのか?」

「ええ。ありがとう」


私はエヴァンズさんに近づく。



左手を彼の肩に置き、右手で彼の目を覆った。

衣擦れの音を響かせながら彼の足の間に体を滑り込ませると、右手に少しだけ力を入れ、彼の顔を傾かせその頬に唇を這わす。彼の体がビクッと震えた。

そのままゆっくりと唇で首筋をたどり、またゆっくりと戻る。彼の唇の手前、触れるか触れないかの距離で息を吹きかけると彼の喉がゆっくりと上下するのが分かった。もう一度、今度は耳元に唇を寄せ、チュッとリップ音を響かせる。エヴァンスさんがギュッと唇を噛み、拳を硬く握りしめた。







その光景を少し離れたところで見ていた私は、思わず息を飲んだ。


(アレンが…エロい……)


その昔、多少のBLを嗜んだものとして言わせてもらえれば、これはかなりの目福ものだ。

どこでこんなテクニックを覚えてきたのかは知らないけど、私の中で3本の指に入る男性ランキング1位のアレンの仕草に思わず目が釘付けになった。


(これで落ちない女性はいないでしょ…)


幼い頃から見てきただけに若干複雑な気持ちになる。

アレンは私を振り返り頷くと、その場をさっと離れ、私と入れ替わった。


「…あ、あんた…すごいな…。増々惚れたぜ…」


エヴァンズさんが顔を赤らめ口元を手で覆う。もう片方の手が下半身を抑え込んでいるのを見て、なんとも言えない気持ちになった。


「…満足してもらえたみたいでよかったわ。これで約束守ってくれる?」

「も、もちろんだ!で、どんなもんを作りたいんだ?」


顔を紅潮させながら作業台に向かう彼に罪悪感を覚えつつ、私はハンドドリップに必要な道具について詳細に説明した。


当のアレンはというと、持参した水筒の水で何度も口を漱ぎ、ごしごしと唇を拭っていた。





次回更新は明日19時頃となります。


ちょっと遊んでしまいました。BL要素が苦手な方、ごめんなさい。


本日も最後まで読んでいただきありがとうございました。

明日もどうぞよろしくお願いします(*'▽')

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ