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96 私とコフィアと鍛冶屋エヴァンズ 1

昨日からの続き含みます。

「そうですね。おっしゃる通り、この豆は粉にする必要があります。高級店のカフェではきちんとした道具を仕入れているようですが、私はとりあえずこれで代用していまして…」


そう言うと、ご主人は作業場から小さめの白い器とすり棒、木づちを持って戻ってきた。


「コフィアの豆は固いので一回分の豆を麻袋に入れて、この木づちで砕きます。あとはこの乳鉢である程度まで細かく擦り潰し、フランネルの布で越して飲んでいます。少々手間がかかるので面倒ではありますが…」


なるほど。そういうやり方しかないのか。そうするとやっぱりちゃんとした道具が欲しいかも。


「どこかで道具をそろえられるお店をご存じではないですか?」

「うーん…どうでしょう。道具は豆以上に高級品ですから…。ヘイデン商会では手に入らないのですか?」

「えっと…商会にはこれ以上頼れないといいますか、迷惑はかけられないというか…」


またヘイデンさんに乗り込まれたらたまったもんじゃない。

だとすれば…。


「作るしかないか…」


ぼそっと呟いた一言だったけど、それをご主人が拾い上げてくれた。


「あ、いいですね。専用の道具があればもっと気軽に飲めますし。コフィアの流通が軌道に乗ればいずれ私たち庶民の間にも広まるでしょうから。道具の生産はこの街の発展にも繋がります」


おお、ご主人が商売人の顔をしている。その視線に気づいたのか、


「いや、すみません。私この職人街組合(ギルド)の会頭をしているもので…」

「そうなんですか?」

「なり手がいないので仕方なくですが…。あ、道具の件、もしかしたらお力になれるかもしれませんよ」

「心当たりがあるんですか?」

「鍛冶屋なんですが腕のいい職人が一人いるんです。あの『スープポット』もそいつのアイデアなんですよ。若いですが才能のある男です」


(おお!!やっぱりあれ、スープポットか…!!)


店主がシチューの入っていた容器を持ち上げる。


「これは私が朝つめてきたスープですが、密閉しておいておけば夕方まで冷めないんですよ。重宝しています」

「そんなにですか?!」

「私は門外漢ですので詳しい事はわかりませんが、かなりいいものだと思います。よかったらご紹介しましょうか?」

「是非お願いします!!」




職人さんの名前は「エヴァンズさん」というらしかった。

教えてもらった住所を訪ねると、店の奥からカンカンっと鉄を打つ規則正しい音が響いてくる。


「失礼しまーすっ!こちらは鍛冶屋のエヴァンズさんのお店で間違いないでしょうかぁ!」


鉄を叩く大きな音に対抗してつい私の声も大きくなる。


「おおぅ!間違ってねーよ!!ちょっと待っててくれ!!」


奥から男性が張り上げる声が聞こえた。

しばらくそのままで待っていると、やがて鉄を叩く音が止み、ジュワ―ッと水蒸気の上がる音が聞こえ、


「おぅ、待たせて悪かったな」


タオルで頭と顔をゴシゴシと拭きながらエヴァンズさんが姿を見せた。20代半ばといったところか。背が高く、冬だというのに半そでシャツ一枚。色黒の体からは湯気が立ち上り、汗で張り付いたシャツ越しにその筋肉質な上半身のラインがくっきりと見える。


(すごい筋肉…。これクローディア様が見たらものすごく喜びそう)


「スープポットだったら3カ月先まで予約いっぱいだぜ。それでよけりゃ、名前と…れん…らくさき…を…」


髪をかき上げ、顔を上げたエヴァンズさんと目が合った。その目が私を見たまま固まる。

ん…?なんだろう…。



「好きだ…」


「は…?」



タオルを投げ捨て私の両手を取って握りしめる。


「結婚してくれ……」

「は、は…い…?」


いきなりのプロポーズに今度は私が固まる。


「あんたみたいな女は初めてだ。目が離せねぇ。あんた女神か?そうじゃなきゃ天使だろ?なに、苦労はさせねーよ。こう見えても腕はいいんだ。まあ入ってくれよ。俺たちの今後についてゆっくり語り合おうぜ」


そう言って肩を抱き、店の中にエスコートされ…そうになる寸前でハッと我に返った。


「ちょちょっ…と!どうしてそんな話になるんですか!」


(あ、危ない…。つい勢いに流されそうになった)


抱かれた腕からするりとすり抜けアレンの後ろに隠れる。見上げたアレンはものすごくいい笑顔で微笑んでいる…いや、違うな。目が完全に笑ってない。


「申し訳ありませんが当家のステラ様に気軽に手を触れないで頂けますか?」

「はぁ…あんたステラって言うのか。いい名前だ…増々好きになったぜ」

「その流れで、なんで増々好きになるの…?」


この人ちょっとヤバい人かもしれない…。


「俺んとこに嫁に来れば、スープポットは今すぐ出してやるのに…」

「え?ホント?!」

「ステラ…」


おおっと、アレンのこめかみに血管が浮き出てきた。このままだと「うめぼしの刑」に処される。

するとエヴァンズは、ハハッと楽しそうに笑うと、


「あんたたち、面白いな。まあとりあえず中入れよ。なんか話があるんだろ?」


そう言ってタオルを拾い上げると一人店の中に消えていった。




次回97話は明日19時頃更新予定です☆


新しいキャラが出て来ちゃいました。ステラの行動力は想定外です。


本日も最後まで読んでいただきありがとうございました。

明日もどうぞよろしくお願いします('◇')ゞ

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