表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/188

95 私とアレンと職人街再び

「わざわざついてきてくれなくてもよかったのに…」


職人街に行くと報告したら有無を言わさずアレンがついてきた。


「そういう訳にはいかないってこの間説明しただろう?僕には君を守る義務がある。もう二度と危険な目に遭わせるわけにはいかないからね」

「そうだけど…アレン最近、なんだか忙しそうだし…」

「君以外に優先させる事なんて何もないよ。そんな事よりほら、ここだろ?時計屋『クロノール』」


気がつけば店の前に立っていた。

教会の時計塔が昼まであと半刻だと、鐘を鳴らし時を告げる。

私はアレンを伴い見慣れた扉を手前に引いた。カララーンと、いつもと変わらない軽やかなドアベルが鳴り、間を置かず店の主が顔をのぞかせた。同時にふんわりとおいしそうな香りが漂う。


「これはこれは…お嬢さん。またいらっしゃってくれたんですね」


いつもと変わらぬ穏やかな笑顔。この人の笑顔見てるとなんだか癒されるんだよね。


「おや?今日はお連れの方がご一緒でしたか」


アレンに気づき彼にも笑顔を向けた。と、なぜかアレンの顔をじっと見るご主人。そして不意に何かに気づいたようにああ、と小さく頷くと優しく問いかけた。


「お体の調子はいかがですか?」

「…はい?」


突然の問いかけにアレンの顔にハテナが浮かぶ。


「いえ、お風邪など召していらっしゃらないかと思いまして…その…随分と長く外に立っていられた様でしたので…」


フフッと笑う主人にアレンもまた何かに気づいたようで、ちょっとバツが悪そうに目をそらした。

なに?なんの話か全く分かんない…。知り合い?な訳ないよね…?


「丈夫なのが取り柄なので…問題ないです」


店主はそうですか、と小さく答えると扉を大きく開き、


「さあ、どうぞお入りください。外は寒いですから」


と招き入れてくれた。温かい店内に通されるといい香りが更に強くなる。


(これは…っ!間違いなくシチューの香り!!)


くんかくんかと匂いの元をたどるとテーブルの上の円筒状の黒いマグカップが目に留まった。マグというにはかなり大きめで、どちらかというとランタンのような形をしている。これってまさか…?しかも黒いって事はもしかして…。

吸い寄せられるようにテーブルに近づく私の行動を読んだのか、アレンが私の首根っこを捕まえる。


(べ、別に食べようとしたわけじゃないんだからいいじゃない。ちょっとあのマグが気になっただけだし…)


アレンがコホンと咳ばらいをする。


「あの…もしかしてお食事中でしたか?」

「ええ、お昼に約束がありまして…。ちょっと早いんですが昼食をとっていました」

「ごめんなさい!そうとは知らなくて…っ」

「いえ、いいんですよ。それより今日はどうなさったんですか?」


主人はマグ(?)に蓋をするとテーブルの端に押しやった。

申し訳ないと思いつつ、私は持ってきた大きめの包みを主人に手渡した。


「あの、これ…。先日ごちそうになったコフィアの豆をお持ちしたんです。ヘイデン商会から思いがけず大量に手に入りまして…もしよろしければ…」

「お飲みいただいたのは一昨日の夜ですが…こんなに早く…ですか?しかも、こんなにたくさん?!」


包みを開けた主人が驚きの声を上げる。まあね、麻袋に詰められるだけ詰めてきたから結構な重量はあったけど…それでも樽の上部をさらったくらいでまだまだ残りはたくさんある。


「いや…頂けませんよ、お嬢さん。コフィアはまだ王都でも高級店にしか卸されていない貴重な品ですよ。これだけでうちの売り上げのひと月分にはなるはずです」


あわてて突き返そうとする主人の手を押さえ私も押し返す。


「いえいいんです、貰ってください。私ひとりではとても飲み切れませんから。何ならご近所さんにも分けて差し上げてください。それより代わりと言っては何ですがお願いがありまして…」

「なんでしょう…?」

「コフィアの入れ方を教えてもらいたいんです。道具とか…この世界ではどのように入れていらっしゃるのかと思いまして」

「…は?この世界…ですか?」

「ああ…っ!いえ、あの…。おそらくこの豆を引いて粉にする必要があると思うんですが、ヘイデンさん、豆しか置いていかなかったんで…」

「ヘイデンさん…?」

「ああ、いえ…っ」


(ええい!なんでこの口は余計な事ばっか口走るの!!)


ご主人の後ろでアレンが笑いをかみ殺している。


(くそっ!あとで覚えてなさいよ、アレン…っ)


首を傾げるご主人にしどろもどろになりつつ、私は今日一番の目的を果たすべくご主人を質問攻めにすることにした。





次回96話は明日19時頃更新予定です。

クロノールさん、ドアにクローズの札を下げる時とステラを見送る際、アレンの赤い髪を目撃しておりました。目立ちますからね、赤い髪。


この場で次回の予告的なものを書いたり書かなかったりしていましたが、最近ステラの自由行動が活発すぎて私の右斜め上を常に超えていくので予告内容が追いつきません。

私の綱渡り更新が落ち着…ステラが慎みを取り戻すまでしばらくシークレットで行かせて頂きたいと思います。


年末は忙しいですね。もう色々余裕がございません(笑)


本日も最後まで読んでいただきありがとうございました。

また次回もどうぞよろしくお願いいたします(^^♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ