93 私と祭りとデート 2
続きです。
「…ちょっと買いすぎじゃない?」
「ふぉんなほほ、ふぁい!まばへんへんはりない!!」
「ちょっと何言ってるかわかんないんだけど…」
私は口の中につめこまれた肉の塊を飲み込むと、もう一度言い直した。
「そんなことない!まだ全然足りない!!」
「…そうですか」
アレンがあきれた様子でホクホクの焼き栗を口に入れる。
「あ、アレン。私もあーん」
三角の筒状に丸めた新聞に無造作に入れられた大ぶりの焼き栗。ぱっくりと開いた切り口から鮮やかな黄色の中身が顔をのぞかせる。ちょっと焦げ目がついてるのがこれまたいい。
アレンは殻をパチッと割ると一番大きな栗を私の口に放り込んでくれた。ホックホクのあっつあつの焼き栗をはふはふ言いながら堪能する。
「はぁぁ!おいしい!!ほくほくしててるのにしっとりしてる。思ったより甘くないけどすごくおいしい。ははっ!しあわせ~」
ゆっくりと飲み込んでから、今度は右手に持っていたソーセージパンにかぶりつく。うん、こっちもパリパリの皮が香ばしくて最高においしい。
「よく食べるね…」
「え、何言ってるの?まだソーセージとローストサンドと焼き栗しか食べてないわよ。これからマカロニチーズと煮込みとクレープとフルーツチョコ食べないといけないんだから」
「…聞いてるだけで胸焼けしそうだ」
アレンはそう言うと「ちょっと飲み物買ってくる」と口元を押さえながら席を立った。
何よ、情けないな。これじゃまるで私が大食いみたいじゃない。そんなに言うほど多くないと思うけど…。私はテーブルの上に広げられた食べ物の山を見た。
「……」
(まあね…ちょっと多いかもしれないけど…お腹にいれちゃえばわかんないし)
私はマカロニにチーズをたっぷりと絡ませると口を大きく開けて頬張った。
しばらくするとアレンが可愛いマグカップを二つ持って戻ってきた。湯気の立ち上るカップからはいい香りが漂う。
(ちょっと待って…!まさかこの匂い…っ!!)
「おまた…」
「ちょっとアレン!!まさかこれっ…ホットワインじゃないの?!なんで?!ダメじゃない!お酒は18歳になってからよ!」
私はアレンのカップに鼻を近づけるとくんかくんかと匂いを嗅ぐ。はぁ~なんていい香り。
その勢いにアレンが思わずのけぞる。
「僕一応18歳になったから…お酒は解禁なんだ」
「……なんですと?」
そんなの聞いてない。
「ほんとの誕生日はわからないけど…ステラに会った日を誕生日って事にして届けを出してもらったんだ。でないと学園にも入れなかったし…」
そんなばかな……。
「なに?飲みたいの?」
私はカクカクと頭を上下に振って頷く。
「ふーん。そうなんだ」
私はアレンのカップの中を覗き込む。オレンジやリンゴ、スターアニスの浮かぶ赤ワインからはものすごくいい香りが漂ってくる。
アレンは添えられたシナモンスティックでひと混ぜすると、ニヤリと笑って口をつけた。
「ああ、おいしい」
くそっ!絶対わかっててやってるでしょ!!
「ね、ねぇ…アレン?お願い。一口だけ…ううん、ひとなめだけでいいから、味見させて…」
「だーめ。君まだ15だろ?残念だけどまだ早い」
「も、もうすぐ16だし…」
「それだってダメでしょ…」
「ずるいっ!!!アレンばっか!!」
「そんな事言ったって…ほら、君はこっち」
アレンはもう一つのカップを私の前に押し出した。
わあ、ホットチョコレートだぁ…。しかもおっきなマシュマロにミントまで乗ってる。
「お店の人がおまけしてくれたんだ。しかもオレンジとベリー入りだよ。おいしそうだね。よかったね、ステラ」
「うんっ!」
フシュフシュと溶けたマシュマロが濃厚なチョコレートと混ざってものすごくおいしい。上に乗ってたミントと柑橘がよりさわやかでいつものホットチョコの何十倍もおいしい。
「はぁぁ、おいしい……このチョコすっごく濃厚だぁ。チョコとオレンジってすっごく相性いいんだよね。さすがアレンわかってるぅ!」
「だろ?」
そう言ってアレンが再びホットワインに口をつけた。
「…ってだまされるかぁ!!なによ!アレンばっかりずるいっ!!なんで私より年上なのよ!!学年はおんなじなのに!ううっ…ホットワイン…ずるい…」
「ごめんって…そんなに飲みたがるとは思わなかったから…そんなに好きなの?」
「…好き。大好き」
「……っ」
ちょっと…なんでそこで赤面するのよ。あ、こっちの世界のワインって結構アルコール度数高いのかな?まあ、いいわよ…。あと3年たったら浴びるほど飲んでやる…。
「まあ、機嫌直して。そうだ。もしよかったら踊らない?君ダンス得意でしょ?」
アレンが人差し指で広場を指す。広場では楽団の音楽に合わせて多くの人が踊っていた。
「でもアレン。酔ってるんじゃない?そのワイン、結構アルコール強いんじゃない?」
「…ん?そんなことないと思うけど…。なんで?」
「だって、顔赤いし…」
「…っこれは、違うから…大丈夫。行こう」
アレンに手を引かれ広場の真ん中まで進み出る。
そう言えばアレンと踊るのって初めてだ。
「アレンって踊れたんだね」
「まあ、それなりには、ね」
音楽が始まり、みんながそれぞれに踊りだす。私たちもそれに倣って手をつないだ。
ダンスと言っても社交ダンスみたいに決まったステップを踏む訳ではなく、ただクルクルと回るだけ。それだけなのになんだかすごく楽しい。
「あははっ!目が回るっ!!うわぁ、楽しいっっ!!」
アレンの目が優しく微笑む。
こんなに楽しい時間をアレンと二人で過ごすのはスラムにいた頃以来かもしれない。
夜になり空気は一段と冷たく、そして澄んできた。
けれど私は、心も、そして体もポカポカと幸せな時間を過ごすことができた。
次回更新は5日(土)の19時を予定しています。
明日の更新はお休みさせて頂きますのでご了承くださいませ。
本日も最後まで読んでいただきありがとうございました。
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