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92 私と祭りとデート 1

ステラのターンに戻りますよ。

夜が深まるにつれ街は更に賑わいを増す。

大通りに一歩足を踏み入れた途端、光の洪水と言わんばかりにオレンジ色のイルミネーションの光が私をすっぽりと包みこんだ。


(なにこれっ!すっごくキレイっっっ!!超テンション上がる!!!)


男爵領もこの季節はそれなりに賑わってはいたけれど、それでも王都のこれとは比べのもにならない。


(あーもう!シンディとセシリア連れてくればよかった!!)


思わず身もだえしながら二人と一緒でない事を心の底から後悔した。


(まだ最終日まで時間もあるし、次は絶対みんなで来よう!)


私は人波に逆らうことなく、吸い寄せられるように広場へと足を向けた。

街の至る所から楽しそうな笑い声と陽気な音楽が聞こえてくる。空を見上げると通りの左右の建物から伸ばされたロープにたくさんの星形の飾りが吊るされ青く光を放っている。


(はー。立ってるだけで楽しい…)


前世の私は祭りが大好物だった。そう言えば色々行ったなー。ビール祭りとか肉フェスとかは毎回欠かさず参加したっけ。まあ大概一人で食べ物系がほとんどだったけど…。そうそうクリスマスマーケットも仕事帰りによく行ったなぁ。あの雰囲気で飲むホットワインが最高だったのよね。煮込み料理と合わせるとそれはもう最高で…。

思わず流れ落ちそうになる涎をじゅるりとすする。そんなことを考えていたら、


ぐるるるるるっ―――っ


辺りからおいしそうな匂いが漂ってきている事もあり、私のお腹の虫が元気を取り戻しエサの要求を開始した。


(思い出したらお腹空いてきた。ほんとはもう帰らなきゃだけど…。でも、まあいっか。外出許可は一応貰ってきたし…。夜ご飯ここで食べてっちゃお。わーい!何食べよっかな)


匂いにつられフラフラと飲食店の方に吸い寄せられる私。


するとその腕を、いきなり誰かに掴まれ引き寄せられた。


「…っ!」


バランスを崩して倒れそうになる体を捕らえられ、びっくりして振り返ろうとする私の目をその手がふさぐ。


「騒ぐな」


耳元で、脅すような低い声音がささやく。その声に私は張り詰めた息を吐いた。

視界を塞がれ、背後を取られ、腰に回された手に腕ごと羽交い絞めにされているため全く身動きが取れない。

通りすがりの若者達がこちらの様子に気づいたのか、すれ違い様冷やかすように口笛を吹く。イチャイチャしているカップルと勘違いしたのだろう。

その何者かは、私を拘束したままゆっくりと移動し建物のかげに連れ込むと再び耳元に唇を寄せた。


「…一人で行動しないようにってあれほど言ったのに…。なんで勝手に出歩くの?これじゃ襲ってくださいって言ってるようなものだよ」


その()()は私の拘束を解くとくるりと反転させ向かい合わせに壁に押し付けた。


「もう少し自分の立場を理解して…ステラ」


心配そうに、けれど少し怒ったような顔のアレンにのぞき込まれ、私は素直に謝った。


「ごめんアレン…すぐ帰るつもりだったんだけど」

「全く…なんで僕に黙って出かけるの?しかもこんな時間までウロウロして…。心配するだろ。それに僕が言うのもなんだけどこんな簡単に捕まって…。ダメでしょ、もっと力いっぱい抵抗しなきゃ。これじゃ連れ去られても文句言えないよ」


アレンがお母さんみたいに小言を並べる。ちょっと前まで私の事を散々無視してた人間と思えない程、昔以上に口うるさい。


「普通だったらこんな簡単連れて行かれたりしないわよ」

「だったらどうするつもりだったの?僕が人攫いだったら今頃君は馬車の中だと思うけど?」


私の口答えにアレンがムッとしたように言い返してくる。


「…だって、アレンだってすぐにわかったから…」

「なに…?」

「声も背中に当たった感触もアレンだったし…。何なら匂いですぐアレンだってわかったし」

「……っ」

「子どもの頃から一緒にいるんだから当然でしょ。そばに来れば気配でわかるわ。まとっている香りだって間違える訳がない。アレンだってそうでしょ?違うの?」


彼が驚いたように一瞬固まる。が、みるみる赤くなる顔を隠すかのように私から顔を背け左手で口元を覆った。何事?と首を傾げる。


「アレン?どうしたの?顔が赤いけど…私変なこと言った?」

「…そういう不意打ち…ほんとやめて…」

「…?」


アレンが何を言ってるのかよくわからないけど、とにかく私はお腹が減った。


「ねえ、せっかくのお祭りだしよかったら一緒に回らない?アレンが一緒だったら平気でしょ?」


アレンが一緒なら寮に帰っても怒られるのは私ひとりじゃない。


「それにお腹空いた。これ以上我慢させるとお腹の虫が暴れだすかもしれない。そしたらアレンも困るでしょ?」

「…別に僕は困らないけど…でも…そうだね。折角のお祭りだし…。いいよ。ただし少しだけね」

「やったーーっ!アレン大好きっ!!」

「……っ」


またしてもアレンが顔を背ける。どうした?なんでいちいち顔を背けるの?あれ?もしかして私なんか臭う?慌てて腕やら脇やらの臭いをかいでみる。特に何も臭わないと思うんだけど…。


「なにやってるの?」


アレンが首を傾げてこちらを見る。あれ?普通だ…。


「いや…私臭うのかと思って…アレンいちいち私から顔を背けるし」

「それは…っ、そういう事じゃなくて…。違う。ステラは…いつもいい匂いがすると…思うよ…」


段々語尾が小さくなる。あら?アレンってこんな顔もする事あるんだ。なんかかわいい。これは大発見。もうすこしからかってみようかなと思ったところで、


きゅるるるるっっ…。


私のお腹の虫が再び催促を始めた。そうね、こんなところで時間を食ってる場合じゃないわ。早くしないとめぼしい物が売り切れちゃう。


「アレン!!行きましょ!!早くしないとおいしいものがなくなっちゃう!!」


私はアレンの手をギュッと握ると屋台に向かって一直線に駆けだした。








次回93話は明日19時頃更新予定です。

今日の続きになります。


クリスマスマーケット、毎年欠かさずどこかしらに顔を出していましたが今年は中止の所が多いのかなぁ…。フラストレーションがたまるのでその思いのたけを文章にぶつけてみました。私の心の叫びをこの2日間で聞いてください。


本日も最後まで読んでいただきありがとうございました。

明日もどうぞよろしくお願いします。

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