87 私とアレンとお仕置き
お待たせいたしました。
連載を再開します。
またまたよろしくお願いします。
クローディア様が学園を去って数週間が経った。
退校の理由が特に明かされる事はなく、別れの挨拶すらないまま突如姿を消してしまった彼女の話題で学園は一時騒然となった。
それにより憶測が憶測を呼び、噂による噂が独り歩きすることになった。
中でも一番面白かったのが駆け落ち説。
アレンと無理やり婚約させられた事に耐えられなくなったクローディア様が本命の使用人(←だれ?)と隣国に逃げたというもので私は思わず腹を抱えて笑い転げてしまった。当然のことながら一番の被害者はアレンでなんだけど、みんなからは憐みの目で見られ、ものすごく不本意そうな顔をしていたのが死ぬほど面白かった。そりゃそうよね。ほんとの事いう訳にもいかないし、「婚約者に逃げられた男」という不名誉な称号を図らずも手に入れたわけだから。それもまたおかしくてアレンの顔を見る度笑い転げていたらわかっていたけど八つ当たりされた。アレンの「梅干し」ホントに痛いのよ…。これほんとの被害者って私じゃない?
でもまあ、ギクシャクしてた私たちの関係もそこそこ元に戻ったし、今はアレンも普通に話してくれるようになった。全部今まで通りって訳には行かないけどとりあえず悪くない状況かな。
と、そんなことを考えている間も私のこめかみは死にそうになっている。
「アレン…っ、本気で痛いから…っ!離してっ…て」
「そうやって僕の顔見るたびに笑い転げる君にはお仕置きが必要なんじゃない?」
アレンが私のこめかみをげんこつでグリグリする。通称「梅干し」攻撃を受けながら逃げようと必死にもがく。でもアレンの腕はびくともしない。
「ホントに痛いから!!地味に痛い…っ!あっ…そうだ!アレン…っ私あなたに話したいことがあっ…て」
「なに?」
「し、白き乙女について…思い出した事があるの…ってか、痛いってば!もう笑わないから!離してっ…いたいぃぃ!」
アレンがパッと手を離す。私は逃げるように彼から距離を取ると威嚇するように毛を逆立てた。
両手で自分のこめかみをモミモミする。なんだかへこんでるような気もするけど気のせいだと思いたい…。
「で、何?」
若干アレンがムッとした表情のままこちらを見る。もう笑うのやめよう。百害あって一利なし。
「白き乙女って言葉を聞いた時からなんか引っ掛かるなぁって思ってたんだけど…ついこの間ね、思い出したの」
「……何を?」
アレンが訝し気に私を見る。いや違うから。「梅干し」から逃げるための口実とか、そういうのじゃないから。
「前世の私が学生の時に流行ってたゲームがあってね。そのタイトルがなんと『白き乙女ステラ』だったの。白き乙女と私…すごく似てない?もしかしたらここはそのゲームの世界だったりして~なんて思ったりして?」
アレンが目を丸くする。まあ、そりゃそうよね…こんなこと突然言われたって信じられるわけない。
「あっ、と…いきなりこんなこと言われても信じられないのはわかるんだけど…」
「いいから…、話して」
「…う、うん」
えっと、何から話せばいいのかな。
「えっと、私が生きてた前世の世界って、この世界よりずっと文明が進んでてね……」
「うん、その辺はいいや。ゲームの何を思い出したの?内容は?」
え、いいの?そこって時代背景だから結構大事なとこなんだけど。スマホとかアプリとか言っても伝わんなくない?
っていうか…アレンって最近気が短くなったな。すぐに怒るし。ちっちゃい頃のアレンは私の話を優しい眼差しでじっくりゆっくり黙って聞いてくれたのに…。ああ、あれだな。思春期だしな。カルシウムが足りてないお年頃だな。
「えっと…牛乳飲む?」
「…いらない。なんで?」
話が進まないとばかりに再びアレンが両手にげんこつを作って私にせまる。よく見ればこめかみに青筋がたってるような…。ひーっっ!!なんで?こわい!牛乳必要でしょ!カルシウム万歳!!
「ええっと…乙女ゲーム…って言っても分かんないと思うんだけど、要は自分自身がそのゲームの主人公の立場になってカッコイイ男性キャラクターを恋愛対象として攻略する恋愛ゲームの事なんだけど…」
「それで?」
あ?理解できてるんですか?
「『白き乙女ステラ』ってタイトルのゲームが確か私が高校生の時に流行ってたなぁって思い出したの。もしかたらそのゲームと私の転生と、この世界になんか関係があるのかなぁなんて思ったりして…まさかとは思ったんだけど、一応アレンには報告しておこうと思って」
「……」
アレンが微妙な顔で黙っている。う…やっぱり突拍子もなかったか…。でもこんなに符合する事って滅多にないと思うんだけどな…。
「それで…内容は?」
「え…?」
「ゲームの内容。ステラはどのルートまで攻略してるの?」
「ゲームの…内容?ルート?」
「……?」
「しらない」
「…は?」
「知らない。だってやったことないもん」
「………は、い?」
アレンが固まる。
「同じクラスの子たちが話してるのをちょっと小耳に挟んだだけだから内容は知らないんだよね。そもそも恋愛ゲームかどうかもよくわかんないし。流行ってるならちょっとくらいやってみようかなぁなんて思ったりもしたんだけど、めんどくさいし、そもそもそういうゲームに全く興味なかったから結局ググりもしなかったしストア覗くこともなかったから。タイトル思い出しただけでもホント奇跡。にも拘わらず夢に見ちゃう私ってすごくない?私の記憶力ほめて欲しい…って、アレン?ちょ…っ、なに?!」
アレンが私の頭を片手で鷲掴む。ちょちょちょっ…な、なんでっ…!
「ちょ…っと!なんで怒ってんの?!…」
「お前が…やってるって言ったから…オレものめり込むまで散々やりこんだのに…っ!それを今更やったことがない…だと…っ」
アレンが私の頭をギリギリと締め付けながら何かブツブツ言ってる。
「…いたたたっ!い、いたいっ!し、絞まるっ…しまるっっ…!」
「……とりあえず……謝ってもらおうかな」
怒りに声を震わせ、目を見開いて私を凝視するアレン。私の発言の何がここまでアレンを怒らせる原因を作ったのか全く分からないまま、私は彼に何度も「ごめんなさい」を言い続けた。
次回88話は明日19時頃更新予定です。
次回はちょっと12月っぽい話になります(^^♪
もう間もなく100話に手が届きそうな所まで来ましたので、番外編のようなものも書きたいなぁなんて考えています。もし、このキャラのエピソードを見てみたいぞなんてものがありましたら、コメント欄で教えていただけたら嬉しいです。
そしたら速攻交渉に行ってきたいと思いますので。
もしお時間がありましたら是非♪
本日も最後まで読んで頂きありがとうございました☆




