表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/188

84 オレとアイツと『スチュアート』という男

スチュアート編ラストです。

スチュアート=クラレンス。


誰だこいつ…っ!

こんなヤツ、ゲームのプレイ中一度だって見かけたことはない。脳みそをフル稼働して記憶を巡らせたが、いくら考えても名前はおろかイラストのモブにさえその存在を見つける事は出来なかった。


それなのに…ヤツはアイツの傍にいる。「攻略対象者」でもなんでもないくせに…。それがどうしても我慢できなかった…。こんな奴のためにオレはあいつの元を離れたわけじゃない…。そう思うと無性に腹が立った。




夏の休暇中の商談で、ハリエット領に出向いた事がそもそもの始まりだった。

どういう経緯でクローディアがそこにいたのか当初は全くわからなかった。けれど彼女はすぐに、オレが()()()()()だと気がついた。昔から感のいい妹だとは思っていたがまさかこんな形で再会するとは夢にも思わなかった。


彼女はオレが王宮から拉致されたあの日以降の出来事を詳細に話してくれた。

オレが病で急逝したとされた事、娘の身を案じた国王により自分がエドモンド侯爵に(かくま)われることになった事、当時王の側近でもあり幼馴染だったエドモンド候がクローディアのため、自ら降爵を願い出て子爵位に落ちこの辺境の地に退いた事。すべては(ラングフォード)家を守るために…。


これらの出来事は「ゲーム」の進行上の単なる「設定」であり、通常さほど重視されるのもではない。恋愛ゲームをプレイする数多の女性プレイヤーからしてみれば、主人公が攻略対象者と恋愛をする事が目的であり詳細設定なんてさほど気にしないからだ。実際当時のオレもそうだった。


ただ現状、このゲームの世界を現実世界として生きるオレにとってどんな些細な情報も看過することはできない。ましてアレクシス(第一王子)として転生してしまったオレにとっては尚のこと…。

この設定が唯一活きてくるルートがあるとすれば、それはバッドエンドに向かうルート。誰の攻略ルートにも入らなかったステラが唯一辿る破滅のルート…。




『ステラはロクシエーヌ王国を救うため自らの白魔力を使い果たした。まばゆい白光は一瞬で彼女を包みこみ、やがて弾けた。そこにはもう彼女の姿はなかった。彼女はその存在も含め皆の記憶から一切消えてしまったのだ。そして王国に平和が訪れた』




これがこのゲーム唯一のバッドエンディングのシナリオの…最後の一文だ。


ゲームシナリオ中、そこに至る詳細は明らかにされていない。すべての恋愛ルートから外れた段階でいきなりこのエンディングに飛ばされる。頭の中は「なんでこうなる?!」とハテナでいっぱいだったが、当時は「そういうもんか」と軽く流し気にも留めなかった。

とはいえこのバッドエンドは二周目に繋がるための必須ルートでもある。

これを通過しないと二周目の隠れ攻略キャラとしてのオレ、「《王子》アレクシス」は登場しない。しかも各ルートの選択肢で、従僕であるオレ(アレン)が第一王子である可能性を少しでも含む内容を選択すると「アレクシス」が登場しないばかりか、バッドエンディングにつながる確率が30%~50%以上跳ね上がるという、なんともオレに優しくないゲーム仕様だった。




オレと再会したクローディアは隣国の第二王子との婚約が決まった矢先だった。自らが望んだ相手だと聞かされ、これが単なる政略結婚ではないことが分かり嬉しかった。同時にあんなに小さかった妹が誰かの元に嫁ぐ歳になったのか…と少々感慨深い気持ちにもなった。ここまではとてもいい話だった…。それだけで済めばよかった…それなのに…。


事もあろうかあいつは「一度でいいから王都の学園に通ってみたい!」と突如目をキラキラと輝かせて言い出した。今までこの辺境のハリエット領に押し込められ社交界に出ることも友人と呼べる存在もいない自分にとってこれは最初で最後のわがままだ!と喚めき散らした。

確かに幼い頃「お転婆姫」と呼ばれるほど活発だった彼女にとって「籠の中の鳥」でいる事は相当の苦痛だったんだろう。我慢に我慢を重ね不満とうっぷんをため込んだ結果、オレに再会したことで爆発したんだろう。それはなんとなく納得した。

納得はしたが…オレは断った。そんなことをすれば彼女の身にも危険が及ぶ。それでは降爵してまで彼女を見守ってきたエドモンド子爵の苦労が無駄になる。

それにこれ以上学園で変な目立ち方をすれば、エリオットや皇后の目に留まってしまうかもしれない。それだけは避けたかった。


なのに…、


あいつは涙で脅してきやがった。

なんの自由も許されなかった妹がかわいそうだと思わないのかと。兄が突然死んでしまったと聞かされた自分がどんなに心を痛めて来たか、嫁ぐまでの短い間だけでも一緒に過ごしたいと願う妹の心をなぜ理解できないのかと。結果まんまと乗せられてしまったわけだが後悔したことは言うまでもない。


おかげでステラとの関係はおかしな方向にねじれ、オレは思い切り頬を張られる羽目になった。今でもその時の痛みを思い出しては深い闇に気持ちが沈む…。

オレはただ4人目の対象者が現れるまでおとなしく見守ろうと思っていただけなのに…。


確かにオレのやり方がうまくなかった事は否定できない。また前世と同じようにあいつを傷つけている事に気付いた時、そんな自分に愕然とし猛省した。けれど黙ってもいられなかった。

あいつがあんな男のために大金を用意しているとエルマーさんに聞かされた時、つい頭に血が上り、きつい口調で責めてしまった。もしかしてあんな男を好きになったのかと心の底から不安になった。オレは完全に自分を見失った。結果アイツの話も聞かず一方的に自分の気持ちを押し付けた結果、頬を張られ「大嫌い」だと言われてしまった。前世でだって言われたことのない言葉に意識が保てないくらい凹んだ…。



そして、一人危険な目に遭わせてしまった。

胸を貫かれたあいつを見つけた時、怒りで我を忘れた。もっと早くヤツに手を下しておけばよかったと心の底から後悔した。結果ヤツには逃げられ、腕の中にはドレスを真っ赤に染め意識のないステラがいる…。



ああオレは…()()目の前で彼女を死なせてしまった…。



そう思った瞬間、アイツの周りを白い光が包みこんだ。

その眩しさに目がくらみ、思わず目を瞑る。徐々に周囲が陽だまりのような温かさに包まれた。それはとても心地よいもので……。

次第に光は収まりオレはゆっくりと目を開けた。そこには静かに寝息を立てるアイツがいた。オレは安堵と共に彼女を強く抱きしめた。




なぜあいつが「ステラ」である必要があったんだろう。

そしてなぜ俺が、従者「アレン」なのか…。



どうせ転生するなら、ただの村人Aや村娘で十分だったのに…。

それならば前世で伝えられなかった想いを、もっと簡単に伝えられたはずだ。


「もう離れないから…。ごめんな…本当に…ごめん…」


オレはアイツの耳元に唇を寄せ静かにそう囁いた。




次回85話は明日19時頃更新予定です。


昨日本日とブックマークありがとうございました。

まだまだ続きますのでよかったら「しおり」挟んでいってください(^^♪


本日も最後まで読んで頂きありがとうございました☆

明日もどうぞよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ