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83 オレとクローディアと絆

「これからどうするつもりなの?」


三人連れだって部屋を出たところでクローディアが振り返った。


「彼女、肝心なこと何にも知らないんでしょ?このまま黙ってていいの?」

「今はまだ…話すことはできない…」

「どうして?!いきなり命を狙われたのよ!!彼女が《白き乙女》でたまたま強い力の持ち主だったから助かったけど、そうじゃなかったら死んでたかもしれないのよ!」

「…わかってる」

「わかってない!!何も知らないって事がどれほどの恐怖か…っ!あなたはわかってないわ!!一刻も早く状況を話して国王に保護してもらうべきよ!!」

「…クローディア様。大きな声を出すと彼女に聞こえます」

「…っ」


熱くなるクローディアをヴィクターが窘める。クローディアが口をつぐんだ。


「クローディア様の仰る事も最もだと思いますが、やはり今はまだ時期尚早かと…」

「どうして…っ」

「黒幕に大方の目星がついたとはいえ、今回は事が事ですので…不確かな情報で混乱を招くのは得策とは言えません。国王の周辺にどれだけ()()の派閥が紛れ込んでいるかわからない今、先に動けば足元を掬われかねない。()()()()であるこいつ(アレン)が生きているとわかれば再び命を狙われる可能性があります。こいつは9年前の生き証人ですから。ステラだって王宮で《乙女》として保護下に置かれれば私たちは会う事はおろか近づくことさえできなくなるでしょう。今よりずっと危険な状況に陥る可能性もあります。ならばここは今までどおり、学園での生活を送り私たちの手元に置いておいた方が安全かと思います」


ヴィクターの言葉に納得したのかクローディアがうなだれる。そして震える手でオレの腕をそっと掴んだ。


「……9年前…あなたが死んだと聞かされた時、目の前が真っ暗になったわ。葬儀だって簡素なもので、子どもだからという理由で最後の面会も許してはもらえなかった。とても信じられなかったわ…。だって前日までエリオットと3人、王宮の庭園を駆けまわっていたのよ。それが急に病で死んだとか…信じられるわけがないじゃない…っ。その後すぐ、私も訳も分からないままエドモンドのおじさまに連れられて王宮を出てハリエットの領地で暮らすことになった。理由を聞いても言葉を濁すばかりで本当の事はなにも教えてもらえなかった…」


クローディアの両腕に力が入る。


「あの日…、あなたがヴェルナー男爵家の使いとして現れたあの夏の日、私は自分の目を疑ったわ。髪も瞳の色も全然違う()()()()()()()()…でも間違える訳がない。まさか生きてたなんて…っ!人生であんなに泣いたのはきっと生まれた時以来だわ…っ」

「クローディア…」

「もう、失いたくないの…っ。悲しい思いなんてしたくない!!ステラも…()()()()!!死んでほしくないっ!!」


オレはクローディアの肩をそっと抱きしめた。


ベアトリーチェ(現王妃)がオレの事を煙たがっていたのは知っていた。オレは歴代の王子の中でも突出して魔力強かったそうだからな。母上(前王妃)が突然の病で亡くなって以来、自分ではうまく立ち回っていたつもりだったけど所詮は8歳の子どもだった。寝込みを襲われ気がつけば馬車で連れ出されていた。朦朧とする意識の中、馬車から飛び降りたオレを救ってくれたのがステラだった。彼女は自分の身に危険が及ぶことも顧みずオレの死を偽装してくれたそうだ。彼女が居なかったらオレは本当にこの世にいなかっただろう。彼女には感謝してもしきれない…」


オレは当時の事を思い出していた。隙間風の入り込む、家とは言い難い粗末な小屋。たった一つしかないベッドに寝かされたオレの傍らで静かに寝息を立てていた彼女に言いようのない愛おしさを感じオレは静かにその頬に触れた。この数時間後、オレは過去を思い出す。その愛おしさの正体に気付き、止めどなく流れる涙の感覚を今でも忘れない。

ふと見ると、クローディアがオレを見上げ微笑んでいた。



「愛してるんでしょう?彼女の事」

「愛してる。彼女以外考えられない程に…。きっと前世からずっと…」

「大げさね」


クローディアがフフッと笑った。


「守るよ。絶対に…。彼女は死なせない。彼女が老いて命の炎が尽きるまで。今度こそ絶対に死なせはしない」

「あなたも死んではダメよ。()()()()()お兄様」


オレはそっとクローディアの頭を撫でた。


「間もまく隣国に視察に行かれていたエリオット殿下とベアトリーチェ様がお戻りなる…。この事を殿下には?」

「あいつに知らせる必要はない。オレはあくまでヴェルナー家従僕のアレンだ。今はまだそれでいい」

「かわいそうなエリオット。あの子が一番お兄様を慕っていたのに…」

「王太子であるあいつは常に現王妃(ベアトリーチェ)の監視下にあるからな。下手に動いてこちらの手の内を知られるわけにはいかない。クローディアも余計な事を言うなよ」

「言わないわよ。っていうかエリオットと皇后が帰ってくるなら私も領地(ハリエット)に帰るわ。元々そのつもりだったし。そろそろ輿入れの準備もしなきゃいけないし」

「…お前が学園に通ってみたいと言い出した時はどうしようかと思ったよ。おかげでステラにも変な誤解をされてしまった」

「だって、一回でいいから学園生活っていうのを楽しんでみたかったんですもの。おかげで気がすんだわ。ありがとうお兄様」


クローディアがオレの首元に腕を回すとチュッと頬にキスをした。


「すべてが解決したら遊びに来て。もちろんステラ嬢と一緒に」

「ああ、お前も幸せに」


クローディアが艶やかに微笑んだ。その笑顔は、幼い日に見た母上の笑顔と重なって見えた。



次回84話は明日19時頃更新予定です。

昨日は評価を頂きありがとうございました(^^♪


明日はいつものアレンの回想回です。


本日も最後まで読んで頂きありがとうございました☆

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