81 私とアレンと仲直り?
少し遅れました(汗)
久しぶりに見たアレンの笑顔に私はハッと我に返った。
笑ってる…。
アレンが…。
こんな近くで…?
これ…夢?
私は彼の顔を両手で掴むと、もっとよく見てやろうと強引に顔を引き寄せた。
「ス、ステラ…痛い…何っ…?」
あ、普通に喋ってくれてる。うん、間違いない。これ絶対夢だ。
「ア、アレンが笑ってる…っ。もう二度とこんな笑顔見られないと思ってたのに…。ゆ、夢でも嬉しいよぅ…っ」
「……っ!」
アレンが困ったような顔で固まる。そして私の頭を抱きかかえるように引き寄せると、小さく、
「…ごめん」
と呟いた。あれ…おかしいな。もしかして夢じゃないの…?だったらなんで私はここでアレンと抱き合ってるんだろう?仲直りした覚えもないし…。そういえば何か大変なことがあったような気が…。
「……っ?」
なんだか胸の辺りが息苦しくて私はアレンから離れた。そういえば口の中も血の味がしてなんだか気持ちが悪い。鼻の中ももぞもぞする。無意識にふんっふんっと鼻で強く息を吸ったり吐いたりしていると突如鼻の奥からビシャッと何かが飛び出した。
「…っ!!」
ねっとりとした血の塊のようなものが白いシーツの上に飛び散る。
「ギ、ギャアァァァ…ッ!ちっ、血ィィィがぁ…っ!」
よく見ると自分の着ているドレスの胸元にも赤黒い血の染みが広がっている。
「は…鼻血がこんなに…っ!し、死ぬ…!」
「死なないから…とりあえず落ち着いて」
アレンは取り乱す私を押さえつけ水差しからコップに水を注ぐ。手渡された私は一気にそれを飲み干した。口と喉がなんとなくすっきりとする。
(あ、これレモン水だ…。さわやか…)
ほわほわと後味を確かめていると、
「全く…鼻血くらいで死ぬわけないでしょ?もっとすごい事されたのに…覚えてないの?」
呆れたようにアレンが息をはいた。
もっとすごい事……。
そう言われて私はようやく自分に何があったのかを思い出した。
(そ、そういえば…私、スチュアートにさ…刺されて…)
慌てて胸元をペタペタと触る。血まみれのドレスには引き裂かれたような跡が見える。そこを重点的にまさぐってみたけど刺された痕は一切見当たらなかった。私はアレンの顔を黙って見上げた。
「傷…ない」
「……」
悲しそうにアレンが私を見下ろした。
「そろそろいいか?」
いつから居たのか、部屋の隅で壁に寄り掛かり一部始終を見守っていたヴィクター様が口を開いた。
てっきりアレンと二人きりだと思っていた私は弾かれるように彼を見た。
と同時にここが自分の部屋じゃない事に気がつく。
「ここは…?」
どこだ?
ベージュゴールドの内装に落ち着いたエンジ色の調度品でまとめた室内は全く見覚えのない部屋だった。
「私の部屋ですわ、ステラ嬢」
鈴の音のようなかわいらしい声が私の名を呼ぶ。
声のする方に顔を向けるとソファに座ってお茶を嗜む可憐な少女が目に飛びこんできた。
「クローディア様…」
「ご気分はいかが?」
「あ…っ、えっと…」
慌ててアレンと距離を取る。こんな所見られて変に誤解されたら申し訳ない。
「ふふ、そんな事なさらなくてもよろしくてよ。それより、あんな大けがをなさっていたのに平気なんですの?《白き乙女》ってとっても丈夫なんですのね?」
《白き乙女》…。そうだ私…。
「全身血まみれのあなたを見た時は本当に肝を冷やしましたわ。どうして自分から罠に引っ掛かるような真似をなさったんですの?たった一人で乗り込むなんて無謀にも程がありますわ。最悪の結末が想像できなかったのだとすれば、とんだおバカさんですわね」
クローディアが普段のイメージとはかけ離れた冷たい表情で私を睨む。その美しさに一瞬で手足が冷たくなった。
「か…返す言葉もありません…」
クローディアは小さくしょぼくれている私をしばらく見つめていたが、「でも…」と小さく前置きをしてカップを置くとニコッと微笑んだ。
「とりあえず元気な姿が見られてホッとしましたわ。アレンの取り乱しようったらなかったんですから。ほんとあなたにもお見せしたかった」
「クローディア…っ!やめてくれ!」
クスクスと笑う彼女をアレンが真っ赤になって止める。アレンが…私の事を心配してくれた…?
「あとね…」
「クローディア様っ!!」
いたずらっ子のようにクローディア様がアレンをからかう。こんなにワタワタするアレンを見るのも初めてだけど、アレンをいじめて楽しんでいる風のクローディア様がなんだかとっても小悪魔的でこれまでとだいぶ印象が違う。あれ?…クローディア様ってこんな方だったの?
尖った尻尾と二本の小さな角つきのクローディア様が脳裏に浮かぶ。
「ゴホンッ…!そろそろ話してもいいだろうか!」
痺れを切らしたのかヴィクター様がめずらしく大きな声を出した。こんなヴィクター様もめずらしい。
「体調がいい様ならば少し話を聞きたいんだが、大丈夫か?」
「はい…大丈夫です」
アレンが私の隣に座り直すと抱えるように背中を支えてくれた。そんなことしてくれなくても大丈夫なんだけど、久しぶりだしちょっとだけ甘えてみる。
「クラレンス家の子息はお前に何を話したんだ?」
「……私の事を《白き乙女》だって…。《白き乙女》は伝説の白魔法使いで、あの方が私が《白き乙女》かどうか知りたがってると…」
「あの方とは?」
「わかりません。最後まで名は明かしませんでしたから」
「……」
「……」
ヴィクター様とアレンが顔を見合わせ頷き合った。
「《白き乙女の伝説》はこの国建国以来、王家と三大公爵家のみに口伝されてきた密事だ。本来ならこのような形で外部に漏れる事があってはならない。クラレンスのバカ息子も然りだ。だが…密事は漏れ、お前は命を狙われた。お前には知る権利がある。本来であればこのような形で話すべきではないのだが…。どうする?聞く覚悟はあるか?」
ヴィクター様の赤い瞳が鋭く光る。
私は私はゴクリと喉を鳴らすと静かに頷いた。
次回82話は週末14日(土)、19時とさせて頂きます。
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