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80 白き乙女と私の関係

―――鋭い痛みと共に頬から生暖かい何かがしたたり落ちた。




「あ…」


反射的に頬に触れた手が赤く染まる。振り返ると壁にナイフが刺さっていた。

背筋に冷たいものが走る。


「どう?ダーツで鍛えたんだ。なかなかのコントロールだろ?」


そう言いながら彼は二本目、三本目のナイフを投げてよこす。

一本は逸れ、もう一本は私の二の腕を掠めた。


「君、ちょっとやそっとの傷じゃ死なないんだってね?」


スチュアートは大きな歩幅で距離を詰めると、乱暴に私の首に手をかけた。

苦しさに顔をゆがめる。彼は私の顎をつかみ無理やり横を向かせるとニヤリを嫌な笑顔を浮かべた。


「ははっ、本当だ。すごいね…」


スチュアートはポケットのチーフで乱暴に私の頬をこする。


「……なにっ」

「治ってる…」

「…え…っ?」

「傷がない…治ってる…」


何度も私の頬を行き来する彼の手を払いのけ、自分の手で触れてみる。


「…っ!」


さっきまで温かいものが流れていた傷口がいつの間にかキレイにふさがっていた。


「うそ…」


今まで、怪我でも病気でも人よりちょっと治りが早いなあくらいには思っていたけど、これは…。


「ははっ…、これが《白き乙女》の力…伝説の《白魔法》か…」

「ま、ま…ほう…?」


すごいな、と興奮気味にスチュアートがまくしたてる。


「数百年に一度現れる《治癒》の力を持つ伝説の乙女…それが君じゃないかとあの方はおっしゃっていた。間違いないね…君は《白き乙女》だ!」


スチュアートが私の後頭部を鷲掴みにし強引に目線を合わせる。


「あとはその力の強さ…」


彼はいつの間にか右手に握っていた短剣(ダガー)を私の胸元に突き付けた。



(うそでしょ…)



「乙女の持つ魔力は常に一定ではないらしいね。その時々、その時代によって力の強い者もいればその逆もいる。それを確かめるのが僕の仕事だよ。君は…自分がどっちだと思う?」

「やめて…」


私の小さな懇願に彼は冷たく微笑んだ。


「この短剣(ダガー)で貫いて…もし君が生きていられたら」


(そんな訳ないじゃない…!死ぬわよ!!)


彼がその右手を大きく振りかぶる。私は大きく目を見開いた。


「その力は本物だ!」


そして短剣が私の胸を貫く――――――、






「ステラ――――――ッ!!」



ガシャーンと大きな音を立ててガラス窓が飛び散った。転がるように飛び込んできたのは…、



「ア…レン……?」



見慣れた赤髪が視界に入った。


アレンは私を見て一瞬ホッとしたような顔をしたが、その状況に即座に気づき、青ざめた。そしてこれまでに見た事の無いようなすさまじい怒りの顔色に殺気を乗せてスチュアートに飛びかかる。


「貴様ぁぁぁ!!」


スチュアートはチッと舌打ちをすると、私の胸から短剣を引き抜いた。その瞬間、気道に血液が流れ込み喉がヒクッと鳴り呼吸が詰まる。スチュアートは私から手を離すとアレンの剣をひらりと躱した。

ドレスが次第に赤黒く染まり崩れ落ちる私をアレンの左腕が支える。


「ステラッ!!」

「最後まで見届けたかったけど、そうもいかないみたいだね…。じゃあステラ、()()()


そう言って奥の扉へと姿を消した。


「ヴィクター!!ヤツを追えっっ!!絶対に逃がすなっ!!」


駆け付けたヴィクター様にアレンが偉そうに指示を出す。


(ちょっとアレン…いつからそんなにヴィクター様に偉そうな態度取るようになったのよ…)


私は薄れる意識の中でぼんやりをその光景を眺めていた。


(まさか、こんな事になるなんて思わなかった…。無謀だったかなぁ…。あーあ、また今回も長生き出来なかった…。アレンにも…こんな顔…させる…つもり、な…かったのに…。ごめん…)


アレンが何か叫んでる。でも何て言ってるのか全然聞こえない。ああ…意識が…遠くなる……。










「紗奈…」



最寄りの駅。足早に改札を抜けたところで声を掛けられた。私は黙ったまま足を止め、振り返ることなく彼を待った。

同じ電車に乗っていたのは知っていた。高3になり部活を引退した康介とはたまに帰りの電車が一緒になる事があった。だけど、話しかけられたのは今日が初めて。


「よかったら途中まで一緒に帰らないか?」


そう言われて固まった。正直断りたかった。だって何を話したらいいのかわからない。躊躇している私の無言を肯定と捉えたのか、行こう、と促された。私は仕方なくあとに従った。


「進路決めた?」

「…うん、まあ」

「大学?専門?」

「…一応大学」

「どこ?」

「……そんないいとこじゃないから」

「……そっか」


そんなたわいもない話が続く。こんな所誰かに見られたらまた変な噂をたてられるかもしれない。早く帰ろうと足を速めたいけど、なぜか康介の歩みが遅い。


(足長いくせに…なんでこんなにゆっくりなのよ)


若干イライラするのに言い出すこともできない。そんな自分にも腹が立った。

彼と並んで歩くのは何年ぶりだろう。小学生の頃は私より全然()()だったのに…。いつの間にか私の頭の高さが彼の胸の位置だ。


「毎日勉強勉強でつまんないよな」

「…受験生だからね。仕方ないよ」


極力普通を心掛ける。っていうか普通ってこれで合ってるの?


「息抜きとか何してる?」

「え…?」


突然息抜き…と言われても思い当たるものが全くない。そもそも息を抜かなきゃいけない程勉強にも力を入れてない。


「えっと…」


ぐるぐると考えを巡らせているうちにふと、クラスの女子の会話が頭に浮かんだ。


「ゲ、ゲーム…とか?」

「あ、オレも。何やるの?」

「スマホの…恋愛ゲーム…?(だと思う)」


ホントはやった事なんかないけど、なんとなく口から出てしまった。


「へえー、意外。面白いの?なんてゲーム?」

「ええっと…(確か)『白き乙女ステラ』って乙女ゲーム…」

「乙女ゲーム…。へぇ、お前もそんなゲームするんだ」


そうなんだ、と得心したように何度も頷いた。


「じゃ、じゃあ私こっちだから…」


分かれ道に来たところで私は強引に会話を終わらせた。これ以上突っ込まれても私に答えられる情報は何もない。そもそも乙女ゲームで合ってるのかどうかも怪しい…。

それじゃ、と頭を軽く下げて私は速足でその場を立ち去った。

その後姿を康介がいつまでも見つめていた事を私は知らない…。









闇の向こうに小さな光が見えた。


その光が段々大きくなる、いや近づいてきてるのか…。






「思い出した―――っっ!!」



突如覚醒した記憶に私は思い切り半身を起こした。


その瞬間、



「…ぁがっ!!」

「……っいぁっっ!!」


ゴツンッ、と、


額にものすごい衝撃を感じ、あまりの痛さにひっくり返る。

思わずオデコを押さえて(うずくま)ると、瞼の裏にちらつく星が見えた。


(せっかく思い出した記憶が逃げる…)



「イタタタッ…もう何よ…」


ようやく目を開くと同じように額を押さえて蹲る赤い頭が目に入った。


「アレン…?」

「相変わらず石頭だね…」


久しぶりに見たアレンの笑顔に私はハッと我に返った。





次回81話は明日19時更新予定です。


80話突破しました☆読んでくださる皆様のおかげです。

今日も最後まで読んで頂きありがとうございました(^^♪

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