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77 私とアレンと決別

エイデン商会からの使いが来たと連絡をもらった私は、急いで交流棟に向かった。

談話室のドアをノックし、返事を待たずにドアを開ける。


「こんばんは!エルマー…さ…」


てっきりエルマーさんが来てくれたんだと思いこんでいた私はその人物を見て思わず固まる。

そこに座っていたのは、腕を組んでこちらをじっと睨みつけているアレンだった。


「……っ」


机の上には大きな袋が二つ。


「エルマーさんなら帰ってもらった」


アレンは私の目を見つめたままそう告げた。

その態度から、彼が相当怒っていることが伝わる。

私はそっと彼から視線を外した。


「どういうこと?」


アレンの声が冷たく響く。


「こんな大金、いったい何に使うの?」

「……」

「答えて」


「…困っている友達がいるから貸してあげるの」


厳しい口調に尻込みするも、私は強く言い切った。


「…友達ってクラレンス家の子息の事?」

「……」

「君にお金を貸せって、そう言ってきたの?」

「違うわ。私が貸してあげるって言ったの。彼は自分からそんな事言わないわ。変な誤解しないで」


よくよく考えてみればアレンにこんな威圧的な態度で迫られる謂れはない。私は強い口調で彼を睨みつけた。

アレンはゆっくりと立ち上がると私の前に立った。



「君にとって彼は何?…恋人にでもなったの?」

「そんなんじゃない…。変な事言わないで」

「じゃあ、なんでそんなに尽くしてあげるの?彼の事、好きになった?」

「…そんな事、あなたには関係ない」



ダンッ!



アレンの拳が激しく机に打ち付けられた。

ビクッと肩が震える。


(……っ!)


こんなアレンを見るのは初めてだった。時々冷たい表情をしているのを見た事はあったけど、ここまで怒りの感情をあらわにしている彼は今まで見た事がない。

私は息を飲み、思わず一歩後ろに下がった。怯えた様子の私に気付いた彼はフゥーと大きく息をはくと改めて私の顔を見た。


そして、



「……あいつはダメだ」


冷たく言い切った。


「……」

「…あいつはダメだ。あいつには資格が…お前の隣にいていい資格がない…。だから、好きになるなら別のヤツに…」


その言葉に私はカッと頭に血が上った。


「何言ってるの…?」


アレンの言葉に、私は今までため込んでいた感情が爆発した。


「ステラ…」

「何言ってるのよ…資格って何?別のヤツって、どういう事…?何なの…?なんでアレンにそんな事指図されなくちゃいけないのよっ?!」

「ステラ…っ」

「私、スチュアートの事そんな風に思ったことない!だけどアレンに…、アレンにだけはそんな事言われたくないっっ!!自分は勝手に婚約しちゃったくせに…。私に一言もなかったくせに!ずっと私の事避けてたくせに…っ!!何なの!!アレンが何考えてるのか全然わかんない!!」


私はアレンの胸を力いっぱい拳で叩いた。


「…ステラ…落ち着いて」


アレンが私の両腕を捕まえる。その腕を振りほどき、私は右手を思い切り振り上げた。



パァンッ



乾いた音が室内に響く。私は力いっぱい彼の頬を(はた)いた。


「……だいっきらい…」

「ステラ……」

「アレンなんか大っ嫌い!!もう構わないでっ…ほっといて!!あなたの顔なんて見たくない…!」


私は思い切り彼を睨みつけると、金貨の入った袋をつかみ部屋を飛び出した。









「ごめん、ステラ…。ありがとう」

「ううん…」


翌日私はスチュアートにお金を渡した。


「…どうかした?なんか元気ないけど…もしかして、この事で何かあった?」


スチュアートが袋に視線を落とし、申し訳なさそうに私を見る。


「そうじゃないの。気にしないで」

「そう…?今日はもう帰らないといけないんだけど…残して行っても平気?」

「大丈夫。早く持って行ってあげて」

「…ありがとう」


スチュアートが私の額にそっとキスを落とした。


「父さんがお礼がしたいって言うんだ。近々君を晩餐に招待したいって言うんだけど…どうかな?」

「……気にしなくていいよ。いろいろ忙しいでしょ?」

「大したもてなしなんかできないけど、気持ちだから。ね?」

「…うん、わかった」

「よかった。予定が決まったら馬車を迎えに寄越すから。また連絡する」

「うん」




スチュアートを見送った私は一人図書室に残った。

真実を知った今、もう彼を友人だと思う事は出来ない。

心にぽっかりと空いた喪失感が怒りによるものなのか、それとも悲しみのせいなのか…今の私にはよくわからなかった。


借金まみれの彼に大金を匂わせ、私に近づくよう指示を出し、利用した人物がいる…。



スチュアートが吐き出した言葉からそれだけはわかった。

その人物が誰なのか…まったく見当がつかない。

どんな目的があるのかも心当たりは何一つなかった。


スチュアートはその人物を「あの方」と言っていた。

彼のような人間が「あいつ」ではなく「あの方」と呼ぶ程の人物。

そして彼に大金を渡せるだけの財力のある人間…。


(いい人間でない事は確かね…)


金貨のお礼にと晩餐に招待された。これは間違いなく私をおびき出すための罠だ。


(会いたいって言うんなら是非会ってもらおうじゃない)


金貨はスチュアートを油断させるために私が仕掛けた(エサ)だった。

私がダメンズに貢いでしまうような「ヒモ女」だと思わせるために敢えて大金を準備した。過去ヒモ女だった経験を持つ私は二度と同じ轍は踏まないのだよ、バカめ!!


まあ、撒き餌程度にしか考えてなかった作戦にこうも簡単に食いつかれると拍子抜けしてしまう。でももしかしたら向こうも急を要する何かがあるのかもしれない。油断は禁物だと気を引き締めた。

「君子危うきに近寄らず」ということわざがあるけど、もし仮に不意を突かれて襲われでもしたら私なんかに勝ち目はない。だったら準備を整え自ら向かう方が余程勝算があるだろう。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の方が私の性に合ってる。


(どんな大物が釣れるんだろう…っていうかほんと誰?)


恐怖がないと言えばうそになる。でも今の私に頼れる味方はもういない。


(アレンには頼らない…)


そう心に決めた。彼とは昨夜完全に決別した。もう二度と頼ることはない。

押さえつけていた気持ちを感情のまま吐き出した私に後悔はなかった。

もういい…。これでアレンとの事は終わりにする。




(大丈夫…。きっと何とかなる…)




私は席を立つと明り取りの窓に近づいた。

雲一つない真っ青な秋晴れ。今日もいい天気だ。


ふと下を見ると人気のない中庭のベンチにアレンとクローディアの姿が見えた。

笑顔で語らう二人の様子をただ静かに見つめる。




私はそっとカーテンを引いた。






次回78話は明日19時更新予定です。

今日もブックマーク登録と評価☆彡頂きました(*^^*) 

嬉しいvvvありがとうございます。


明日はアレンとクローディアとヴィクター様が出てきます。

ちょっと文字数少な目のお話になるので、活動報告で登場人物の紹介ができればなと思っています。


今日も最後まで読んでいただきましてありがとうございました。

引き続きよろしくお願いします(^^♪

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