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75 私と、友人のためにできる事

私の図書室通いは最近の日課となっている。

放課後の人気のないこの場所はゆっくり考え事をするのに最適な場所だった。


スチュアートはこのところ、全く図書室に顔を出さなくなった。

何かあったのかと心配になったけど、学年も違いクラスもわからない彼の事を確認しようがなかった。

よく考えてみれば私は彼自身のことについて何も知らないのだと今更ながらに気が付いた。



何日かたったある日、久しぶりに図書室に彼の姿を見つけた。



「スチュアートっ!」

「やあ、ステラ。久しぶりだね」


普段と変わらず積み重ねた本に埋もれながらいつものように読書に勤しんでいる。

顔を上げて微笑んだ彼が変わらない様子でなんだかちょっとホッとした。


「どうしてたの?全然来ないから心配してたのよ!何かあったの?」

「ん?……んーっ、まあ、ね」


めずらしく歯切れの悪い返事に何かあったんだと確信した。


「話してくれる?」

「うん?ん…」


話したくなさそうに言い淀む彼の手をギュッと掴む。


「話して」


彼は諦めたようにはぁと息をはいた。


「……爵位の返上の時期が早まりそうなんだ。ちょっとごたごたがあって…」

「ごたごたって?」


スチュアートが言いたくなさそうに下を向いたまま、指で前髪をくるくるともて遊ぶ。

ひとしきりそうしていた後、ようやく口を開いた。


「身内がね…、よくない所でお金を借りてしまっていたみたいで…ね。その返済で揉めてるんだ。場合によっては…私も学園にはいられなくなりそうで…」

「身内って…ご兄弟?」


スチュアートが目を瞠る。


「知ってるの?うちの事」

「詳しくは…知らない。ただご嫡男が…そういう方だって聞いたから」

「そっか…」


彼はフフッと笑うと、


「卒業までは大丈夫だと思ってたんだけど、人生うまくいかない時はいかないものだよね」


寂しそうな顔で微笑んだ。






「…いくらなの?」



―――バカな事を思いついたなと思った。



「え…?」

「その借金っていくらなの?」



―――でも、一度口から出た言葉は取り消せない。



「さあ…よくわからないけど…金貨50枚くらいって言ってたかな?」

「だったらそれ…私が肩代わりしてあげる」

「なっ…!」


スチュアートが目を見開いて私を見た。


「それだけあればとりあえず学校には残れるんでしょ?それくらいなら私が立て替えてあげるわ」

「…何言ってるんだ…ダメだよそんなの…。君にそんなことをしてもらう理由がない」

「理由ならあるわ。私たち友達でしょ?それにあげるわけじゃないもの、とりあえず貸してあげるだけ。あなたが学園を卒業して仕事について出世したら返してくれればいいし、もちろん利子なんていらないわ。何なら倍にして返してくれてもいいけど」


私はちょっとだけえらそうに言ってみた。スチュアートは口を開けたままじっと私を見つめ逡巡していた。ようやく口を開いた彼は真剣な目をしていた。


「…ありがとうステラ。すごくありがたい申し出だけど…。そんなことしてもらったら私は君と友達でいられなくなるよ。気持ちだけ…受け取っておく」


ありがとう、とスチュアートが笑った。だけど私は引き下がらない。


「ねえ、スチュアート…。私の申し出があなたのプライドを傷つけてる事は十分わかってる。自分でも嫌な女だなって思うから…。だけど…困っているあなたを放っておけないわ。私が嫌なの。だからお願い。うんって返事して…?」


スチュアートはそれからまた長い時間、下を向いたまま身動ぎひとつしなかった。時計の秒針の音だけがやけに大きく室内に響く。ようやく彼が顔を上げた。



「……全部返すまでに…きっと時間がかかると思うよ…?」

「かまわないわ。私、おばあちゃんになるまで生きてるつもりだから。でも死ぬまでには返してね。約束よ」


私は彼の前に小指を差し出した。

スチュアートはフッと笑うとためらうことなく私の小指に自分の小指を絡めた。


「指切りか…懐かしいな…」

「……」

「ありがとう、ステラ…」


小指を解きお互いの顔を見る。


「……お金は…必ず返す。君には絶対迷惑をかけないと約束する。本当に申し訳ない……」

「謝らないで。こういう時はありがとうって言うだけでいいの」


私は相変わらずスリ落ちている眼鏡をそっと彼から外した。


「…ステラ?」


そしてケースから真新しい眼鏡を取り出して彼の顔にかける。


「これは…?」

「あんな眼鏡じゃ集中して本が読めないでしょ?よかったら使って?大事にしてね」






私はその日のうちにへイデンさんにお金の都合をつけてくれるよう手紙を書いた。

2,3日中にはエルマーさんが届けてくれるはずだ。


こんな形で彼を助けるはよくないのだと十分自覚している。

自分でも馬鹿な事をしてるなあと呆れているのも事実だ。

でもこの行為が少しでも彼の力になるのなら、それでいいと思った。










例え彼の言葉が嘘だったとしても…。








次回76話は明日19時更新予定です。

昨日、今日とブックマークありがとうございました☆


ちょっとステラが、うーーん…な事してますが…。

温かく見守ってもらえると嬉しいです。


今日も最後まで読んでいただきましてありがとうございました(^^♪


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