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68 私とバザーとアレンと美少女

夢を見た。


あれは(さな)が高校生だった時の記憶…。


人影のない校舎裏。そこにいたのは康介と……知らない女の子。

ああ、またか…と思った。邪魔しちゃ悪いと思って踵を返す。


康介が彼女の告白を断るであろうことはわかっていた。

中学生の頃から何度も見てきた光景。

とにかく女子に人気があった彼だけど、これまで彼女を作った事は一度もない。

だから今回も断るんだろうと予想はついた。


案の定、康介の口から出たのは断りの言葉。

それでも女の子は食い下がっていた。誰とも付き合ってないならお試しでいいから。そんなことを言っていた。

康介は困った顔をしていた。



「好きなやつがいるから…付き合えない。ごめん」



諦めない彼女に彼はそう告げた。


そうだったのか、と納得した。

今まで断っていたのはちゃんと理由があったんだ。

同時に康介にもそんな子がいたのかと少し驚いた。

今までそんな素振り、一度も見せた事がなかったから。

胸のあたりが少し痛んだ、気がした。

私は静かにその場を後にした。








チャリティーバザー当日、秋晴れの空は青く澄み渡り、雲一つないいい天気となった。


私たちは前日から寮のキッチンを借りて作った大量のカップケーキを会場となる教会に運び込んだ。

体中に甘い香りが染みついている気がする。

教会の裏手に割り当てられた野外会場の販売場所でセシリアとシンディが浅めのバスケットに種類別にカップケーキを並べていく。

私とリリアはレモネード用に作ったレモンのハチミツ漬けとカップを準備する。

その様子を孤児院の子供たちがじっと見つめている。


「リリアねーちゃん、なんかいつもと雰囲気違う~」

「うん!いつもより全然キレイ~」


今日もシンディにいじり回されたリリアは、普段の彼女しか知らない人が見たら同一人物とは思えないくらい改造されていた。

はっきり言って面影がない。まさにビフォーアフター。


中途半端に伸びていた前髪は上部でふんわりとポンパドールにし、後髪は作業の邪魔にならないようにすっきりとまとめられている。当然メガネはなし。

それだけでも大分印象が違うのに今日はフルメイク。学校じゃないからとセシリアが朝からとっても張り切っていた。魔法のクリームでそばかすを消しアイメイクもばっちりと施し、少し明るめのリップを差した彼女はそれは美しい淑女に変貌していた。

その証拠にさっき来た彼女の母であるアンダーソン男爵夫人がリリアに気付かず、自分の娘に丁寧にあいさつをして忙しそうに去っていった。


「ふふっ、そう?ありがとう」


心なしか彼女の言動にも自信が満ちているような気がする。


「ねえ、僕たちは何したらいい?」

「お手伝いするーっ!!」

「ええ?…っと、何をお願いしたらいいかな…?」


リリアが急にワタワタとし始める。うん、中身はそう簡単には変わらないよね。


「じゃあ、みんなにはこのレモネードを担当してもらおうかな?」


私は子どもたちを集めると目線を合わせるためにしゃがみ込んだ。


「この瓶の中にはレモンを薄く切ったものをはちみつに漬けたシロップが入っているの。それをスプーンで二杯カップに入れてね。そこに温かい紅茶を注ぎ入れればはちみつレモンティーの出来上がりよ。できるかな?」

「「できるーーっ!!」」


子どもたちが声をそろえて元気に返事をする。


「残りの子たちはこのバスケットに入れてカップケーキを売りましょう。きっとご婦人たちには好評だと思うから。なくなったら取りに来て。たくさんあるからじゃんじゃん買っていただきましょう」

「「はーい」」


口々に子供たちが返事をする。

うん、いい子たち。


「子どもたちの扱いがお上手なんですね?」

「ふふ、まあね」

「みんなもなんだか楽しそう。あんなに生き生きとしているあの子たちを見るのは初めてです。これもステラさんのおかげです。ありがとうございます」

「ううん、私の方も楽しませてもらってるわ。私こういうイベント大好きなの。誘ってくれてありがとう、リリア」


私たちは顔を見合わせて笑った。


(そう言えば、ローレンス様…。本当に来てくれるのかな…)


こんなに美しく変わったリリアを見て欲しい反面、私個人としては会うのはちょっと気まずい。

正直どんな顔をして顔を合わせたらいいのかわからない。


(とりあえず、逃げちゃおうかな…)


子どもたちがカップケーキを売りに行くことだし、私も一緒に行こうかな?そうだ、そうしよう。

リリアにそう伝えようと振り返ると、目の前にいた誰かにぶつかった。


「あ、ごめんなさい…」


そう言って見上げた相手は


「…ローレンス様…」


よりによって、なんてタイミング…。

ローレンスは少し驚いたような顔をしたけどすぐにいつものように微笑んでくれた。


「ステラ嬢。お約束通り、遊びに来ましたよ」


こういう時、どんな顔をしたらいいんだろう。おそらくすごく困った顔をしていたに違いない。

ローレンスはそんな私の気持ちに気付いたのか、そっと耳元に顔を寄せると、


「そんな顔をしないでください。あなたの笑顔が僕は好きなんです」


そう言って私を真っすぐ見つめ笑ってくれた。

彼の優しさに触れ、私は少し心が軽くなった。


(ローレンス様が普段通りに接してくるんなら私もちゃんと切り替えないと)


顔をピシャッと叩き私も笑顔を作った。


「お待ちしてました、ローレンス様。もしよろしかったらお茶を召し上がりませんか?ここでははちみつレモンティーを提供しています。甘くてとてもおいしいですよ。リリア、お願い」


私はリリアに紅茶の準備を頼んだ。


「え…っ、リリア…?」


紅茶を持ってきたリリアを見てローレンスが固まる。


「ご無沙汰…しております。ローレンス様」


今日のリリアはローレンスを真っすぐに見つめ恥ずかしそうに微笑んだ。


「リリア…なのか?本当に?なんだか今日は…雰囲気が違うな…別人のようだ」

「シンディたちが彼女のいい所を引き出してくれたんです。キレイでしょ?ローレンス様」

「…ああ、そうですね。驚きました」


口元に手を当てて目を見開いているローレンスの様子に、おっ!と思った。

これは…満更でもないんじゃ…?

まあここから先は二人の問題。うまくいくことを願って、


「私、子どもたちとカップケーキ売ってくるから。リリアはローレンス様をおもてなししてね」

「…ええっっ!」


私はそそくさとその場を退散した。

私が居たんじゃまとまる話もまとまらないだろうし…。

頑張ってるみんなには悪いけど、このお祭り的な雰囲気を楽しんでみたかった気持ちが勝った。


(後でちゃんと働くから、ね?)


そう勝手に決めて私はスキップでその場を離れた。




バザー会場はなかなか賑わっていた。

外部から出店を募っていたと言っていたからその店舗内容も多種多様だ。私たちのようにお菓子を売る店もあればサンドイッチのような軽食を売る店もある。子ども用の服や靴、高級なものではないアクセサリ―やリボン…。輪投げや的当てなんかのゲームもある。

フリーマーケットと縁日を足して二で割ったような雰囲気に昔を思い出してなんだかワクワクした。


リリアの話だと彼女のお母さん、アンダーソン夫人は平民街の生活の向上に力を注いでいる方らしかった。孤児院の援助や教会への寄付はもちろん、平民街の商工業の発展への協力にとにかく尽力する人なのだそうだ。そんな夫人の活動を間近で見てきたリリアも自然にその精神を受け継ぎ率先して孤児院の慰問活動に勤しんできたらしい。

リリアと違いふくよかな体格の女性で、イメージ的には定食屋さんのお母さんって雰囲気だった。こう言っては何だけどリリアとは正反対のタイプ。


(リリアはきっとお父さん似なんだろう)


勝手にそう結論付けた。



(こんなことならミハエルにも声をかければよかった)


色々考える事が多くてそこまで頭が回らなかったことが悔やまれた。

コロッケサンド、絶対人気が出ると思うのに…。つい商売人根性が顔を出す。



「レモネードいかがですか――っ」

「かっぷけーき、おいしいですよ―っ!」



子どもたちの元気な声が聞こえてくる。

あっヤバイさぼってるのがばれちゃう…。

そろそろ戻って手伝おうかと振り返った視線の先に、ふと見慣れた髪色が目に入った。


(ん…?あれって、もしかして…)


人混みの向こうに、見え隠れする緋色の頭を見つけた。

間違えるはずがない。あれは間違いなくアレンだ。

あの日以来、再び顔を合わせる事がなく彼も私の元を訪ねてくることはなかった。

おかしな別れ方をしてしまったのでずっと気にはなっていた。まさかこんなところで会うなんて…。


今日の彼は学園の制服でもなく普段着でもなくちょっとよそ行きの服装をしていた。

濃紺のロングコートは立襟から胸元にかけて銀糸の美しい刺繍で彩られている。胸元には真っ白のジャボ、繊細な細工の施された金色のタイチェーンの輝きはそこらの安物とは明らかに違う美しさ。


声をかけることが躊躇われ、思わず伸ばしかけた腕を引っ込めた。

誰かと話をしている。人並みのせいであまりよく見えないけどどうやら連れがいるらしい。

その時、アレンがその相手に向かって微笑んだ。その優しそうな笑みに思わずドキッとした。

そしてその手を優しく差し出す。



視線の先にはとても美しい女性がいた。



腰まで伸ばした絹糸のようなブロンドの髪、深い海のようなターコイズ色の瞳。アレンと対に見える濃紺のドレスにはタイチェーンとお揃いの金のブローチが輝いている。

彼女はアレンの手にそっと自分の手を重ねた。その腰に当たり前のように彼の手が回る。その自然なエスコートに私はつい目を奪われた。


それはまるで、絵本の中の王子と姫のようで…。


二人の姿が人混みの中に消えた。

私はその場を動けず、立ち尽くす…。





その時だった。





「大変だ!!子どもが…っっ!!池に落ちたっっ!!」



次回69話は明日19時更新です。


ブックマーク&評価ありがとうございました。

ローレンス編も終盤ですがアレンに美女の陰…です。


この後もぜひお付き合いくださいませ。

よろしくお願いします☆

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