66 友とリリアの改造計画
翌日、私たちは朝からリリアの教室に押し掛けた。
シンディの勢いにウサギのように怯えまくるリリアを拉致…もとい(無理やり)合意の上、別教室に連れ出す。
「リリア…。昨日はあなたの気持ちも考えずに自分の考えを押しつけてしまって本当にごめんなさい」
私は昨日の暴言について謝罪し、深々と頭を下げた。
そんな私にリリアは、
「そ、そんなっ…っっ私の方こそあんな失礼な態度を取ってしまって…本当に申し訳ありませんでしたっっ…っ!」
そう言ってその場にしゃがみ込むと床に頭を擦り付けんばかりに低く頭を下げてきた。
「ちょっ…やめてよ!!私が謝ってるのにっっ!!リリアが頭を下げるのはおかしいでしょっっ!!」
私より低く頭を下げられたんじゃ意味がない。私も同じようにしゃがみ込んで床に頭を擦り付けた。
二人向かい合ってお互いに頭を下げ合う。そんな様子を黙って見守るシンディとセシリア。
「……なにこれ」
「謝罪の儀式?でしょうか…。面白い絵面ですわね」
授業の始まるまでのわずかな時間なのに、思いのほか時間を食ってしまった。
私たちはようやくリリアの『改造計画』を開始した。
「まずリリアのその髪型を何とかしよう。なんでそんな中途半端な前髪なわけ?伸ばすか切るかどっちかにしなさいよ」
顔の半分を覆う前髪をつまみ上げながらシンディが文句をつける。
「リリアさんは年齢より幼く見えますから、おでこを出した方がいいかもしれませんわね。それから三つ編みも。今時平民街の幼女だってこんな髪型してませんわよ」
グサグサと突き刺さる言葉の槍。ちょっと待って。二人とも私よりひどい事言ってない?
「眼鏡も…ってこれ、もしかして伊達なの?なんで?!レンズ入ってないじゃない?!」
シンディがリリアの眼鏡を無理やり奪い取り、本来レンズのあるべき空洞にチョキを抜き差しする。
「それは…っその…眼鏡があった方が他人に視線を読まれないかと…」
「誰もあなたの視線なんていちいち気にしてないわよ」
言葉の槍が剣に変わる。これ、リリアもうすぐ死ぬんじゃない…?
案の情リリアは魂の抜けたような顔で固まってしまった。
っていうか、シンディ最近口悪くない?
「だって、今までは猫被ってたから。誰だって最初はそういうもんでしょ?」
そんな直球な答えが飛んできた。なんてストレート。気持ちがいい。
「ただでさえ華がないのに、こんなダサい髪型してるからみんなに舐められるのよ。まあ、三つ編みのおかげで軽くウェーブがかかってるるし、ハーフアップにしてみましょう。上半分を編み込みながらサイドに寄せて…」
シンディが器用に編み込みをしながら左サイドにふんわりとしたお団子を作る。顔周りに残していた毛束で三つ編みを作りその周りにくるりと巻き付けピンでとめる。
「…で、このお団子から少し毛束を引き出してさらにふんわりさせて…小花のピンをいくつか差して、前髪もサイドに流して……、はい出来上がり」
「うわ…かわいい…」
そこには見違えるようなリリアがいた。
「わっ、ホントだ。いいかんじじゃない?元は悪くないのね。今まで大分損してたわね、もったいない」
「あとはこのそばかすですわね」
セシリアが何かのクリームを手の甲に伸ばし、リリアの頬の高い部分にポンポンと叩いていく。するとみるみるうちにそばかすが姿を消していった。
「なにそのクリーム?!すごいわね」
「私の婚約者の商会のお品ですの。高価なものですから効果てきめんですわ」
「…は?なに?ダジャレ?」
シンディが乾いた笑いを浮かべる。
それからほんのりと頬に赤みを入れ、淡い色のリップをさす。
私はリリアに手鏡を渡した。
「見てリリア!あなたこんなにかわいらしかったのね。見違えたわ!」
「これが…私…ですか…?」
鏡越しに自分の姿を見たリリアが呆然と立ち尽くす。
「あのねリリア。女は常に磨いて美しくなるものなの!どうせ自分なんか…なんて下を向いて何もしないくせに誰かに認めてほしいとか
虫が良すぎるのよ。社交の世界は見た目8割!そこをクリアして初めて中身で勝負できるのっ!わかる?!」
「べ、勉強になります…!」
シンディの力説をリリアが真剣な顔で聞いている。
「さあ、これで一日過ごしてみて。あ、ランチは一緒に取るから絶対に来てね。っていうか迎えに行くから、反応を聞かせてちょうだい」
シンディはいい仕事をした職人さんのように清々しい笑顔でリリアを送り出した。
「で?どうだった?」
「…はい、学園にきて初めて人に話しかけられました!」
「……どんだけよ…」
今日のランチに選んだのはビーフシチューとパン、ポテトサラダとリンゴのコンポートのセットだ。四人揃って同じメニューを注文し席に着く。心なしかみんながチラチラこちらを見ている気がする。みんながリリアに注目している。それがなんだか嬉しい。
「すごいわね。リリアの効果。さっきからみんながこっちをチラチラ見てる」
私は小声で三人に囁く。するとシンディが冷ややかな顔で私を見た。
「あなた、本気で言ってるの…?」
え、なんで…?違うの?
他の二人を見るとなんだか微妙な顔をしている。
「まあ、いいけどね…。あなたはそう思ってなさい」
なんでこう鈍いのかしら…、と何やらブツブツ言ってるのが聞こえる。
なによ…最近シンディ冷たい…。
ちょっと悲しくなってビーフシチューをスプーンですくった。
「ねえ、リリア。バザーってローレンス様もいらっしゃるの?」
私はふと疑問に思ったことを聞いてみた。
「いえ…いらっしゃらないと思います。そういった集まりはお好きではないようなので…」
「誘わないの?」
「…私がお誘いしても無駄だと思います」
リリアは持っていたスプーンを置くと俯いた。
そっか…きれいになったリリアを見てほしかったんだけどな。
「ステラが誘ってきなさいよ」
「えっ…私が?」
シンディが私を名指しする。
「言い出しっぺでしょ?ステラが誘ったら来るんじゃない?」
(そんな事リリアの前で…っ!)
私はハラハラしながらリリアを見る。
「あの日から逃げ回ってるんでしょ?リリアに協力するつもりならあなたもきちんと自分の気持ちを伝えなさいよ。中途半端なのが一番人を傷つけるのよ」
シンディのいう事はもっともだと思った。
私は大きく頷くと残りのランチを頬張った。
次回67話は明日19時投稿予定です。
よろしくお願いします。




