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62 私と友と女子トーク

「あーー、やっぱりそうだったかぁ」


恒例の夜のお茶会。最近は寮母さんに目を付けられ始めたのでカーテンをきっちり閉め明かりを落とし気味にしている。

シンディがたっぷりミルクを入れた紅茶をすすりながらそう言った。


「やっぱりってどういう事?」


私は今日の平民街での出来事を洗いざらいシンディとセシリアにぶちまけた。

まさかの婚約者の登場に思わず思考をシャットアウトした私はローレンス(とアルフォンス)をその場に残し学園に戻った。

ローレンスが慌てたように一生懸命何かを訴えていたけど全く耳に残っていない。

どうやってその場を離れたのかも、どうやって彼を置いてこられたのかも全く覚えていなかった。


寮に戻って部屋着に着替え、ゆっくりとお茶を嗜んだ。

それから夕食を食べ、入浴を済ませると、ようやく家出していた脳みそたちが少しづつ戻ってきた。状況を把握したのは夜。

私の「無」の状態を心配したシンディとセシリアが部屋を訪ねて来てくれて今に至る。


「なんか聞いた事があったようななかったような?リリア=アンダーソン。確か私たちと同じ一年生じゃなかった?」

「ええ、アンダーソン男爵家のご令嬢ですわね。男爵夫人が慈善家として有名な方ですわ。チャリティーの催しものに力を入れておいででリリア様も幼い頃から参加されてるようですわよ」


小柄で顔も幼い感じだったからルーカスと同い年くらいかと思った。


「大人しすぎて誰の目にも止まらないのと、こう言っては何だけど華やかなローレンス様と釣り合わなさ過ぎてうっかり忘れてた。言われてみればそうだったわ」

「よくも、私に勧めてくれたわね…」


危うく泥棒猫になるところだった。私こう見えて倫理感は人一倍高い方なの。昔自分がそういう目に遭ったっていうのも要因の一つだけど、自分の不貞で誰かが傷つくなんてそんな事絶対にありえない。


「だって、言われるまで忘れてたんだもん。しょうがないでしょ?それよりローレンス様よ。婚約者がいるのにステラに告白してきたんでしょ?やるわね、彼」

「シンディ…?」


私が軽くにらむとシンディがへへっと笑った。絶対面白がってるでしょ…?


「でも、あの二人の間に接点がないのは確かですわ」


セシリアがお皿に盛られたマカロンを両手に掴み交互に食べている。


「学園でも話している所は見た事ありませんし、アンダーソン家のパーティーでローレンス様を見かけたことは一度もありませんわ」

「典型的な政略婚約ってやつね」


シンディがお皿のマカロンを一つつまみ上げる。その手をセシリアがつかみパクっとマカロンに食らいついた。


(確かにローレンス様のあの態度…好意のひとかけらも感じなかった…)


政略結婚。

この世界ではよく聞く言葉だけど私にはいまいちピンとこない。

前世では恋愛結婚が主流だったし、お見合いとか婚活とかはあったけど基本的にはお互いの気持ちが尊重されるのか当たり前だった。

親に勝手に相手をあてがわれ、家の繁栄のために利用されるなんて、ある意味平民より自由がない気がする。あ、そういえば、


「二人には婚約者っているの?」


ふと疑問に思ったことを聞いてみる。二人ともこう見えていい所の令嬢だった事を思い出した。


「いるわよ」

「おりますわ」


二人ともほぼ同時にそう答えた。


「えっ、うそ…」

「私たちの年齢でいない方がどうかしてるでしょ?いい物件なんて早いもん勝ちなんだから。政治や権力にうるさい家門だと生まれた時から目を光らせてるなんてざらよ。そういうステラは?いない…わよね。うん、見てたらわかる」


え…なにその残念な感じ。確かにいないけど…。


「二人の婚約者ってどんな人なの?」


おっ、なんか女子トークっぽい。こういうのちょっと憧れてたんだよね。


「私の相手は伯爵家の三男よ。歳は十離れてるわ。私一人娘だからちょうどいいのよね。学園を卒業したら結婚して家に入ってもらう予定なの」

「私のお相手は王都に商会を持つ商家の次期ご当主ですの。今は外国に留学なさっていますわ。結婚はまだ先になると思いますのでしばらくは花嫁修業ですわね」

「二人は相手の事どう思ってるの?」


シンディとセシリアは顔を見合わせた。


「…まあ、嫌いではないわよ。大人だし大事にしてくれるし、ね」

「私はあんまりお会いする機会がないので何とも言えませんわ。最後にあったのは2年ほど前ですし」

「ええっ!それで、結婚って…不安じゃないの?」

「不安は…特にはありませんわね。結婚ってそういうものですから。私の姉たちもそうやって嫁いでいきましたし、貴族の結婚はそういうものですから。ヴィクター様のように好きあって結婚なんて滅多にありませんわ」

「どっちかっていうと、ステラの考え方の方が独特だと思う」


そうなんだ…。


「だから、ローレンス様ってすごいと思う。婚約ってそれなりに意味のあるものだし家同士の思惑がかなりの割合をしめてるから勝手な事できないのはよくわかってるはずなのに。それだけステラの事好きになっちゃったって事でしょ?はぁぁぁ!いいわぁ~、恋愛小説みたい。ふふっこれはなんかひと揉めありそうね」


シンディが楽しそうに笑う。くそっ、他人事だと思って。


「明日辺り、リリアが怒鳴り込んできたりして、ね?」


シンディが再びマカロンをつまみ口に運ぶ…、と見せかけてひょいっと手を上に持ち上げた。セシリアがフェイントに引っ掛かりガチッと歯を鳴らす。それを横目にシンディがマカロンを一口で頬張った。


「何やってるのよ…あなたたち」


(楽しそうでいいわね…)


この時の私はシンディの言葉がまさか予言になるなんて夢にも思わなかった。



次回第63話は明日19時更新予定です。


昨日はブックマークの登録ありがとうございました。

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