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56 私と騎士と馬の腹 1

長いと思っていた夏休みもあっという間に過ぎて行った。


ルーカスに頼んでいた件もそう簡単に情報が集まるはずもなく思った以上の進展は望めなかった。

こういう事は情報が多い分、王都の方が調べやすいのかもしれない。

そう思った私は少し早めに学園に戻る事にした。


ほんの3日早く戻っただけなのに学園内に生徒は皆無だった。

いつもだったら騒々しいカフェも寮も人っ子一人見当たらない。

一緒に戻ったアレンもクラスの用事があるとかで早々に別行動になった。

さてと、これからどうしよう…。時間もあるし折角だから王立図書館にでも行ってみようかな?

9年前の情報なら当時の新聞とか漁った方が早そうだし…。紋章も名鑑みたいなのがありそう。

うんそれがいい、そうしよう。と。

つい自分の世界に入り込んでしまっていた。


だから気がつかなかった。

自分の間近まで危険が迫っていることに。


「危ないっ!!!」


そう声が聞こえてハッと我に返った。

ヒヒ―ンッという間の嘶きと共に視界に入ったのはまたしても馬の前足と腹…。

見覚えのある状況に一瞬呆けた。

あ、この馬もオスだわ…なんてのんきに構えてる場合じゃなかったのに咄嗟に足が動かなかった。


(踏まれるっ…!)


そう思った瞬間何かすごい力で横に飛ばされた。

咄嗟の事に受け身も取れずザザッと地面を滑る。目を開けるとさっきまでいた場所に馬の前足が振り下ろされていた。踏まれていたらさすがの私も痛いどころじゃすまなかったかもしれない。

乗っていた生徒が何とか落ち着かせようと馬を宥めているのが見えた。


(はぁぁぁ…っ。びっっっくりした…っ!!)


バクバクと音を立てる心臓。とりあえず立ち上がり放心状態のまま制服の埃を払った。

膝がガクガクと震えていた。

膝から下にかけて大きく擦り傷ができていたけど、これだけで済んだのは不幸中の幸い。



「大丈夫ですかっ!!」


慌てて駆け寄ってきた人物が私に声をかけた。

おそらく騎乗していた生徒だろう。胸のスカーフから察するに二年生。

ライトブロンドの短髪にブルーの瞳。背は私が見上げるくらいだから多分ヴィクター様より高いだろうか。


「ええ、大丈夫です。ごめんなさい。私がぼーっとしてたせいで…あの、馬は大丈夫ですか?」

「えっ…?」


馬はデリケートな動物だ。私のせいで足でも折ってたら大変だ。

私は馬に近づくとそっと首元に触れた。


「あっ!あの…っそいつは…っ」


彼が慌てたように声をかけてきた。


「ごめんね、びっくりさせて」


目を覗き込んで謝ると鼻先を擦り寄せてきた。興奮している様子もなく落ち着いている。どうやら怪我はないようで安心した。

その様子を静かに見つめていた彼がぽそっと呟いた。


「アルフォンスがこんなに気を許すなんて…めずらしい」

「え?」

「その馬です。アルフォンス。僕のパートナーなんですが僕以外には絶対に心を許さないんです。それなのに」


こんなに懐くなんて、と信じられないという顔で私を見る。


「大人しい子ですね」

「ええ、とても賢いヤツなんです。でも人嫌いで…今日は登校している生徒もいなかったので久しぶりに馬場以外で走らせてやろうと思ったんですが…軽率でした」

「そうだったんですか。折角のお散歩を邪魔してしまって本当にごめんなさい。私はこれで失礼しますので思う存分運動させてやってください。それでは」


スカートをつまんで軽くお辞儀をする、とズキッと左の足首が痛んだ。さっき転んだせいで少しひねったらしい。気づかれないうちにその場を離れようとしたのに、


「待ってください!」


と腕をつかまれた。


「怪我をしてるじゃありませんか?」


慌てて跪き足の様子を見てくれる。


「大丈夫です。大した事ありませんから」

「大した事ありますよ!こんなに血が出てる…。申し訳ありません。僕のせいで…」

「本当に…!これくらい大丈夫ですから。私、傷の治りは早いので。あと二、三十分もすれば完治しますから」


彼がきょとんとした顔で私を見上げた。

嘘は言ってない…。だってホントの事だもん。

あまりにじっと見てくるからへへっと笑ってみた。すると彼もニコッと笑った。


「ふふ、面白い事をおっしゃるご令嬢ですね。でもそんなわけないじゃないですか」


彼はいきなり私を掬いあげると横抱きに抱き上げた。


「ちょ…っ!!」


(またお姫様抱っこ!!!)


「医務室に運びます。少し揺れますが我慢してくださいね」

「い、いや…お、下ろしてください!」

「大丈夫です。それにしてもあなたは軽いですね。まるで天使を抱いていようだ」

「…っ///」


歯の浮くようなセリフに思わず赤面する。

っていうかなんでこの世界の男どもはすぐに私を抱きかかえようとすんのよっっ!!

ってか、アルフォンス!!このまま置き去りはまずいでしょ!!


と思ったのに…後ろから大人しくパカポコとついてくる。


(やだ……かわいい)


その姿についほっこりしてしまい私は医務室まで運び込まれた。



57話は明日19時更新予定です。


昨日はブックマークと評価を頂きありがとうございました。

いつも励みにさせて頂いています。


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