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50 私とアレンとドレスの意味

「説明してください」


ある日の放課後、私はようやく捕まえたアレンとヴィクター様に詰め寄った。

あのパーティーの日以来、二人とは一向に会えずにいた。明らかに二人が仕組んだとわかる事なのに帰る時も事情は一切説明されず無言のまま学園寮に放り込まれた。



そしてあの日以降、予想通り新たな噂が学園内に広まりまくった。

出所は勿論カリスタ。


-----ステラ男爵令嬢ととある男性が侯爵家のパーティーで逢引していた。しかもその相手が…


「王太子と逢引って、どういうことですか?!」


訳も分からず噂の渦中にいる身として黙ってはいられない。アレンとヴィクター様が顔を見合わせながらしれっとしているのがなんとなく癪に障る。


「まあまあステラ、落ち着いて」


アレンがわかりやすく私をなだめようとする。その態度もなんとなくイラっとする。


「こんなの落ち着いてられるわけないでしょ!ちゃんと説明して!」


あはは~とアレンが笑い、ヴィクター様が無言を決め込む。


「何か企んでるんでしょ?私にも話せないの?」

「今は…まだ内緒」

「どうして?!」


私の問いにアレンは答えなかった。代わりに大きな手で頭をポンポン撫でる。


「それにしてもこの間のステラかわいかったね」

「な、なによいきなり…」

「膝の上に乗せたら真っ赤になって、首筋に唇を寄せたら子猫みたいにふるふる震えてたよね?…ふふっ、ステラでもそんな事あるんだぁ、って思って。しかも僕相手に」

「それは…っ!あんな風にされたら…」


私だって一応女の子なので…しかも経験値はきわめて低い干物女だったのだし…。


「ドレスもすごくよく似合ってた。でも今後は男からのドレス、そう簡単に受け取ってはだめだよ」


アレンは立ち上がると振り向きざま私たちに手を上げる。あ、こいつ逃げる気だ。

ひらひらと手を振るとアレンは足早に逃げ去った。


「くそぅ…逃げられた…っ」


結局事情を聞き出すことができず歯噛みする。ほんと、いつからあんな生意気になっちゃったのかしら。はーっとため息を吐くと、そういえばヴィクター様が残っていることに気が付いた。

ヴィクター様に視線を向ける。彼は口元を押さえたままなぜか顔を赤くしていた。


「どうしたんですか?ヴィクター様?」


様子がおかしいヴィクター様に尋ねる。


「いや…」


ヴィクター様は何か言い淀むように視線を泳がせていたがやがて決心したように口を開いた。


「お前たちは…その…そういう仲だったのか?」


ヴィクター様の言っている意味がよくわからない。


「何のことでしょう?」

「その…ドレスのことだ。お前、奴からドレスを受け取ったのだろう?」

「はい…受け取りましたが。それが何か?」


ヴィクター様が私をじっと見る。


「この国で…男性が女性にドレスを贈るということは…その…ドレスという包み紙で女性を包み自分へのプレゼントにすると…そういう意味がある。それをほどくのも自分だと…要はその…体の関係を示唆するもので…」


(なっ……)


「何ですか!!それ!!!」


急激に顔が赤くなるのがわかる。この国にそんな風習があるなんて、全然知らない!!


「俺ですらエレオノーラにドレスなど贈った事はない。君らがそんなに深い仲だったとは…。今後は君らの見方を改めよう」

「ご、誤解です!!私たちはそんな仲ではありませんから!!清い関係ですから!!」


だからあの時シンディもセシリアも頬を赤くしていたのか!

アレンのしでかした悪戯の誤解を解くため延々弁解をさせられる私が噂の事を失念してしまったことは言うまでもない。






「はぁぁぁぁ…」


何度目か、もう覚えてられない数の大きなため息を吐く。


「ちょっと!そのため息いい加減にしてよね。パンケーキがおいしく食べられないじゃない!」


口元にはちみつを付けてシンディが文句を言う。


「そんなこと言ったって…」


彼女のパンケーキにはあふれんばかりのハチミツがかけられている。いくら何でも多すぎやしないかと思ったけど、彼女は切り分けた一口分にはちみつをこんもりすくっては満足げに口に運んでいる。


「おいしそうでなによりだわ…」


私は目の前の紅茶を一口すすった。


お昼時。私はシンディとセシリアとランチのためカフェを訪れた。

このところあまり食欲のない私は紅茶だけを注文する。二人はパンケーキとサラダのセットを幸せそうな顔でパクついている。

そんな楽しいランチ時のはずなのに、さざ波のように聞こえるひそひそ話と好奇心に満ちた視線が気になって一向に食欲がわかない。


「はぁぁ」

「気にする事ありませんわ。みんな興味本位で話してるだけですから。本当にゴシップがお好きなんですから」

「そうそう、陰でこそこそ。言いたいことがあるなら本人に直接言えばいいのに!」


二人が声を張る。近くにいたいくつかのグループが気まずそうに黙りこんだ。

逢引の噂流出以降、私は針のむしろに座る気持ちで日々を過ごしていた。

一般生徒からの白い目。カリスタ一派からの嫌がらせに加わり、新たに王太子の婚約者の取り巻き令嬢たちにまで絡まれるようになった。しかも相変わらずヴィクター様が私にピッタリくっついているものだから、王太子と三大公爵家の嫡男を手玉に取っている貧民令嬢とそれはもう痛い扱いをされるようになった。それからアレンの存在…。これも地味に響いている。


(これ…紗奈の時よりひどくない?)


今の立ち位置はまるで乙女ゲームのヒロインのよう。大勢の攻略対象者に囲まれ周囲の反感を買う。前世で悪役令嬢目線の小説や漫画を読み漁っていた私としては「確かにヒロインって空気読めないいい子ちゃん」的な印象を植え付けられてたけど、ヒロインにはヒロインの言い分もあるんじゃないかとちょっと思うようになった。


「いつまで続くのかしら、これ…」


はぁぁぁ、ともう一度ため息を吐くと…、


「今日で終わりそうだよ」


いきなり耳元で声がする。


「うひゃぁ!!」


と声を上げて振り返るといつの間にかアレンがすぐ隣にいた。


「ほら、悪役令嬢(ラスボス)のおでましだ」


アレンの視線の向こう。取り巻きを引き連れたカリスタは勝ち誇ったような顔で真っすぐ私の方に向かってくる。私は彼女と対峙すべく大きく深呼吸をした。


次話投稿は明日19時です。

次回ヴィクター編が決着します。

少し長めの話になってしまいましたがどうぞお付き合いください。

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