36 私と王都ともう一人のステラ
さて、なぜ今日私とアレンがこの王都のカフェにいるかというと…。
朝一番でイザベル様に
「今日は王都に行くから一緒に行きましょう!!」
と半ば強引に引っ張り出されたから。
なんでも隣国に嫁いで以来なかなか会えなくなってしまったご友人が今日この日に限りお里帰りしているとのこと。だったらついでに学園見学&お買い物ツアーをしようじゃないかいう話になりアレンと一緒に連れ出されたのだ。
約半年後、私は王立の貴族の学園で3年間寮生活をおくることになる。なんとアレンも一緒に。
男爵様のご厚意とアレンの実力で見事平民枠を勝ち取り、私と一緒に入学を許可されたのだ。従僕の仕事をこなしつつ私の面倒を見ながら、いつ勉強していたのだろうと彼の有能さを改めて感じてしまう。ただし年齢は考慮されず学年は私と同じ1年生ということらしい。いきなり3年生に編入して落ちこぼれるよりはいいんだけど。まあ落ちこぼれるアレンは想像できないけどね。
午前中は早々に学園の中を自由見学させてもらった。さすがは王都の貴族ばかりが通う学校だ。生徒たちのしゃべり方も仕草も堂に入っている。当たり前に「ごきげんよう」なんて言われると、ほえ~となる。やばい。気を引き締めないとぼろが出るかも…。
学園内はとにかく広かった。この学園出身のイザベル様は勝手知ったるなんとやらでスイスイとあちこちを歩き回る。「私たちの頃はこんな建物なかったわ~」とか「あら?この建物改修したのね、面影ないわ」とか懐かしいわ~を連発しながらぐんぐんと進んでいく。
(イ、イザべル様…お元気だわ…追いつけない…)
ハアハアと息を切らしながら追いかける。結局イザベル様を追いかけるのに精いっぱいで学園の中の記憶はほとんど残ってない。覚えているのはイザベル様の立派な背中のみ。
(エレオノーラ様にも会いたかったんだけど…)
もしかしたら会えるかも、なんて思っていたけどそう簡単ではなかった。
その後は王都でも貴族御用達のお店が並ぶメイン通りで買い物を楽しむ。
靴に帽子、アクセサリーに洋服、小物類…。滅多に来ないからテンション上がるわ~とイザベル様は終始ご機嫌で買いまくる。私とアレンは積み重なる箱や袋を両手いっぱいに抱えイザベル様に従う。へとへとになってもう帰りたくなった頃、「そろそろ休憩しましょうか?ちょっと疲れたわね」の一言で一気に脱力した。ちょっとですか…。私的には体育の授業で校庭を20周走らされた時ぐらい死にそうですが…。
そして先述のカフェに至る。
イザベル様は休憩も早々に紅茶を一杯優雅に飲み干されると、行ってくるわね~と若い娘のようにウキウキしながらカフェを後にした。
アレンは大量の荷物を待機中の馬車に運ぶため席を外していた。天気も良く誰もいないテラス席は物思いに耽るには絶好の場所だった。養蜂からのハチミツからの涎に至る経緯を説明するのもめんどくさかったのでため息一つで見逃してくれたアレンは本当にできた人間だと思う。
「それで、これからどうするの?」
アレンが聞く。
「…とりあえずアレンも座ったら。あれだけ引っ張りまわされたんだから疲れたでしょ?」
優しさのつもりで言ったのに。
「…?僕は別に。慣れてるからどうってことはないけど…むしろいつもより楽だったかな?」
「……ん?」
(それってどういう意味?)
若干含みのある言い方が気になったけど
「…まあいいわ、とにかくちょっとお腹もすいたし。これからミハエルのワゴンに行ってみない?」
ミハエルのワゴンが出ている広場は王都の中心部から放射線状に伸びた街道の延長上、平民が多く住む周辺街の一角にある。中心部に近いほど地位の高い者が住み、外に行くほど貧しくなる。それはどこの国でも同じのようだ。
しばらく歩くと高々と上がる噴水が見えてきた。その脇に赤と黄色の派手なワゴン。
「ミハエルーーっ!!」
大声で叫び大きく手を振る。ちょうどお客の途切れたタイミングで休憩をしていたミハエルがその声に反応して立ち上がった。
「あれ?!ステラ様?!それにお前……アレンじゃないか!!」
「元気そうだな。ミハエル」
「お前もな!いやー誰かと思ったぜ。何ていうかキラキラしてて…王子様?みたいな?」
楽しそうにミハエルが笑う。
「ドナは?」
私が聞くとミハエルが嬉しそう笑顔を向けてくれた。
「もうすぐ来ると思いますけど……、あ、来た!おーい!!ドナー!!」
ミハエルが私の後ろに向かって大きく手を振る。振り返ると
「……っっっ!!!」
ドナの胸に天使がいる。羽はないけど小さな天使が…。
私に気づいたドナが小走りで近づいてきた。
「ステラ様。ご無沙汰しおります」
「…ドナ、この子…」
「はい。私とミハエルの子です。ステラです。生後10か月になります」
ステラは私をじっと見つめている。はぁぁ~女の子だったんだぁ~。
「さ、触ってもいい?」
ドナはクスっと笑うと、抱いてあげてくださいと私にステラを預けてくれた。
ちょっとびくびくしながら両腕に抱きかかえる。そこそこの重量感と温かさ、柔らかさ。そしてふわっと香るミルクの香り。
(かわいいっっっ!!!なんてかわいいの!!!)
「お約束の通りステラ様のお名前を頂きました。優しくまっぐな子になりますよう願いを込めて」
瞳の中に星が見える。キラキラと澄んだ瞳に私が写っている。
「いいパパとママの間に生まれてよかったね、ステラ。この子に神のご加護がありますように」
私はステラの額にそっとキスを落とした。
それをミハエルとドナが優しい笑顔で見つめていた。
次話投稿は明日の19時を予定しています。
最近仕事と体調不良で文章の推敲があまりできずお読みぐるしいところが
多々あり申し訳なく思っています。
心苦しいのでちょっとお時間を頂ければと思います。
そのため次々回投稿は9/20(日)19時とさせてください。
内容は次の対象者が現れる学園編(?)に入ります。
よろしくお願いします。




