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31 私とアレンのいたずら 2

「なんか疲れたな」


屋敷に戻り晩餐のあとひと息つく。

ただの視察のつもりがとんでもないことになった。


(みんなが幸せになれる方法か…。難しいな)


「あーもう!頭痛い!!」


ガシガシと髪の毛をかき混ぜる。そこにトントンっとノックが聞こえアレンが入ってきた。

私を見るとあきれたようにため息を吐く。


「またそんな頭になって…。一応レディなんだからきれいにしておかないと」


鳥の巣みたいだよ、とアレンがブラシを持って整えてくれる。


「ねえアレン。どうしたらいいと思う?」

「なにが?」

「なにって…、ジェームズさんたちの事…」

「それは僕たちにはどうすることもできないよ。彼らの問題だから」

「それはそうなんだけど…。でもなにかできる事ないのかなって」

「ないね。他人がおせっかいで首を突っ込むと余計こじれる場合だってある。今日の今日でどうにかしようなんて無理な話だよ」

「……そうね」

「あれもこれもと手を出すと全部がうまくいかないこともあるから。まずは一つ一つやっていこう。今ステラが一番やりたいことは何?」

「…それは、はちみつ」

「だったら、まずはそれに集中しよう。大体、ステラはいろんな事を同時にできるほど器用じゃないだろ?」

「…ヴヴッ、否定できないのが悔しい…」


できた、と髪を梳いていたアレンが私の後ろから離れる。


(できた?)


「ふっ!!ふはっ、はははっ!」


なぜか笑いだすアレン。


(なに?何なの?)


訳も分からず辺りを見回すと窓ガラスにうつる自分の姿が目に入る。


「なによ!!この頭っっ!!」

「はははっ!あはははっ!!」


いつの間にか結ばれていた髪型。頭頂部にお団子が3つ。左右に2つ。これはまさかの…!!あの有名なお魚くわえたお姉さん的なアレではっ!?



「ブフッ!!ふふふっ!!あははっははははっ!!」


つい私も笑ってしまった。


「もうっ…!何てことしてくれるのよっ!これでも一応レディなのに!」

「これからの社交界はこういうのが流行るかもしれないよ。君広めてみたら」


涙目のアレンが言う。


「もう、お腹痛いから、ほどいて」


ひとしきり笑ってアレンが髪を解いてくれる。髪を梳きながら、


「養蜂の話だけどさ、取り敢えずあの土地を足掛かりに始めてみてもいいんじゃないかな。ちょっと遠いけど管理して貰えそうな人たちも近くにいるし」


(ん?それって……)


「交渉して見るのも悪くないんじゃないかな」


間違いなくクリフォード達の事だよね?

でも…、


「……ルーカスが言ってた。庭師として実力のある人だって。あなたも伯爵邸で見たんでしょ?庭師の仕事に誇りを持っている人に別の仕事をしませんかなんてプライドを傷つけてしまうんじゃないかしら…」


アレンは盛大にため息を吐いた。

え、なんで…?

あきれた顔で私を見ると額に人差し指を突き付けた。そしてそれを丸くして、


ビシッ!!


「いたいっ!!」


びっくりして額を押さえる。なに?!デコピン…?


「君は人の心を深読みしすぎ。新しい仕事に就くも就かないも決めるのは君じゃない。僕たちはあくまで提案をするだけ。嫌なら断ればいいだけの話だろ。君が勝手に相手を慮って躊躇するのは、それこそ相手に対して失礼なんじゃないの?」

「……!」

「それに彼らは断らないと思うけど。本気で庭師の仕事に就きたいと思うのならあんな田舎の集落にひきこもっている理由がない。そもそも庭師の働き口が少ないのも事実だし。王都では特に、コネや紹介がないと難しいと思う。仮に庭師の仕事に未練があったとしても現実問題難しいと思う。それは彼らも受け入れているはずだよ」


もったいないけどね、とアレンは肩をすくめた。


「これから君が始めようとしている《はちみつ》は軌道に乗ればいずれ莫大な利益を上げることができると思う。国内の需要は高そうだし、他領や他国にも取引を持ち掛けられるいい商材だ。成功するかどうかは未知だけど、あんなところにくすぶっているくらいなら一か八かでも乗ってみる。僕ならそうする」


ポカンとアレンを見る。アレンってこんな感じだったっけ?

何ていうかすごく頼もしい…。ちょっと前まで物静かで優しい美少年って感じだったのに…。

今日のアレンはちょっと違う気がする。


(それになんかこの感じ知ってる気がする…)


「なに?」

「いや…、アレンってこんな感じだったっけなって。なんかあった?」


アレンが私の顔をじっと見る。その目が真剣で少し怖い。何ていうか蛇に睨まれたカエル状態で動けない。目をそらしたらやられる気がして私も見続ける。先に視線を外したのはアレンだった。


(やった、勝った…!)


「別に何もないよ。ただ僕だって男爵家に来て色々見聞も広がってきたしね。いつまでも子供のままではいないってこと」


成長してるのは君だけじゃないんだよ、そう言って私の両サイドの髪を一筋ずつ手に取る。

きれいな顔が少し近づいて思わずドキッとした。

わかってる?と付け加えられて顔が思わず赤くなる。するとアレンがいきなり両手に力を入れグイッと引っ張った。そして態勢を崩し前に倒れそうになった私の両頬をバチンと挟む。


「いひゃい…!」

「それに最近、君をからかうとなんかおもしろい」


アレンは楽しそうに笑いながら立ち上がると足取りも軽く部屋から出て行った。


(もうなんなの…?)


意味も分からず私はかわいそうな両頬をさすってあげた。


次話投稿は本日19時を予定しております。

よろしくお願いします。

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