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30 視察とルーカスと大切な人 2

「もしかして、あなた…あなたのおじいさんはジェームズとおっしゃるのではないですか?」


(………なんですと!!!)


びっくりしてアレンを凝視する。


「ええ、そうです…が…。なぜそれをご存じなんですか?」


今度はアダムを凝視する。

えっまさか!!そんなことってある?!


「昨日の今日で僕も驚いてるんだけどもしかしたらと思って。昨日ジェームズさんはとある伯爵領と言っていたし年代も合う。それに伯爵領の別邸の庭園と男爵家の庭園がよく似ていたから…」


そうか、アレン伯爵領に行ったって言ってたっけ。でもそんなことで結びつけるなんて強引すぎる…けど結果オーライ。グッジョブ、アレン。


「祖父をご存じなんですか?」

「ジェームズさんはこの男爵領のお屋敷で庭師をしているのよ」

「…そう、なんですか…」

「お父様から聞いてないの?」

「父は…祖父の事は話しませんから。祖父の名前もたまたま見つけた写真の裏に書かれていたのを見ただけで…」


そっか…思った以上に根の深い話なのかな…。


「あの…ルーカス様。もしお時間があれば父と母に会って頂けないでしょうか?その…特に母がとてもルーカス様の事を案じておりましたので…」


ルーカスが私を振り返る。私はルーカスの頭にポンっと手を乗せた。


「行きましょう、ルーカス。アダム、ここから遠いの?」

「いえ、あの丘の向こうなので」


ご案内します、とアダムに先導され私たちは丘を目指した。




丘の向こうには数件の住居が点在していた。

村というより集落と言った規模で、木造、漆喰壁の粗末な棟と家畜小屋がいくつか並んでいる。

アダムは先に立ち、一つの家のドアを開けた。出てきた女性と一言二言交わすと女性は口元に手をやり辺りを見回し、ルーカスに目をとめた。信じられないというように口元を押さえ近づく私たちを見ている。私の隣を歩いていたルーカスが一瞬立ちどまり小さく、エイダ…とつぶやく。そのまま駆けだした。


「エイダ…!!」

「…ッルーカス様!!」


勢いよく飛びつくルーカスをその胸に抱きとめる。


「ルーカス様…、ルーカス様…。お元気そうで…。ずっと心配していたのですよ…。ああ、お顔を見せてください。ちょっと見ない間に大きくなられて…」


エイダの涙は止まらない。ルーカスの事を大切に思ってくれていたんだなと心から思った。


「ステラ様」


アダムが私を呼ぶ。振り返るとアダムの隣に中年の男性が立っている。これがクリフォードさんだろう。


「父です」

「初めまして、ステラ様。クリフォードと申します」


中年、というにはまだ若い。背の高い細身の彼はアダムととてもよく似ている。そして優し気な眼差しと瞳の色。ジェームズさんと同じイエローオーカーの優しい瞳。


「あなたの瞳の色…。とても似ていますね、ジェームズさんに」


クリフォードさんは少し顔を持ち上げた。ただそれだけ。


「そうですね…。昔はよく言われました」

「ジェームズさんは今はお一人で屋敷をお世話してくれています」

「……母は?」

「10年ほど前に亡くなったそうですよ」

「……」


そこで少し、クリフォードさんの顔がゆがんだ。

余計な事かも…、と思った私の背中をステラが推す。ステラなら多分こうする。


「…何があったか私にはわかりませんが、会うことはできませんか…?」

「……」


出た言葉はとてもストレートな一言だった。


「20年、一度も連絡を取られてないんですよね?ジェームズさんも、言葉にこそしませんでしたがとても…寂しそうでしたよ」


クリフォードさんはハッと小さく鼻で笑った。


「そうですね…もう20年経ちました。他人になるには十分な時間です。今更親子に戻ってどうなるというのでしょう」

 

クリフォードさんはきっぱりと言い切った。


「あの日私は両親を捨てこのエイダと共に生きる道を選びました。アダムも生まれ…私はあの時の決断を今でも後悔していません」

「……」

「母の事は残念です。唯一の心残りでしたから。でもその母もこの世を去ったというのであれば余計に帰る理由がない…」


もう会うつもりはありません、ここでの事は父には言わないでください。

クリフォードさんは静かに微笑んだ。





帰りの馬車の中、私は考えていた。

20年前何があったのかはわからないけれど父と息子の溝は思った以上に深いようだった。特にクリフォードさんの方がより頑なに拒絶している。


(私が首を突っ込むような話ではないのは分かってるけど…)


知ってしまえば無視はできない。だけど他人の私が余計なことをして更に溝が深まるようなこともできない。


(うーん…、難しいな)


「お姉さま…クリフォードはとてもいい腕の庭師だったんです。お母様のためにそれはたくさんの花を咲かせてくれて…。花を愛でている時のお母様はとても嬉しそうでした。彼をお屋敷で雇う事はできないんでしょうか?」


今まで黙ってたルーカスがそう言ってきた。この子なりにいろいろ考えているんだろう。

もちろん物理的には可能だと思う。現に今はジェームズさんしかいないし絶対的に人手は足りない。男爵様は絶対許可してくださるだろう。問題はクリフォードさんの心の中。


(あのあとルーカスがいくら一緒に行こうと言っても決して頷かなかった。まあ、今日の今日では無理よね)


「すぐに解決法を見つけるのは難しいかもしれないわ。少し時間を置きましょう。私もなにか方法がないか考えてみるから」


頭をなでてあげる。

ルーカスはコクンと頷いた。


次話投稿は明日朝6時を予定しています。

よろしくお願いします。

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