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27 私とアレンのいたずら

言葉通りエレオノーラ様は王都の街に詳しかった。

大通りは勿論の事、細い小道に裏通り、穴場の雑貨屋さんなどいろんなところに案内してくれた。

おかげでみんなのお土産やミハエルの出産祝いをスムーズに買うことができた。

ルーカスには猫の形のブックマーク。アレンには細かい細工の入ったループタイ。ミハエルには産着一式とドナ用にショール一枚を贈ることに決めた。どれもエレオノーラ様のお見立てでセンス良い。値段も手ごろだし言うことなしだ。


「エレオノーラ様、ありがとございました。どれも気に入ってもらえるだろうお品ばかりです。それにしてもお詳しいですね。この広い王都がまるで庭のよう」

「ふふ、伊達に毎日歩き回ってるわけじゃないのよ。今日はこの街遊びが役に立ってよかったわ」


本当に楽しそうにエレオノーラ様は笑った。

それから私たちは広場に戻り、ミハエルにお祝いの品を送った。またちょっとひと揉めあったけど。


「ステラ様にこんなことをして頂くなんて、罰が当たります!末代まで呪われます!!」

「だから!!誰に呪われるのよ!!」


お祝いが空を舞う。もう!何回このやり取りさせれば気が済むのよ。

らちが明かないこの状況を打破したのはエレオノーラ様の一言だった。

エレオノーラ様は空中のお祝いをさっとつかむとミハエルの胸に優しく押し付けた。


「見立てたのは私なのよ、ミハエル。それでもあなたはいらないっていうの?」


顔は笑ってるけど圧が…圧がすごい。

ミハエルはお祝いを両腕に抱きしめると、ありがとうございます、と引きつった笑顔で受け取った。

女神おそるべし…。

それからエレオノーラ様は迎えの馬車が来ている所までお見送りをしてくれた。


「あなたが学園に入学する頃には私はいないのね」


残念だわ、とがっかりしたようにつぶやいた。


「王都に来た時にはいつでも遊びにいらして。歓迎するわ。ただ家に居ればの話だけど」


エレオノーラ様はいたずらっ子のように微笑む。私も今度はちゃんと笑い返すことができた。





屋敷に戻ると早速今日の勉強の成果をまとめる。

(とりあえず明日から領内の視察に行くとして…。設置場所の候補の目星をつけておきたいし。あとは巣箱の作製と管理してくれる人を探さないと…それから)


頭に浮かんだことをメモに書き留める。そこにコンコンッとノックの音が聞こえた。


「お茶をお持ちしました」


入ってきたのはアレンだった。


「お帰り、アレン。戻って来てたのね」

「うん、さっき。ステラは?王都はどうだった?」

「ふふ、楽しかったわよ。懐かしい人にも会えたし」


私は今日の出来事をアレンに話して聞かせた。アレンはきれいな所作でお茶の準備を進めながらうんうんと私の話を聞いてくれた。


「そっか。僕も会いたかったな。ミハエルとドナ」

「今度は一緒に王都に行きましょ。エレオノーラ様にも紹介したいし」

「エレオノーラ様…か。そんなに明るい人だったの?」

「うん!それはもう!すごい美人なんだけどとってもかわいらしく笑うのよ。気取ったとことか全然なくて。しかも…」

「しかも、なに?」


力が強くて、たくさん食べる…、事は黙っておこう。男の人に話すにはかなりのイメージダウンになるかもだし。


「…ううん。とにかく優しい人だったわ」

「ふむ…」


アレンが考え込む。今の話の中で何か問題でもあったかしら。


「まあ、ステラが気に入ったんだったらきっといい方なんだろうね」


アレンが私の前にカップを置く。なんだかいつもと違う香り。


「あれ?これ…ハーブティー?」

「そう、カモミール。今日の商談で手に入ったんだ」

「ふふ、私この香りすごく好き」

「そう。よかった」


アレンが優しく笑う。

そうだ、と。私は今日買ってきた品物の中からアレンへのお土産を取り出した。


「アレンこれ」

「なに?」

「王都のお土産。ループタイなの。気に入ってもらえたら嬉しいんだけど」


差し出したループタイを受け取ろうと手を伸ばしたアレンが急にその手を引っ込める。


「アレン?」


アレンはその手を自分の首元に持っていくと、結ばれていたリボンタイをシュルっと引き抜いた。膝を折って跪くと首を上げ、私の手を首元に近づける。


「…?なに?」

「ステラがつけて?」


甘えたような表情に一瞬ドキッとする。


「何子どもみたいなこと言ってるのよ…」


イケメンってずるいと思う。それにアレンのこんな顔初めて見るしちょっと動揺した自分が恥ずかしい。


「あ。顔赤い……」


クスッと笑われからかわれたことに気づく。

私はループタイをアレンの頭からかぶせると首元で勢いよく引き絞った。ぐえっとアレンがうめく。


「ひどいな。死んじゃうよ?」

「からかうアレンが悪いのよ!」


アレンがフフッと笑った気がした。


「ありがとう。大切にするよ」


アレンが額にキスを落とした。全く!!ちょっと大きくなったからってどこでこんな仕草覚えてくるんだか…。ハッ!もしかしたら屋敷のお姉さま達に仕込まれてたりして。アレンは今やお屋敷中の女性使用人の注目を一身に浴びている期待のホープだ。屋敷の裏手や庭園の片隅で口説かれている所を何度も何度も目撃している。つまり相当にモテているのだ。だってねー、最近のアレンってばムダにキラキラしているもの。その手の事だって経験済みでもおかしくない気がする。はぁ、アレンが大人に…。あのかわいかったアレンが……。だめよステラ…。あなたは今純真な乙女なの。アラサーの干物女ではないんだから。


(アレンももう15歳だもんね。そういうことに興味を持ってもおかしくないお年頃なんだわ)


としみじみしてしまった。


「ステラ?」


1人百面相をしている私をいぶかしんでアレンが控えめに声をかけてくる。


「大丈夫よ、アレン。ちゃんとわかってるから。でもね女の子を泣かすような事だけは絶対しちゃだめよ。準備は万全にするに越したことはないから。あと、責任はキチンと取るのよ」

「………何言ってるの?」


自己完結して納得している私にアレンは、またか…とつぶやき、ため息を吐いた。


次話投稿は明日19時を予定しています。

よろしくお願いします。

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