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23 私と怠惰とスイートポテト

作品のサブタイトルに番号をつけました。

ちょっと短めのお話です。次話に続きます。

あの日以来穏やかな毎日が続いている。

それはもう怠惰なほど。座学に勤しみお茶を飲み、社交を学びお昼を食べ、ダンスを嗜みお茶を飲み、自由時間。そこでもお茶を用意され…とにかく事あるごとにお茶。なんだか時間の使い方がもったいない。あとお腹がチャポチャポする…。


そして今、ルーカスの乗馬の練習を見ながら近くの東屋でお茶を飲んでいる。

時々手を振ってくるルーカスに手を挙げて答えながら、いい天気だな~とぼんやり空を見上げた。

ルーカスが乗馬の訓練を始めたのはつい最近の事。ついでに剣も習い始めた。「お姉さまを守って差し上げるためには強くならないといけませんから」と意気揚々と頑張ってくれる姿はもう目の中に閉じ込めてしまいたいくらいかわいい。


だから実は私が乗馬ライセンスの3級を持っていたりする事実は墓の中まで持っていこうと思う。素敵な男の子に馬に乗せてもらうなんて女子の夢じゃない?


あと…、


「ねえアレン?」


お茶のお代わりを注いでくれていたアレンが私の方を見る。


「何ですか?」

「この間のあれだけど」

「あれですか?」

「そうあれ…」

「……どれでしょう」

「あれよ…、ほら、あれ。あの達人のような剣捌き…」

「…ああ…、あれですか」

「とってもかっこよかったわ」

「……ありがとうございます」

「………」

「………?それで?」

「それだけよ…」

「それだけ、ですか…?」

「うん、それだけ…」

「あの…。意識あります…?」


それに対してなんだかめんどくさくて答えなかった。

特に気にしてたわけじゃなかったけど、何となく頭に浮かんだから言ってみただけだ。

ああ、今私、暇すぎて脳みそが死んでる…。

アレンはなんだか微妙な顔をしていたけどお互いそれ以上何も言わなかった。


「それにしても暇だわね」


つい言葉に出てしまっていたようだ。更にお茶のおかわりを注いでくれていたアレンが、ああなるほどという顔をした。


「だったら、畑にでも行ってみませんか?」

「畑?」

「めずらしいイモができたんだ」


(めずらしいイモですって!!)


私はカップを持ったまますくっと立ち上がった。


「ステラ様?」

「行きますよ、アレン。何をもたもたしてるの?早くしないと逃げちゃうかもしれないでしょ」

「…逃げませんよ。イモですから」

「どこかに行かれるんですか?」


乗馬の練習の終わったルーカスが小走りにかけてきた。当たり前のように私の両手をぎゅっと握る。


「今から畑に行こうかと思って。ルーカスも来る?」

「はい!お供します」


私たちは連れ立ってアレン農園に向かった。




「これだよ。《シモン》っていうんだ」


アレンが見せてくれたおイモは見た感じちょっと大きくて長いジャガイモだ。

私が首をかしげていると、アレンはナイフでそれを二つに切った。


「あっ!」

「きれいな黄色だろ?しかもこれ」


アレンは近くの皿に小さく切り分けた一つを私の口に放り込んだ。


「甘いんだ」


柔らかく茹でたそれは砂糖のような甘味ではなく自然の、なんだか優しい味。

私これ知ってるわ。そうこれは…、


(さつまいもじゃないの~~!!)


懐かしい味をかみしめる。ルーカスも一つ口に入れ、わっ甘い!と驚いていた。

もう一つ口に入れる。ああおいしい懐かしい!もう一つ、というかもう二つ、もう三つ…。


「ストップ!食べすぎだよ」


頬がリスのようになった私の両腕をアレンがつかんだ。だって久しぶりなんだもん。しょうがないでしょ。ともぐもぐしたまま目で訴える私に、あきれた顔をして肩をすくめた。


「この間フレデリックさんと一緒に隣国との取引に同席させてもらったんだ。その時これの苗を見つけてめずらしいから仕入れさせてもらったんだよ」

「でもこれ、紫色じゃないのね」


アレンは首を傾げた。あれ?こっちでは違うの?


「種類が違うんじゃないかな?この国では見たことないけど探せばあるかもしれないね」


確かにこの国で甘いイモは見たことない。


「ステラだったら、またなんか思いつくんじゃないかなって」


暇つぶしにはちょうどいいでしょ?とアレンの目が言っている。

アレー――ン!さすが分かってる!!そうと決まれば商品開発あるのみ!!

と言ってもこれで作るものは一つしかないでしょ!!


「早速帰って作るわよ!スイートポテト!!」




次話投稿は明日朝6時を予定しています。

この話の続きからになります。

よろしくお願いします。

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