22 オレとアイツと攻略対象者『ルーカス』
全く!あいつはなんでいつもフラグを叩き折るんだ!!
オレは伯爵領への道程を馬で駆っていた。伯爵領まではここから半日ほどのところにある。
オレの知ってる「ルーカスルート」はこんな話じゃなかった。
スチルは全部で4枚。最初のイベントは出会いのシーン。生意気なあいさつをしたルーカスにそんな態度を微塵も気にせず優しく微笑み、可憐で完璧な所作であいさつを返すステラに頬を赤く染めるルーカス、という内容だった。憧れの眼差しで頬を染めるイラストがコレクションされた。
それなのに実際は、初対面で真正面から喧嘩を買い、挙句「ブス」と言い放たれて高笑い。どんな出会いだよ…。
2枚目は厨房でのあるシーン。スチルはルーカスがステラにポテトグラタンをあーんしてあげる場面のイラストだった。イベントストーリーは、ステラがたまたま作ったポテトグラタンがルーカスの母の思い出の味と同じであった事でルーカスがつらい過去を語る。涙ぐむルーカス。優しく抱きしめるステラにルーカスは優しく微笑みながらポテトグラタンを食べさせてあげる、という内容だったはずだ。
それが現実はなぜかベーコンポテトパイを作ったステラがあーんをしてあげようとして拒絶され哀れ宙を舞うベーコンポテトパイ。それは床に落ちてお互い顔も見られないくらい気まずい状態に陥ると…。
いったい何が悪いんだろう。いやわかってる。圧倒的にあいつが悪い。
スチルはあと2枚。野犬に襲われおびえるステラを守るルーカスとステラにプロポーズするイラストだ。
早朝に出発したため昼過ぎには伯爵領に到着した。本邸はやり過ごし別邸に足を延ばす。
建物は封鎖されていて人の気配はない。そういえば本邸の方にも人影はなかった。以前ステラに聞いた男爵様の報復は殊の外効いているという事だろうか…。
近くの家を巡り別邸の使用人だった者の居所を知らないか訪ね、ようやく元執事と元メイドの住居にたどり着いた。事情を話すと別邸の中を案内してくれることになった。屋敷内には買い手のつかなかった荷物が乱雑に残されたままだった。その中に一枚の肖像画を見つけた。埃をかぶった肖像画には仲良く微笑む親子が描かれている。ルーカスと母親だろう。母親の容貌をみて納得した。プラチナブロンドの髪にヘーゼルの瞳。顔つきは似ていないが雰囲気はステラによく似ている。ルーカスがステラに向ける焦燥の正体に納得した。オレはその肖像画を貰い受け、執事に礼を言うと馬に飛び乗った。今から帰れば夜半にはたどり着けるだろう。立ち去る間際、元メイドが一枚のメモを渡してきた。それはルーカスが大好きだったというポテトグラタンのレシピだった。そしてルーカス様をよろしくお願いしますと、そう付け加えた。オレは黙ってうなずくと元来た道を再度馬で駆る。
これでルート補正ができるだろうか。あとはオレ次第…。
数日後辻褄合わせのシナリオを考えて、早朝からステラの部屋に押し掛けた。グダグダのステラをイモで釣り上げ何とかピクニックに誘い出した。もちろんルーカスも一緒だ。ここで3つ目のイベントと2つ目のリベンジを同時に発生させるつもりだ。うまくいくかは運次第。フラグクラッシャーのアイツの事だからどうなるか心配だったけど最終的にはうまくいった。ただまさか、野犬に囲まれルーカスの前に立ちはだかり3匹打ち倒すとは夢にも思わなかった。野犬の数も想定外で怪我をさせてしまったことは本当に反省した。
後は4枚目のスチルを残すのみ。このルートがこの先どうなるのかはもう少し先にならないとわからない。ただオレはこのルートクリアのためには努力は惜しまない。すべてはあいつの幸せのために…。
「誰でもいい…。どうかあいつを救ってやってくれ…」
それがオレのたった一つの願いだ。
次話投稿は今日19時を予定しています。
よろしくお願いします。




