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21 私と義弟と溺愛

「お姉さま、庭の薔薇がきれいに咲いています。散歩に行きませんか?」

「お姉さま、今日は僕、ベーコンポテトパイが食べたいです。一緒に作りましょう」

「お姉さま勉強でわからないところがあるのですが…」


お姉さま…お姉さま…と、あの日以来ルーカスは私にべったり懐いている。しかも「お義姉さま」呼びだったのがいつの間にか「お姉さま」に変わっている。


「すごい懐きようだな…」

「ええ、そうでしょ」


私もびっくりしている。でも…、

私はギューッとルーカスを抱きしめた。


「かわいいからよし!!」


ルーカスはえへっと、私のような偽物ではない本物の天使の笑顔で微笑む。はぁーーぅ癒される!なんてかわいらしいんだろう!!!


「そう…か。だったらいいんだけど…」


アレンがちょっとあきれている。


あの日男爵家は大騒ぎだったそうだ。気を失って(というか寝ていた)私は全然覚えていないんだけどみんなの取り乱しようが半端なかったらしい。

フレデリックさんはボロボロで意識不明の私と泣きじゃくるルーカスを見ても顔色一つ変えず、いつも通り的確な指示を出し使用人たちを動かした、らしい。さすが当家の誇る家令、と思っていたが、無駄にあちこちを動き回り何度も同じところを往復し、しまいには同じところをぐるぐる回りだすという奇妙な行動で周囲を混乱させていた、とか。イザベル様は倒れる寸前だったと聞く。

それはそうだろう。全身土まみれ(これは主に芋ほりのせい)服はボロボロ。しかも腕に穴まで開けて血だらけで帰ってきたのだから。確かに男爵令嬢として…、というか女の子としてどうだろうと私自身もそう思う。でもルーカスが無事だったんだからそれでいい。でもイザベル様に悲しい思いをさせてしまったことは猛省した。娘を二人もなくすのはイヤよ、と泣かれた時は海に沈みたくなった。もう二度とこんなことはないように気を付けよう。

今回この芋ほり大会を企画したアレンの処分について話し合いがされたみたいだけど、ルーカスが自分の責任だからと大人たちを説得してくれたおかげでお咎めなしとなった。

私の怪我も腕には少し痕が残ったものの化膿することもなくなんと2日ほどで治ってしまった。さすが私。


ルーカスはこの数日ずっと私の看病をしてくれていた。と言っても疲労と腕の穴だけなので大したことはなかったんだけどそれでもずっと私から離れなかった。かいがいしくタオルで顔を拭いてくれたり食事をあーんで食べさせてくれたり本を読んでくれたり。そのすべてが可愛くて毎回抱きしめて顔中キスを落としてやった。もう食べちゃいたい。その都度頬を赤らめるルーカスがこれまたかわいい。はぁ私病気かも。熱があると思う。

たまにアレンが覗きに来てたけどその都度追い返されていた。アレンも特に嫌な顔をするわけでもなく肩をすくめて苦笑いしていた。


「こんなに懐かれてるんだし、ステラもまんざらじゃないならいっそ婚約してしまったらどう?」


アレンがそんなことを言ってくる。


「何馬鹿なこと言ってるのよ」

「女性は愛してくれる男と結婚するのが一番の幸せだと僕は思うけど?」

「私の気持ちはどうなるのよ」

「だって、ステラはルーカス様の事好きだろ?」

「好きだけど、そういうのとは違うでしょ?ルーカスは私の大切な弟。家族なんだから」

「でも血のつながりはない」

「僕はかまいませんよ!!お姉さまの事大好きですから」


ニコニコしてルーカスが言う。ほらややこしいことになるでしょうが…。


「どうしたの?アレン。あなたちょっと変よ」


めずらしく食い下がってくるアレンに違和感を感じる。どこか体の調子がおかしいのかしら。それとも頭…?アレンはじっと私を見つめていたけど、ふっと笑って肩をすくめ耳元でささやいた。


「だってこんなにかわいいルーカス様が大きくなったらどうなるか。心配じゃない?」


確かに…。ルーカスはきっとものすごい美形になる。これは間違いない。この天使のような顔が将来可愛い系になるのか、キレイ系になるのかその分岐は見えないけど社交界のプリンスになるのは間違いないだろう。あっなに?そういう事?私に牽制役をやれってことなの?変な虫がつかないように見張れって?

だったらそう言ってくれればいいのに。遠回りな言い方されるとわからないじゃない。

そうよね、ルーカスだもの。変な女に騙されないようにお姉さんが守ってあげなきゃ。そして素敵なお嫁さんを見つけてあげる。


私は心得たとばかりに、あはっと偽天使の笑顔をアレンに向けた。そんな私を胡散臭そうに見るアレン。


「安心して、アレン!ルーカスの貞操は私が必ず守り抜くわ!!悪い虫に集られないようにきちんと虫よけの役目は果たして見せる!何ならルーカスの右腕として領政を支えるため一生を捧げてもいいわ!」

「それは…小姑っていうんだよ…」


うまく伝わらないな…、とアレンはため息を吐く。

でも未来なんてまだわからない。いくらでも変えることは可能なはず…。


「僕はね、ステラ。いつも君の幸せだけを祈ってるんだよ」

つぶやいたその言葉はステラには届かない。

そうゲームはまだ始まったばかり…。アレンはギュッとこぶしを握りしめた。



次話投稿は明日朝6時を予定しています。

よろしくお願いします。

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