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最終話 私と最終ルート『アレクシス』

本編最終話です。(※完結ではありません)



フロアの中心に進むと、見計らったように楽団の演奏が始まる。

ホールに響くのは軽快な円舞曲(ワルツ)


アレンが差し出す手にそっと自分の手を重ねると、心地よい強さで握りかえされた。促されるまま自然なエスコートでホールドを組むと、ひと呼吸の(のち)アレンが一歩を踏み出す。その優雅な動きに周囲から思わずため息が漏れた。


(わぁ…、すごい…。アレン、リードうまい…っ!)


軽やかなステップを踏みながら、重心の移動で的確に次の動きをリードしてくれる。足を下ろすタイミングを見極め絶妙な力加減で女性を支える上級テクニックまで習得している人なんて、前世で通ったダンス教室のおじいちゃん先生以来だ。常にバランスを崩すことなく踊れる快適さに心が高揚する。


「アレン、すごい…っ!こんなに踊れるなんて知らなかった!!」


「ホント?それはよかった」


にこやかに微笑みながら、アレンがくるりと私を回す。


「アハハ!楽しい!!もっと回してっ!」


「ん、いいよ」


周りの人たちがわぁぁ、と歓声を上げて私たちを見る。


「見て…。みんな君の美しさに見とれてるよ」


アレンが私の耳元でささやく。


「違うわよ。アレンがかっこいいからみんな目が離せないのよ」


今日のアレンは金糸の刺繍の入ったネイビーのジュストコールに金のサッシュ。細身の黒のパンツに同色のロングブーツという王子の見本のような服装に身を包んでいる。


「素敵よ、アレン。王子様みたい」


「…一応王子なんだけどね」


アレンの左手が私の腰に回る。


「君のそのドレスも…悔しいけどすごくよく似合ってるよ」


「ほんと?ありがとう。国王様にはあとできちんとお礼を言わないとね」


背中が大きく開いた濃紺のそれは国王からの贈り物。裾に向かって宝石をちりばめたスレンダーラインのドレスは回るたび、蝶のように舞いフワフワと広がる。


(早朝、国王様からの使者にたたき起こされた時は何事かと思ったけど、まさかドレスを頂けるなんて思わなかった)


箱に入っていたメッセージカードには、


『王子と揃いにした。他意はない』


と一言書かれていた。


「ホントは僕の贈ったドレスを着てもらいたかったんだけどね」


今日のためにアレンが用意してくれたのは純白のドレス。

まるで花嫁のようなそれを、今日のパーティーで着るにはいささか場違いな気がして、申し訳ないけど遠慮させてもらったのだ。


「あれは…今日着るにはちょっと…ね。なるべく目立たない方がいいと思ってこれにしたんだけど…結局悪目立ちしちゃった」


「あれはあいつらが悪い。やっぱり、一発殴っておけばよかった」


腹の虫がおさまらないのか、アレンがムッとした表情を浮かべる。


「ほら、もういいから。そんな顔しない!いい男が台無しよ」




いつの間にか周りには、大勢のペアがダンスに興じている。色とりどりの華やかなドレスが、まるで咲き誇る花のように見え、なんだか夢を見ているような気持ちになる。



「ねえアレン。一つ聞いてもいい?」


「いいよ。何?」


アレンが私を見つめながら、周りとぶつからない完璧なリードでステップを踏む。


「アレンって例のゲーム、最後までクリアしたんだよね?」


「『白き乙女ステラ』のこと?うん、したよ」


「最後の『アレクシス』のルートってどんな内容だったの?」


私の質問に、アレンがパチパチと目をしばたたかせる。


「え…?それを今…君が聞くの?」


「だって気になるじゃない」


ゲームのストーリーとしてどんなシナリオが用意されていたのか、前からちょっと気になっていた。


(昔っからネタバレOKだったし、せっかくだから他のルートの話も聞いてみたいじゃない?)


「……」


急に黙り込んだアレンを下から見上げる。

その直後、彼はフロアのど真ん中でピタッと足を止めると無言のまま私を見降ろした。

周りのペアたちが怪訝な顔で私たちを躱し、通り過ぎて行く。


「……アレン?」


「…じゃあさ。一つだけ、スチルの内容を教えてあげる」


そう言うと、アレンが私の前に片膝をついて跪く。


「第一王子アレクシスはこうやって君の手を取り、その甲に口づけるんだ」


「……アレンっ!」


ここ、フロアのど真ん中…っ!


「そして君に愛を誓う」


アレンが下から私を見上げる。その熱っぽい視線に、思わず顔が赤くなる。


「それから……」


アレンがゆっくりと立ち上がる。そして今度は私を見下ろす形で瞳を合わせ、いたずらっ子のように微笑んだ。


「ここから先は、君が自分の目で確かめてよ。だって君、ヒロインなんでしょ?」


そう言って、私の指先に優しく口づけた。


「攻略してよ、オレの事。もっともっとオレの事、夢中にさせて…ステラ」


「アレン…」


アレンの顔がゆっくりと近づく。

柔らかい唇が優しく触れ、そっと離れる。


「愛してるよ、ステラ。これからもずっと」


もう一度訪れる長い口づけを、私は目を閉じ、静かに受け入れた。









ステラ()と『第一王子 アレクシス』の最終ルートは今始まったばかり。


これからどんなシナリオが待ち受けているのか、それは私次第。





(覚悟してアレン!私絶対にあなたを攻略してみせるから!!)







【完】


本日も最後までお読みいただきありがとうございました。

本日、本編最終話となります。

完結まで残りもう数話書かせて頂きたいと思っていますので、よろしければ今しばらくお付き合いくださいませ。



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