182 私と王家と似た者親子
(……ん?何?今の顔)
陛下の表情に謎の違和感…というより既視感を覚える。
(なんだっけ…?うーん、思い出せない…)
「そうか…。お前もそんな相手を見つけるような年になったのだな、アレクシス。エリオット同様、お前にもふさわしい家門の令嬢を見つけてやろうと密かに楽しみにしていたのだが…」
「不要です。僕は彼女にしか興味がありませんから」
「しかしな…よく考えてみろ、アレクシス。彼女の出自はスラム、しかも孤児だ。今はヴェルナー家の養女だが、それでも男爵家と我が王家とでは釣り合いが取れない。それを良しとしない高位貴族からの反発は必至だろう。彼女だって今後、どれほどの嫌がらせを受けるかもわからない。愛しい女性にそんなつらい思いをさせてお前は平気なのか?」
「…それは…っ」
「悪い事は言わない。お前にはそれなりの地位の令嬢を見繕ってやろう。彼女は…そうだな。側妃にでもすればいい」
さっきまでのいい雰囲気から、どうにも雲行きが怪しい。
(あれ…?なんで感動の対面から、急にそんな話になってるわけ?)
急激な話の展開を訝しんでいると、周りの空気も若干おかしい事に気付く。
ハリエット候は静かに目を閉じ何も聞こえていないかのように顔を背けている。ヴィクター様は眉間にしわを寄せため息を漏らし、エリオット殿下は…なんであんなにニヤニヤしてるの…?
(なに?…この微妙な空気感…)
そんな中、アレンだけが苦しそうに思いつめた顔をしている。
「ステラ嬢はどうだ?アレクシスにも立場がある。これの事を思えば側妃でも構わないだろう?」
国王が私を見る。その目を見て……気づいてしまった。
(ああ、そっか…。わかった、この人…)
私はハァ…とため息を漏らすと国王の質問にはっきりと答える。
「いえ。私は側妃なんて絶対に嫌です。自分の好きな人を独り占めできないのなら、一生一人で生きていく道を選びます」
「…ス、ステラ…っ!」
アレンが慌てたように私を見る。
「ほう、そなたはそんなに簡単にアレクシスの事を捨てるのだな。二人の愛というのはそんなものか?」
陛下が楽しそうにそう聞く。私は、立場も忘れ陛下の顔を下から睨みつけた。
「……ローライ国王陛下。今…楽しんでますね?」
「……ん?」
陛下が口元に笑みを浮かべて首を傾げる。
「アレンにいじわるをして楽しんでいらっしゃるでしょう?」
「さて…なんのことかな?」
白々しくそう答え、目を背ける。やっぱり…。
「惚けてもだめです!久しぶりに対面した息子に昔の面影を重ねてからかっていらっしゃるでしょう?確かにオタオタするアレンはかわいいですが、遊ばないでいただけますか!」
「なぜわかった?」
陛下がいたずらっ子のようにキラキラした目で私を見る。
(そりゃ分かるわよ…。私をからかって遊んでる時のアレンに目がそっくりなんだから…)
「同じようないたずらをする人が身近にいるもので…」
ごにょごにょとつぶやき、チラッっとアレンに目を向ける。すると陛下が我慢できないというように楽し気な笑い声をあげた。
「はっはっは!そうかそうか。ステラ嬢はなかなか勘が鋭いな。面白いっ!!」
そんな陛下を、アレンがポカンと見つめる。
「しかし、アレクシス…。お前、そんな事で大丈夫なのか?そんな気弱な調子ではすぐにステラ嬢に見限られてしまうぞ」
陛下の楽し気な様子に、アレンがギュッと唇を噛む。
「からかうなんて…ひどいです、父上。……僕は、彼女をこの手に入れるまで、随分と遠回りをしてきたんです。絶対に手放したくありません。でも…彼女の苦しむ姿はもう二度と見たくない…。僕が王家に戻る事で彼女が苦しむというのであれば…僕はただのアレンでいい。アレクシスの事は死んだと思って諦めてください…父上」
アレンが苦し気に眉間にしわを寄せ、片手で目元を覆う。すると今度は陛下がアタフタと慌てだした。
「い、いや…それは困る…っ!折角戻った息子をそう簡単に手放す気はない。悪かった…っ。少し冗談が過ぎたようだ。いいだろう。彼女に何か言う者がいたら私の権限で断罪してやろう。だから、考え直せ…!」
すると、
アレンの口角がニヤリと上がる。
「……約束ですよ、父上」
一転、アレンが満面の笑みで顔を上げると両手を広げ、ムギュっと私を抱きしめた。
「ぐぇ…っ!」
く、苦しい…。あばらが折れる……!
「やったね、ステラ!父上の言質は取ったよ!これで僕たちは国王公認の仲だ。誰にも文句は言わせない!ああ、それからエリオット!お前も今後ステラに構うなよ!そして懐くな!近づくな!」
急に矛先を向けられたエリオット殿下が、不機嫌そうに言い返す。
「懐いて何が悪いんですか?僕だってステラの事大好きなんですよ。それにこれからは姉になるかもしれない方です。まあ、兄上が捨てられなければですけどね」
そう言って鼻で笑う。
「お前…かわいくないな。学園での評判と全然違うぞ」
「僕のこれは兄上専用ですから。久々の対面を台無しにしてくれた恨み、僕は忘れていませんからね」
「……なんの話だ?」
再び始まる兄弟げんか。また始まったと呆れながら見ていると、そんな二人を愛おしそうに見つめる陛下と目が合った。陛下がやれやれといった風に肩をすくめる。その仕草に私も笑顔を返す。
「ステラ嬢、さっきは失礼な事を言ってすまなかった。本心ではない。許してくれ」
「いえ。私がスラムの孤児なのは紛れもない事実ですからどうぞお気になさらないでください。それに私、その事実を気に病んだことは一度もないんです。生まれは自分では選べませんし孤児になったのも私のせいではありません。だからそれを理由に受ける評価で心を痛める必要はないと思っています。あ、あと陛下に気にかけて頂いた嫌がらせも、結構免疫はついてますのでご心配なく!負けない自信しかありませんので!」
ドンッ、と胸を叩く私を、目を見開いて陛下が見つめる。
「アレクシスよ……。お前の想い人はなかなかに豪儀だな」
「はい。そんなところが愛しくてたまりません」
アレンの惚気に国王が微笑む。
「昔……同じような事を言っていた女性がいたよ。彼女はステラ嬢とは全く真逆の立場の人間だったが…やはり同じような事を言っていた。私たちは、親子そろって同じような女性に惹かれるようだな」
「もしそうなら、僕たちは二人とも女性を見る目があるという事なのではないでしょうか?父上」
アレンの言葉に陛下が再び、楽しそうに笑った。
「ははははっ!確かにそのようだ。ルイーズもなかなかに気の強い女性だったからな。でも…いい女だった。彼女以上の女性にはもう二度と巡り合う事はあるまい…」
陛下が静かに目を伏せた。
「お前は…絶対手放すなよ、アレクシス。大切なものならば命を懸けて守り抜け。そして絶対に後悔しないように生きろ」
「はい。もちろん、そのつもりです!」
アレンが力強く頷いた。
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