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163 オレと土の魔法士と再会

兵士に同行し、たどり着いた屋敷は古城といった趣の建物だった。


ロクシエーヌの建築様式とはだいぶ異なる事から、王国になる以前からここにあった建物なのかもしれない。


石積みの外壁は色味も装飾もない分派手さはなく、所々風化している部分もある。小さめに(しつら)えられた窓から入る光も微々たるもので、昼間だというのに薄暗く、なんだか寒々しい。


人の気配が全く感じられないのも、その理由の一つかもしれない。



(この領はいったいどうなっているんだ……)



「主はこの先においでです。どうぞ」


促されて先に進む。


灯りの入る唯一の広間に通されると正面の玉座に座る一人の男と目が合った。


黄金に輝くトパーズの瞳に美しい銀髪。男と呼ぶにはあまりに若いその少年に、オレは見覚えがあった。



「お前もしかして…バーナードか?」



魔道士さながらに黒の長いローブを身につけた少年は、頬杖をついた姿勢から体を起こすと首を傾げ、気怠げに微笑んだ。


「久しぶりだね、アレクシス…。いや…今はアレンと呼んだ方がいいのかな?」


バーナードはゆっくり立ち上がるとおぼつかない足取りでオレの前に立った。


「バーナード…どうしてお前がここに…?留学しているんじゃなかったのか?」


彼はそれには答えず、オレの肩にそっと自分の頭を乗せた。



バーナード=アドラム。



現宰相パイロン=アドラムの一人息子でアドラム家の嫡男。歳は確か、ルーカスと同じ14歳だったはず。

黄金色(トパーズ)宝石眼(ジュエルアイ)を持つ彼は生まれた時から誰よりも強い魔法力を操る事が出来た。


神童―――。


幼い頃から将来を期待され、他国に留学していたと聞いていたのに…。


そんな彼がどうしてこんなところにいるのだろうか―――。



「ああ…本物のアレクだ。その髪色よく似合ってるね。瞳の色もすごくきれいだ。遠隔眼でいつも見てたけど間近で見る君はやっぱり違う…」


バーナードはそう言ってオレの顔を両手で挟む。


「ずっと会いたかった。生きててくれて本当に嬉しい。これも全てステラ嬢のおかげだね」


「……!」


彼の口からステラの名が出た瞬間、スッと血の気が引いた。


「……なぜお前が…ステラの事を知ってるんだ?遠隔眼って…っオレの事ずっと監視してたのか…? いつから…」


バーナードの細い手首を掴むと、彼はオレの顔からそっと手を離し静かに微笑んだ。



「ずっと…」


「ずっと…?」


「あの夜…君が王太子宮から連れ去られるのを()()()()以来ずっと。今日まで9年間…ずっと君の事見てた」



オレの腕から力が抜ける。



「やっぱり…あの時見たのはお前だったのか…あの日オレの部屋にいたのは…あの瞳…あのトパーズの宝石眼(ジュエルアイ)…っお前か!オレにこの変身魔法をかけたのは…っ!お前だったのか?!」



この瞳に覚えがあった。

9年前、何者かに連れ去られたあの夜…。


物音に気付き目を覚ましたオレの視界に入った一組の宝石眼(ジュエルアイ)。部屋の隅に佇み、じっとこちらを見つめる金色の輝き。


「あの時オレの部屋にいたのは確かにお前だった。目が合った瞬間意識を失くし、気がついた時オレは別の容姿でスラムに居た。なぜお前があの場に?知っていたのか?オレが連れ去られることを…っ!お前はあいつらの仲間なのか…?!お前の父親は…パイロンとベアトリーチェは一体何を企んでいるんだ!!」


矢継ぎ早に問うオレからバーナードはそっと離れる。そして元居た玉座に腰を下ろすと静かに息を吐いた。


「ごめんね。ちょっと立ってられなくて…。魔法力が底をついてるから起きてるのもしんどいんだ」


だるそうに息をつく。そう言われれば顔色もひどく悪い。


「大丈夫なのか…」


思わず声をかける。


「ふふ、相変わらず優しいね。だから心配なんだ…。いざという時、君は非情になれないから。僕が悪い奴の仲間かもしれないのにそんな言葉をかけてしまう。その点においてエリオットの方がよっぽどラングフォードの血筋だよ」


「……」


「だからね、僕は協力した。君を守るために。君を王宮から逃がすための手伝いをしたんだ。ベアトリーチェ様の願いでね」


「…なんだって?」


「本当ならあの日、君はあの場で殺されるはずだったんだ。父の指示を受けたディケンズと2人の傭兵の手によってね。でも、その情報を事前に掴んだベアトリーチェ様が自分の兵と入れ替えた。そして僕をあの場に送り君の容姿を変えさせ王宮から連れ出したんだ。君の容姿は目立つから…父の目を誤魔化すためにはどうしてもその必要があった。君の命を守るために。何としてでも生き延びてもらうために…。それがルイーズ様への償いになるからと…」


「償い…?それじゃあ…母上を殺したのはやはりベアトリーチェだったのか…」


「それは…違う」


「違う?!じゃあ誰が母上を殺した?!」


「殺したのは当時ルイーズ様の侍女頭を務めていた女性、フィリアだよ。毒を混ぜた紅で少しずつ衰弱させていったらしい。ベアトリーチェ様が気づいた時にはもう手遅れだったって」


「侍女頭…?ベアトリーチェを侍女に選任した侍女頭かっ?!なぜ彼女がそんな事を…」


「すべては父であるパイロンの指示だった。父はどうしてもベアトリーチェ様を王妃にしたかったから」


「……っ!」




なぜ……っ!!




バーナードの話は確かに辻褄が合う。けれど…パイロンとベアトリーチェの行動がちぐはぐで理解も納得もできない。


「君は何も知らないから…混乱するのも無理はないと思う。でもね、ベアトリーチェ様はずっと父から君たちを守ろうとしていたんだ。この9年間ずっと…たとえ恨まれる事になっても…」


「わからない…。なぜ彼女がそんな事を…。そもそも二人はグルじゃないのか?二人で画策して母を殺しその地位を奪う。それが真相なんじゃないのか…」


「そうだったら…僕ももっと気が楽だったんだろうけどね。でも…そんな単純な話じゃないんだ。すべては父が…父が彼女を…ベアトリーチェ様を愛してしまった事が過ちの始まり。この悲劇の元凶なんだ」


「……っ!!」



本日も最後まで読んで頂きありがとうございました。


ここ数話アレンがずっと「……っ!」な感じです。

これからまだまだ「…!」とか「…?!」が続く感じです(笑)


次回もどうぞよろしくお願いします(*^_^*)


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