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151 私と初めての降誕祭(一日目) 2

恐る恐る顔を出し彼女が指さすステージを見ると、なぜかそこにアンネローゼ様の姿があった。フルートを片手にこちらに向かって手を振っている。その笑顔に癒されながら同じように手を振り返す。


へぇ、アンネローゼ様って音楽部に所属してたんだ。知らなかった。


「あ、あちらにはエリオット殿下がいらっしゃいますよ」


言われるがまま顔を向けると、いつもの制服姿ではない正装のエリオット殿下がいた。


全身を白でまとめ、裾の長いジャケットの肩口と胸元には華やかな金糸の刺繍が施されている。中に身につけている濃藍(こいあい)のベストにはキラキラと輝く金ボタン、白い立襟シャツの胸元にはふんわりと結んだアスコットタイ。結び目を藍晶石のリングで止めている。


(わぁ、まるで王子様みたい…)


いや、違った。本物だった。


それくらい今日の殿下は輝いて見える。


(そりゃ、令嬢たちが騒ぐのも分かる気がするわ)


ピアノの前に立ち、はめていた真っ白なグローブを外す。

そんな殿下に、アンネローゼ様が二言三言話しかけ彼女の指がこちらを指す。促されるように見上げた殿下と目が合った瞬間、彼が嬉しそうにニカッと笑った。あまりに子どもっぽいその笑顔に思わずドキッとさせられる。


(なに、今の笑顔。かわいい過ぎるんだけど…。殿下ってあんな風に笑う事もあるんだ。ああ、びっくりした)


でもどうやら、びっくりしたのは私だけではないようで…。


会場のあちらこちらから、令嬢たちのどよめきと黄色い嬌声が一斉に上がった。


「み、見ました?!エリオット様がお笑いになりましたわ!」


「なんて無邪気な笑顔なの?!あんなお顔今まで見た事ありませんわ…っ」


「尊い…。眼福です…っ!もう一生この目は洗いません…っ!!」




(こ、怖い…)




行ったことはないけれどアイドルのコンサートってこんな感じなんだろうか?


肩口で小さく手を振る殿下に、私も小さく手を振り返す。すると殿下はまた嬉しそうに微笑み、何を思ったのか今度は二本の指をそっと唇にあてこちらに向かって投げてきた。



それは所謂投げキッスというやつで。




すると、




ギャァァァ―――ッ!!!




と、


今度は会場中に地響きのような叫び声が轟く。

さすが講堂、その声が木霊のように反響し津波のようにぐわぁぁと押し寄せてくる。



「何ですの?!い、今の…っ!殿下がキ、キスを…っ!!」


「はぁぁぁ、私もう死んでもいいですわ…っ」


「あんな砕けたお姿今まで拝見したことありませんわ。今日はなんていい日ですの…」


「こっち…っこっちに向かって飛んできましたわよね?誰?誰に投げたんですの…っもしかして私…?」


「ちょっと…っ図々しいですわよ!そんなことある訳ないでしょ!分をわきまえたらいかがですの?!」


「あ、あなたに言われたくありませんわ!!」





カオス……。




やっぱり女って怖い…。




さて、その後どうなるか…私は知っている。

私は慌ててリリアの頭を押さえつけると、低く身をかがめた。


「ス、ステラさん?どうしたんですか?頭…痛いです…」


何が起きたかわからないと言った様子で、リリアが頭を上げようとする。


「ダメ!絶対外に顔を出さないで!」


観客席からは「ロイヤルボックスに誰かいる?」「誰?」というざわめきが聞こえてくる。


(ここにいるのが私たちだとわかったら殺されるかもしれない)


私は急いでリリアの眼鏡を外しおさげを解く。


「ど、どうしたんですか…ステラさん。わ、見えない…」


「いいからじっとしてて!ちょっと髪型変えるけど問題ないわよね」


リリアの髪をハーフアップに仕上げ、自分は肩にかけていたスカーフをほっかむりの要領で被る。


(こういう時、良くも悪くも目立つのよね、この髪色。いっそのこと染めちゃおうかしら)


そこに飲み物とサンドイッチを手にしたチェスが戻ってきた。昭和の泥棒のようないで立ちの私に思わず固まる。


「ええっと…どうかされましたか?ステラ様」


とはいえ、流石は殿下の側仕え。顔に多少の困惑は見て取れるものの、特に慌てる様子もなくすぐに笑顔を作る。


「いえ、ちょっと観客席が騒がしいもので…。あの、向こうからこちらが見えないようにする方法なんてない…ですよね」


チェスは持ってきたトレーをテーブルに置くと、観客席を見下ろしステージを見た。


「ああ、なるほど…。承知いたしました。()()殿下がご迷惑をおかけしたようですね。申し訳ありません」


軽く毒(?)を吐きつつチェスは近くの長い棒を手に取ると、桟の上部にあった薄手のカーテンを下ろしてくれた。


「これで客席からは見えません。安心して演奏会をお楽しみください」


そう言って、にっこり笑ってみせた。


(またって言ったよね、今。しかも迷惑って…。この子…無害な顔してなかなかいい性格してるのかもしれない)

本日も最後まで読んで頂きありがとうございました。


前々から出て来ていた殿下の側仕えに名前がつきました。

ステラはルーカスと同じくらいだと思っているようですが果たしてそうなのでしょうか。

因みにチェスはエリオットが3才の時から遊び相手として仕えています。


次回は明日の更新です。

どうぞよろしくお願いします。

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