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150 私と初めての降誕祭 (一日目)1

いよいよ始まった降誕祭、初日。


私&リリア+アンネローゼ様、時々エリオット殿下というラインナップで、前日まで焼き上げたクッキーはなんと500枚を超えた。昨年までの販売枚数からすると随分多いとは思うけど、私には「売れる確信」があった。


(例年のものより大きめでお得感もあるし見た目のインパクトもある。型で抜いた中心部分と余った生地を試食で出す予定だし食べてもらえたら、きっともっと食べたくなるはず)


来年以降の事も考え、価格設定は変えない事にした。


(こういうのって一旦価格を変えると元に戻しにくくなるからね。暗に安くするのは簡単だけど消費者は意外とシビアなのよ)


お風呂に入るまで体中がバターとお砂糖の甘ったるい香りに包まれ自分自身もクッキーになったような気分だったけど、皆一様にやり切ったという達成感が全身を包んでいた。


(おかげで昨日はぐっすり眠れたし、魔力も殿下に言われた通りのやり方で垂れ流しはなくなったみたいだし。目に見えないからイマイチ実感はないんだけど…)


クッキー作りの合間に殿下が教えてくれた「魔力を体周辺に留める方法」は至ってシンプルだった。


「おへその辺りに穴が開いてるイメージをして。そしたらその穴を塞ぐように呼吸を整えて…はい!息を止める!!」


「ふんっ!!」


アドバイスはそれだけだった。


「ステラは筋がいいね。それが無意識にできるようになったら一人前だよ。大丈夫。慣れちゃえば普通に呼吸するのと変わらなくなるから」


慣れるまでは時間がかかりそうだけどそれで長生きできるなら頑張るしかない。






「ステラさん、どうしました?早くしないとエリオット様の演奏始まっちゃいますよ」


無意識にお腹をさすっていた私にリリアが声をかける。


「ああ、ごめんリリア」


「どうしたんですか?お腹でも痛いんですか?」


心配してくれるリリアに「何でもないよ」と言葉をかけ、殿下が演奏を披露する講堂に向かって歩き出す。


「それにしても、すごい人ね…」


いつもは比較的静かな学園内が今日は大勢の人であふれかえっている。

どのくらいの混雑具合かというと、元日の某神宮の初詣に匹敵するくらい。


(貴族と平民が一堂に会するまたとない機会だもの。当然よね)


私たちはその人込みを縫うようにして歩き、いつもの倍の時間をかけて講堂にたどり着いた。

入場口は思った以上の混雑ぶりで外にまで行列が伸びている。並んでいるのは主に着飾った令嬢ばかり。


(もしかしてこれ、みんなエリオット殿下目当てだったりして…)


(かしま)しい声に圧倒されながら、聞こえる会話の端々に「殿下の…」とか「エリオット様の…」という名称が耳に入る。

これは中に入るだけでも相当時間がかかりそうだ。


「もう少し早く来ればよかったですね」


「そうね。まさかこんなに人気の催しだなんて思わなかった」


とりあえず入場列の最後尾に並んでみる。プログラムの進行表ではあと30分ほどで殿下の演奏時間になる。これは間に合わないな、と息をついたところで


「ステラ様にリリア様でいらっしゃいますね」


と声をかけられた。

振り返るとエンジ色のフロックコートを着た少年が立っている。


あれ?この子どっかで見た事が…。誰だっけ?


「えーと、あなたは…」


(わたくし)、殿下の側仕えでチェスと申します」


ああそうだ、思い出した。確かいつも殿下の後ろに控えている従僕2人のうち、右側の子だ。

見た感じルーカスと同じ年くらいだろうか。

明るいオレンジブラウンの髪にダークブラウンの瞳、人懐こそうな笑顔を浮かべた彼は、左手を腹部に当て美しいボウアンドスクレイプで私たちに礼をすると、


「殿下の(めい)でお二人をお迎えに参りました。さあ、どうぞこちらに」


と、慣れた仕草で私たちをエスコートしてくれた。


連れてこられたのは関係者口のような場所。狭い通路を通り階段を上ると小さな小部屋のようなところに通された。


「どうぞ、こちらでお待ちください。今お飲み物をお持ちいたします」


「え?ちょっと…」


静かにカーテンが引かれ、チェスが姿を消す。


(飲み物って…普通演奏会場は飲食禁止じゃない?)


「うわ~ステラさん、見てください。ステージがよく見えますよ」


リリアが小部屋の正面の窓枠から外を見る。促されて隣に立つと左手にステージとオケボックス、それに観客席が一望できた。


(ねぇちょっと待って…。もしかしてここって…)


咄嗟に窓枠から身を乗り出し()()()()を探す。


(やっぱり…っこれ、王家の家紋…っ!!)


テラスのように少しだけせり出した壁面の中心に描かれているのは間違いなくラングフォード家の家紋。


やっぱりここ、ロイヤルボックスだ…。

通常王家の人間しか入る事を許されない貴賓席。当然、一男爵家(いちだんしゃくけ)の令嬢ごときが入っていい場所ではない。


(い、いいのかなぁ…)


ビビる私を尻目にリリアが呑気な声を上げる。


「あ、あそこにいるのアンネローゼ様じゃありませんか?」




本日も最後まで読んで頂きありがとうございました。


当初クッキーは配布の予定でしたが、そこはステラなのでやっぱりお金を取る事にしました。

前のお話も既に修正済みです。


次回もどうぞよろしくお願いします。

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