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149 僕と考察と可能性

もちろんアンネローゼの事は誰よりもかわいいし、愛している。

一生添い遂げるのは彼女ただ一人だと心に決めている。


でも、それとは別の理由で彼女(ステラ)の事を愛しいと思う。守ってやりたいと、そう思う。



(この気持ち何なんだろう。僕って意外と気が多いのかな…)




ステラが「白き乙女」だと知った時、これまで座学で聞いただけの彼女(白き乙女)たちの末路が脳裏に浮かんだ。


全員が短命。

成人まで生きられた者はただ一人もいない…。


力のすべてを搾取され霧のように掻き消えた者、王家によって保護された後も力のコントロールができず枯れ枝のように痩せ細り絶命した者。


中でも初代乙女アルテイシアの末路は誰よりも悲惨で、聞いたその日は全く眠れなかった。


ロクシエーヌ建国の際、豊かな大国への礎を築いたのは無位のロクシエーヌと3人の仲間、そして聖女アルテイシアだったという。周辺の部族を戦で倒し、小国を従え、徐々に国の形にしていった彼らにとってアルテイシアはなくてはならない存在だった。

彼女は自分の命を削りながら仲間の傷を癒し、命をつないだ。


そして死の間際「アルテイシアの呪い」と呼ばれる瘴気の泉を彼の地に残しこの世から存在を消したという。


なぜ聖女と呼ばれる彼女がそんな呪いを残したのか…。


そこに至る詳細は、語り継がれる昔語りのどこにも記されてはいない。

時が経つにつれ徐々に薄れゆく真実を、今となっては誰にも知るすべもない。


ただこの「呪い」を我ら王家は「罪」だと学ぶ。

初代国王ロクシエーヌの最大の罪…我がラングフォード家が永遠に魂に刻んで生きていかなければならない罪なのだと。彼女の犠牲の上にこの王国が成り立っているのだと。


その(けが)れた地は今もなおこの国に存在し、僅かずつではあるが範囲を広げ大地を蝕み続けている。




(彼女を…ステラを…過去の乙女たちのような目に遭わせるわけにはいかない)


そのために僕には何ができるのか。


力のコントロール方法は教えた。魔力を補う方法も運よく見つける事が出来た。


あとは…、


「彼女を狙う者を排除するのみ…」


ヴィクターからの報告と僕の持っている情報とを照らし合わせ精査する。


ステラを襲ったのは金に困った貧乏子爵クラレンス家の嫡男スチュアート。奴とつながりが見えるダンフォード家は9年前、男爵から伯爵に陞爵(しょうしゃく)している。


(9年前と言えば、ちょうど兄様が死んだとされた時期…)


そしてその頃、ステラはスラム街で一人の少年を救っている。


(辻褄が合う)


王太子宮から連れ出された兄様がヴェルナー領のスラムまで運ばれ、逃げ出せた所を運よくステラに救われた。そう考えれば納得がいく。


じゃあ誰が、いったい何の目的で…?

目的はもちろん王太子の暗殺だろう。ならば黒幕は誰…?


それに髪色や瞳の色は?兄様の髪は輝く金糸のブロンド。瞳は深い緑柱石(エメラルド)だった。でも報告にある()()()は緋色の髪に藍の瞳だと言う。


(変身魔法…か?)


以前ステラに聞かれたことがあった。あの時は単なる興味本位だと思って聞き流していたけど…。


(もしかしてステラも、アレンという従僕の正体を探っていたのかな)


だが9年もの長い間魔法をかけ続けるには相当の魔法力が必要になる。いくら兄様の魔法力が強いと言ってもそこまでの持続は不可能だろう。


となれば、別に魔法をかけた人物がいる。


(長期の変身魔法が使えるほどの魔法力とコントロールを持つ者…)


今この国で上位魔法である変身魔法使える可能性のある人物を僕は一人しか知らない。


(アドラム家の嫡男で次期当主となるバーナード=アドラム…)


でも9年前と言えばあいつはまだ5歳。はたしてそれほどの力があったのだろうか…。


「……調べてみるだけの価値はある…かな」


スチュアートとダンフォード伯爵、彼の直属の上司となるアドラム家とその嫡男バーナード。それらをつなぐ「あの方」の存在。


「『あの方』とは、もしかして……」


確信はない。

だがそれなら、すべてにおいて整合性が取れる。


「それならなぜステラをねらう…?()()()が『白き乙女』を求める理由はなんだ…」


パズルを完成させるにはまだピースが足りない。



ステラの従僕である()も、一人で何かを探っているらしい。

ならば僕も…僕にしかできない事をしよう。


「王太子としてできる事を…」


ステラが教えてくれた僕が僕である意味。

()を救い()と共に生きてくれた彼女を、僕は何があっても必ず守り抜こう。

そう心に決めた。






気づけば、カーテン越しの窓から光があふれている。

思い切りカーテンを引くと、まばゆい光が一気に流れ込み室内を明るく照らす。

あまりの眩しさに、眠っていたヴィクターの口からうめき声が漏れた。


「おい、ヴィクター。いい加減に起きろ。王太子である僕をおいて寝るなんて、いい度胸してるね」


ハッと体を起こし慌てて手の甲で口元を拭うヴィクター。


(こいつ…よだれ垂らしてる…っ)


普段の彼からは想像もつかない仕草に思わず吹き出す。そして、彼も公爵家の皮を被って生きているんだな、と改めて思った。


「…苦労するな、お互い」


「…ん?…ああ…そう…だな」


まだ寝ぼけているのか、僕の言葉に曖昧な返事を返す。


「さっさと起きて支度をしろ。風呂に行け。身形(みなり)を整えろ。そしてその足ですぐにダンフォードの調査に向かうんだ」


「え…あっ!ああ、すまない…っ」


あわてて部屋を飛び出すヴィクターに苦笑する。



「ごめん、ヴィクター。君にはいつも感謝してるよ…ありがとう」



ドアの外に消えた彼に向かってそう小さくつぶやいた。




「さあ、僕はこれから学園に行かなくちゃ。その前にローゼとステラと一緒に朝ご飯を食べないと。ふふっ、おいしいものをたくさん作って貰おう。ステラは何が好きなのかな?」


食事をする、という行為を楽しめる自分がいる。その事が心底嬉しいと思う。


(やっと自分が好きになれたよ。ありがとう、ステラ)


そして僕は足取りも軽く部屋を後にした。




本日も最後まで読んで頂きありがとうございました。


今回はエリオット殿下視点でお送りしました。

聖女アルテイシアの史実は王家と公爵家にしか語り継がれていません。国民は国の守り神としてアルテイシアをシンボルにしています。王家がそう仕向けた過去があります。

アルテイシアは実は転生者でした。彼女も日本人です。


アルテイシアの物語も最後の方で書かせていただく予定です。

伏線は徐々に回収していきますので宜しければ最後までお付き合いくださいませ。


次回もどうぞよろしくお願いします。

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