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146 私とクッキーと試食会

殿下はなんで嬉しそうな顔をしてるんだろう?


「…?はい、リリアの婚約者のローレンス様が参加されるそうなんです。だから覗きに行こうかと思って」


「ローレンスってアークライト家の次男のローレンスの事?そうなんだ、彼リリア嬢の婚約者だったんだ」


へえ、と言いながら殿下がミルクのたっぷり入った紅茶を一口すすった。


「ローレンス様をご存じなんですか?」


「そりゃ知ってるよ。アークライト家は歴代近衛騎士団長を務める家門だからね。彼の兄もそうだけどローレンスも学園を卒業したら王国騎士団への入隊を約束されているんだよ。それくらい剣にも馬術にも優れているんだ。そっかぁ…ステラが応援に来るのか。じゃあ、僕も参加しようかな?」


殿下が左手でグッと拳を握った。


「え?でも殿下はどちらの部にも参加されていませんよね?」


基本、参加できるのは部に所属している生徒だけなはずだけど…参加できるの?


「僕にはねぇ、特別枠という枠を行使する権利が許されているんだ」


なぜかどや顔で胸を張る殿下。


「特別枠…ですか?」


「そう。王族は余計な横のつながりを持たないよう部活動に参加することは禁じられているんだけど、特例としてどの大会でも希望すれば参加することを許されているんだ。まあ、VIP待遇ってやつだね。出ても出なくてもいいんだけど君がローレンスの応援に行くなら僕も応援されたいし何なら優勝して褒められたい」


そんな子供みたいな理由…しかもすごい自信。


「でもエリオットは演奏会にも出るのでしょう?馬術も剣術も勝ち残れば3日間丸々拘束されますわ。それ以外にも式典や招待客のお相手もありますのに、大丈夫ですの?」


アンネローゼ様が心配そうに声をかける。


「演奏会は初日の午前中の合奏と最終日ラストのバイオリンソロだけだから何とかなるんじゃない?あ、演奏会も聞きに来てよ、ステラ」


「それはもちろん行かせて頂きますが…そんなハードスケジュールで大丈夫なんですか?」


王太子という立場上お忙しいんだろうとは思ってたけど。そんなスケジュールではたして楽しめるんだろうか。


「大丈夫。こう見えて体力はあるから安心して。それに大会に参加してれば招待客の相手はしなくていい理由になるだろう?むしろ好都合だよ」


確かに人の顔色を伺いながら接客をしてるより、学園行事に参加しているほうがよっぽど有意義かもしれない。


「わかりました。殿下の応援もしますから頑張ってくださいね」


「うん。優勝しちゃうから楽しみにしてて」


ローレンス様もいるし、さすがにそれはないだろうと思っていた私だけど、6日後これがとんだ勘違いだと知る事になる。




「ステラさーん。キャンディ固まったみたいですよ。そろそろ試食しませんか?」


リリアの声にそう言えばとクッキーの存在を思い出した。


「そうね。それじゃ天板から外してみましょう。割れやすいから慎重に」


並べる前に天板にはオイルを塗っておいたけど、うまく外せるかはどうかはやってみないとわからない。

オーブンシート…誰か作ってくれないかな。


薄いナイフを天板とクッキーの間に滑らせる。なるべく衝撃を与えないように水平に動かすと意外と簡単に天板から外すことができた。


(でも薄すぎると割れちゃうかも。本番はもう少し厚みをつけてもいいかもね。あと天板ももう何枚か用意してもらって回転率上げないと。間に合わないとか問題外)


一人でぶつぶつ言ってるとアンネローゼ様が待ちきれないという風に私に腕を絡めてきた。


「ねえ、ステラ!もう食べてもいいでしょ?我慢できないわ!!」


こういう仕草が自然にできる女の子ってホントかわいい。

こういう可愛いらしさがなかったから私の周りには全く男が寄ってこなかったんだろうな。

まあ、女も近づいてきたためしもなかったけど…。


「ステラ、僕も早く食べたい。食べていい?」


今度は反対側から殿下が同じように腕を絡めてくる。私は両サイドに未来の国王夫妻をぶら下げて身動きが取れなくなった。

どういう状況かよくわからないけど、とりあえず重たい…。


「いいですよ。味見してみてください」


「「「 頂きまぁすっ! 」」」


三人がそれぞれクッキーに手を伸ばす。私もピンクと黄色の色合いがとてもきれいなクッキーを一つ手に取った。光にかざすとうっすらと向こうが透けて見える。中に入った気泡もちょっとしたアクセントに見えなくもない。


(キャンディの薄さもこんなもんか。あんまり厚いと食べにくいしね)


おもむろに一口かじる。パキンッと軽い音を立てて口の中でキャンディが割れた。サクサクとしたクッキーの食感とシャリシャリと口の中で砕けるキャンディの音が何とも言えず面白い。


(うん、久しぶりに作ったけどおいしくできた。みんなはどうだろう?)


三人とも食感を楽しむようにしばらく咀嚼した後、ぱぁと顔を輝かせた。


「このクッキー何?食感が、僕の知ってるものと全然違う。サクサクしててホロホロしてて全然硬くない…。甘くてバターの香りが強くて…なんていうか、本気でおいしい…」


「ほんと…っ!すごくおいしい!このキャンディもパリパリ感とっても楽しいわ」


「ステラさん!!いけますよ、これ!!絶対に評判になります!もう私、一生あなたについていきますからっ!」


「ふふっ、喜んでもらえてよかった。本番はこの量の何倍も作らないといけないからちょっと大変かもしれないけど、頑張ろうね」



その後はみんなで楽しく試食会終え、明日からの作業に備えて解散した。





本日も最後まで読んで頂きありがとうございました。


クッキー作りは本日最終日です。あまり盛り上がりのない回で申し訳ありません。

次回は皇太子宮に連れ込まれたヴィクター様視点のお話の予定です。

色々と話のすり合わせが行われていることでしょう。


次回更新は明日です。

どうぞよろしくお願いします。

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