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144 私とステンドグラスクッキーの作り方

「コフィアゼリー…?」


三人はパフェグラスをじっと見つめる。

ちょっとした振動でプルルンと揺れる黒いゼリーは硬すぎず柔らかすぎずいい感じに固まっているようだ。


「コフィアって、あのコフィアなの?あんな苦味のある飲み物がデザートになるなんて。すごい発想だね」


はい殿下。いつもの事ですがこれもやっぱり私の発想ではないんです。考えてくれた人…以下同文。


「ゼリーには砂糖が入っています。その代わりにクリームの甘さは控えめにしてありますから、必要でしたらシロップを加えて召し上がってください」


そう言った私だが、殿下に毒味なしでは食べさせられない。


「まずは私が毒味をしますね。殿下はその後で…」


「おいしいっ!!」


おい、こら殿下。勝手に食べるとか、出会った時の警戒心はどこに置いてきちゃったんですか…。


「おいしいよ、これ。晩餐でよく出るゼリー寄せなんかとは全然違う。甘いのに苦味も残ってて、クリームと一緒に食べるとものすごくおいしい。ゼリーってこんなデザートにもなるんだね。大発見だよ。ねえ、もっとないの?おかわりしていい?」


「私はこの苦味、少し苦手ですけど…でもシロップを足したら食べられます。コフィアって初めて聞きますけど…飲み物なんですか?それをゼリーにしちゃうなんて…ステラさん本当に天才ですね!」


「おいしいわ!幸せ…。でもなんでこんなに冷たいのかしら?」


生クリームは定番だけど、できればソフトクリームを乗せて食べたい。

昔仕事帰りによく寄った某カフェのコーヒーゼリーが無性に懐かしい。

なんでこの世界にはアイスがないんだろう。


「皇女宮の敷地に残っていた雪を敷き詰めたんです。ゼリーは冷やさないと固まらないので。硬さもちょうどいいですね。うまくいって良かったです」


液体とゼラチンの割合で食感が大分変わっちゃうんだけど…うん、我ながらいい出来だ。プルルン具合が私好み。


「今回コフィアで作りましたが、紅茶でもできるんですよ。何ならミルクでも。果物だってものによってはゼリーにできますよ」


「ステラはすごいね。なんでそんなに物知りなの?そんな知識いったいどこで身につけたのかすごく気になるよ」


殿下が感心しきりと言った顔で私を見る。

そりゃね。前世で30歳近くまで蓄えてきた知識と人生経験は皆さんの比ではありませんから。

でもそんな事言ったところで信じてもらえるはずもなく、私はふふっと笑うと、


「さあ、そろそろクッキーの生地がいい頃ですね。作業を再開しましょうか」


とお茶を濁した。





「それじゃ、作業台に打ち粉をして生地を伸ばしていきましょう」


作業台に粉を広げ、生地の塊を置く。生地と麺棒にも軽く粉をはたき体重を乗せて平たく延ばしていく。冷やしていないので若干生地が柔らかいのが気になった。


「こんな風に生地を薄く延ばします。なるべく厚さが均一になるように力をかけて麺棒で伸ばしてください」


殿下がすぐにコツをつかみ作業台に大きく生地を広げる。


「次にこの型を使って生地を抜きます。少し柔らかいのでやりにくいかもしれませんが…」


本番は雪入りの即席冷蔵庫を用意した方がいいかもしれないわね。やっぱり本番を意識して試作してみて正解だった。本番は今日の10倍は作る必要がありそうだし、そうすると時間的に考えても一日では間に合わないかもしれない。


「うーむ…」


これはなかなか大変な作業になりそうだ。


(でも、俄然やる気が出てきた!)


忙しければ忙しいほど燃えるタチなのは自覚している。私がメラメラと瞳に炎を燃やしている横で、アンネローゼ様とリリアがきゃあきゃあ言いながら楽しそうに生地を型で抜いていく。


(二人とも楽しそう。かわいいなぁ)


「うん、ホントかわいいよね。見てるだけで癒される」


「ええ、ホントで……」


って、また考えてる事読まれてる?!驚く私に殿下がこちらを向いてへへっと笑う。

ホント何なの?アレンといい殿下といい怖いんだけど…っ。


「え、えっと…天板に移した生地をオーブンで焼いていきます。中途半端に残った生地も丸めて焼いちゃいましょう。あ、好きな形にしてもらっていいですよ」


「キャンディは?もう入れていいの?」


「いえ、まずは生地だけを焼きます。うすい焼き色がついたら一旦取り出し、真ん中にキャンディを入れてもう一度オーブンに入れます。キャンディが溶けたらそのまま冷えるまで待って完成です」


しばらくするとオーブンの中から甘い香りが漂ってきた。


「ふわぁ、いい匂いですねぇ」


リリアがスゥーっと思いっきり息を吸い込む。


「そろそろよさそうですね。さあ、開けますよ」


オーブンの扉を開くと、より一層バターのいい香りが室内に広まった。

焼き色もいい感じだ。


「それじゃ、さっき砕いたキャンディをクッキーの中心に入れてください。一色でもいいですし二色入れてもかわいいと思います。でもあんまりたくさんは入れないで下さいね。量が多いと食べづらくなりますから」


三人がワーキャー言いながら、楽しそうにキャンディを落としていく。天板の熱で徐々に溶けていくキャンディだが完全に溶けるまでにはいかない。


「さあ、これをもう一度オーブンに入れます。キャンディは焦げやすいので様子を見ながら。溶け切ったらオーブンから出して、固まったら完成です」


「楽しみだわ!早く出来上がりが見たい!」


アンネローゼ様が目を輝かせる。

料理にしろお菓子作りにしろ、こうやって喜んでくれる人がいる事が何より嬉しい。私が料理を始めたきっかけもまさにそれだった。


(初めての料理は小学生の低学年の時だったな…)



本日も最後まで読んで頂きありがとうございました。


今日は焼きまでの手順の説明になってしまいましたが…。

次回はステラ(紗奈)が料理を作るきっかけになった出来事を少し書かせて頂いてます。

あとやっとクッキー試食できます。


次回もどうぞよろしくお願いします。

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