139 私と魔力の取扱方法
我が家はこれから2時のおやつです。
「僕が以前、魔力について話したことは覚えてる?」
殿下が冷たくなったスープを一口すする。
「魔力を生み出す事が出来るのは白き乙女だけ…っていうお話ですか?」
「うん、白き乙女は自分の生命エネルギーを代償に魔力を生成する。だから何らかの形でそれを補わないと死に至る可能性もある。でもその方法は個によって違う…、そう話したよね?」
「はい。確かに聞きました」
「つまりね…君にとって魔力を補うもの…それがココアなんじゃないのかなと僕は考えたんだけど、どう思う?」
「……あっ」
「それがココアじゃなきゃいけないのか、それともココアに含まれる成分…例えばカカオとかポリフェノールとかに反応してるのかはわからない。それは今後確認していく必要があると思うけど、とにかく君の中の魔力はそれらの成分のなんらかに反応するんだと思う。これは本当に奇跡だと言っていいと思うよ」
「奇跡…?」
「そう。普通はそう簡単に見つけられるものじゃないんだ。何年も何年も探して見つからなかった例もある。見つかったはいいけどそう簡単に補える方法じゃない場合も、ね」
「あ…」
私は以前聞いた殿下の言葉を思い出した。
「食物で補えるなら…それもこんな身近なもので済むのなら、これほど幸運な事はないと思うよ」
そうか…あの疲労感とか倦怠感が急に消えたのはココアのおかげだったんだ。
でも…今までそんなの飲まなくても平気だったのに何で急に…?
「おそらく、階段から落ちた君は自分を守るために力の覚醒が進んだんだろう。カリスタ嬢の一件からバザー、某令息に刺されるに至るまで徐々にその力は開放し続けられてきた。そして今回の怪我。あの頭の傷はかなり深かったから治すために急激に魔力を消費した。今までは自分で勝手に回復できていた魔力量をはるかに上回る力が必要になり魔力の生成が追いつかず、外からの補給に頼らざるを得なくなった…という事かな?」
殿下の説明はすごくわかりやすかった。そうかそれなら納得いく。
っていうか、私の心の声…また読まれてる…の?
「君は顔に出やすいから、黙ってても分かるよ。でも、この状況はあまりよくないね」
「私の心の声が顔に出やすいという事でしょうか…」
確かにそれはすごくまずいと思う。プライバシーも何もあったもんじゃない。
「…まあ、それも良くないけど…。それ以上に君が垂れ流してるこの魔力…」
「垂れ流してる魔力…?」
どういう事だろう?私は真顔で首をひねった。
殿下は軽く息を吐くと、近くにあったナイフを手に取り自分の指先を切りつけた。
「なっ…!」
ポタポタと床に滴血が落ちる。けれどそれは一瞬で、フキンで血を拭うと傷は跡形もなく消えていた。
「手品…ですか?すごいですね」
「そんな訳ないでしょ。これは君の力だよ」
殿下は食卓の花瓶から一本の薔薇を抜き取ると、私の前に差し出した。
「この薔薇ね、僕たちがここに来た時にはしおれかけていたんだ。それがほら」
受け取った薔薇はまるで切りたてのように瑞々しく、つややかなベルベットの花びらにはしおれた様子は微塵もない。
「今この部屋全体が君の魔力に包まれているのが僕には見える。現に僕もこれまでにないほど体調がいい。こんな事今までなかった」
そう言えば…。
「先日、時期外れのチューリップの花を見ました。その花の持ち主は朝まで芽すら出ていなかったと言ってました」
「おそらく…君はこれまでの乙女の中でも特に魔力が強いのかもしれないね。もしかしたら初代アルテイシアほどの力を持っているのかも」
「でも…私今、光ってませんよ」
「…おそらく強く魔力を使ったときにのみ君にも光って見えるんだろう。あの光はもともと普通の人の目には見えないものだから。本来は僕たちのような魔法力を扱える魔法眼を持つ者にしか見えない。でもね、魔力は常に僕たちの周りを覆っている。君、今僕たちの周りの光が見える?」
殿下が腕を大きく広げて私を見た。
「…見えません」
「僕には見える。ローゼの周りには青い光、僕の周りは緑の光で覆われている」
「えっ、そうなんですか?」
「君の周りにも白い光が見えるよ。でもその光はこの部屋全体に広がっている」
「……」
「僕たちはこの光をアウラと呼んでいる。通常これは自分の周りに纏い、留めるものなんだ。僕たちは生まれた時から自然にできた事だけど、君には訓練が必要なのかもしれないね。今のままじゃどんどん生命エネルギーが削られていく。これから君が真に力を覚醒した時、それこそココアなんかじゃ補いきれないだろう。あっという間に死んじゃうよ」
「そ、それは困ります!!」
それじゃおばあちゃんになるまで生きられない!
「それならなおさら、力のコントロールを覚えるべきだよ。あっ、そうだ。君、しばらくここに滞在するといいよ。そうすればいつでも君に会えるし。その間に僕がコントロールの仕方を教えてあげる」
「え…でももうすぐ降誕祭なのに…。私、リリアとアンネローゼ様とステンドグラスクッキーを作らないといけないんです」
「…なんだって…っ」
殿下が目を大きく見開く。
「僕…聞いてないけど」
「…え?」
そういえば話してなかったっけ?でも今回は殿下も忙しいって言ってたしアンネローゼ様だけを誘うつもりでいたから話してないのは当然だ。
「もしかして…僕だけ仲間外れにする気だったの?」
殿下が恨めしそうな顔でこちらを見る。
「い、いえ!そんなつもりじゃありませんけど…。お忙しいんじゃありませんか?」
「忙しくない」
ふてくされ、子どものように頬を膨らませる殿下。
「そ、そうですか…。では殿下もご一緒にいかがですか?」
その言葉に殿下の機嫌は一気に直った。
「君に誘われたら断るわけにはいかないよね。ステンドグラスクッキーかぁ。どんなものかわからないけど楽しみだな。あ、何ならここで作るといいよ。まだ君を突き落とした犯人も見つからないし。ここなら警備は万全だよ」
そうですよね、知ってます。なんと言っても王城の敷地内ですからね。
そこに、控えめなノックの音が聞こえ、見慣れた殿下の従者が入った来た。
「殿下、ヴィクター様がご到着されました」
「やっと来たか。ずいぶん時間がかかったね。誰か連れている者はいるの?」
「はい。…ご令嬢をお連れです」
その従者がチラリとアンネローゼ様を窺った。
「わかった。サロンに通してくれ。じゃあ二人とも、真実を確かめに行こうか」
そう言って殿下は立ち上がった。
本日も最後まで読んでいただきありがとうございました。
ステラは魔力初心者なので殿下みたいな先生がいると心強いかと。
アレンは話したくても話せない柵があるのでおいしい所を全部エリオットに持っていかれてちょっとかわいそうですが…。
現在アレンは別場所である人物と対峙しています。それはまたいずれ。
次回は明日更新です。
どうぞよろしくお願いします(^^♪




