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138 殿下と『白き乙女』の履歴書

「君が初めてその力について認識したのはいつ?」


「えっと…」


私はこれまでの経緯を掻い摘んで殿下に話して聞かせた。

昔から病気にかかったことがない事、少しくらいの怪我なら一日ほどで治ってしまったこと。魔法の呪文「イタイノイタイノトンデケ」で人の痛みを和らげることができた事。


「初めて自分の体に異変を感じたのはカリスタ様の一件があった後です。カリスタ様に投げつけられたティーポットが頭に当たり火傷と怪我をしたんですが、あっという間に治ってしまいました」


かろうじて残ったのはたんこぶだけ。


「ああ、あの時の」


殿下も納得顔で頷く。


「その後もちょくちょく怪我はしていたんですが、自分は治りが早い!くらいにしか思っていませんでした!」


「そうなんだ。ステラらしいね」


「その後アンダーソン家主催のバザーに参加した際、子どもが池に落ちるという事故が起きまして…」


思い返せばあの時から、私の力に変化が起きた気がする。


「その子の呼吸は止まっていました。でもまだうっすらと脈はあって…。私どうしても助けたくて、強く願ったんです。そうしたらなんだか急に体が温かくなって、周りの空気が私達を包んだと思ったら、呼吸を取り戻したんです。その時は全身の力が抜けて起き上がれませんでしたけど」


「ふーん。強く祈る事によって力が一気に覚醒した…って事なのかな。伝承にあった通りだ…」


殿下がぼそっとつぶやいた。


「白き乙女について初めて聞いたのはある子爵のご子息に殺されかけた時です」


「え?殺され…?」


殿下の目が丸くなり眉間にしわが寄る。


「彼にナイフで脅され頬を少し切られましたが一瞬で傷が消えてしまいました。そしたら彼が、私の事を白き乙女だと言い出したんです。最初は意味がわからなくて…。でも彼は私の力を確かめると言って、短剣で胸を刺してきて…」


「……なんだって…?」


そう、あれはかなりびっくりした。


「その時は流石に死を覚悟しました。でも目を覚ました時にはやっぱりきれいさっぱり治ってて…。傷跡一つありませんでした。その時初めて『白き乙女』の伝説をヴィクター様に教えてもらったんです。だから…」


ヴィクター様を問いめるのはやめてくだいね、と続けようと思った私は、殿下の顔を見て思わず口を噤んだ。殿下の瞳に怒りがにじみ出ている。


(怖い顔…この顔今日これで二度目だ…)


「…誰?」


「はい?」


「その子爵令息ってどこの誰なの?」


「ああ、えっと…クラレンス子爵家のスチュアートです。ご存じですか?」


「…知らない。で、そいつは今どこにいるの?」


殿下の静かな怒りに、部屋の温度が10℃は下がった気がする。


「わ、わかりません。私を刺した後すぐに逃げてしまって…すぐに追いかけてくれた方も途中でまかれてしまったそうで今も行方が分かりません」


「きっちりとどめを刺せないとは情けないな。誰?そいつを追ったの」


「……」


ヴィクター様です…、とは言えず、思わず黙り込んだ。これ以上ヴィクター様の立場を悪くさせるのはあまりに忍びない。


「じゃあそいつは、初めからステラが『白き乙女』だと知って命を狙ってきたという事?」


「いえ、命を狙われたというより私の力を確認しに来たようでした」


私はスチュアートが「あのお方」と呼ばれる人間の指示で動いていた事を殿下に告げた。「あの方」が誰なのか私には全く見当もつかない。分かってるのは私の力を欲しがっている、という事だけ。


「あの方…か」


殿下が静かにつぶやく。しばらく何かを考えるように目線を落とし黙り込んでいた殿下だったが、やがて顔を上げ私を見た。


「…君が乙女だという事、ヴィクター以外に知っている者はいる?」


「…私の幼馴染が知っています」


「名前は?」


「…アレン」


「…それだけ?」


「はい。私たちはもともとスラムの孤児でしたので姓はありません。私も数年前までただのステラでしたし」


「「……!」」


二人が驚いたように息を飲む。あ、やばい。これってNGワードだったかも。


「申し訳ありません。隠していたつもりはなかったんですが…。身分違いは重々承知しています。本来なら気安く口を聞いていいお相手ではない事も…」


その言葉に殿下とアンネローゼ様が顔を見合わせる。


「でも決してお二人に害を成すつもりはありません。それだけは信じて頂けると…」


「何言ってるの?」


殿下は厳しい顔で私を見た。


「貴族だろうがスラムの住人だろうが関係ない。ステラはステラだよ。逆にそんな風に言われると距離を置かれたようで悲しくなる…」


殿下の隣でアンネローゼ様もうんうんと力強く頷く。


「でも、逆に納得した。ステラは僕の知ってる貴族の令嬢と大分違うから。スラムの孤児から貴族…。いろんな事を経験してきたんだろうね。そんなステラだから僕たちは君の事を好きになったのかもしれない。今度またゆっくり君の話が聞きたいな。約束だよ」


「ええ、私なんかの話でよければ喜んで」


私はにっこりと笑った。


「君の話を聞いて確信した。ステラが『白き乙女』だって事は間違いないようだね。それをヴィクターが国の法令に逆らい僕にまで黙ってたって事はつまり、()()()という人物が僕の身近な人間である可能性が高いと言うことか…」



ああ、なるほど…そういう事か!殿下頭いい!



「まあその辺りは、後でヴィクターを問い詰めるとして…」


あ、やっぱり問い詰められるのか。ヴィクター様、いつも貧乏くじ引かせてごめんなさい。


「今度は僕の方から伝えておかなきゃいけないことがある。ステラとココアと光の関係について」


私の喉がゴクリと鳴る。


「でも、その前に食事にしよう。他聞に漏れず温かい食事ではないけれど、味は保証するよ」


殿下がカトラリーを手にする。私達もそれに倣い各々食事を始めた。




本日も最後まで読んで頂きありがとうございました。


次回139話は明日の午後のおやつタイムを予定しています。

どうぞよろしくお願いします('◇')ゞ

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